15話 火竜
僕達は来た道を戻る。
ゴゴゴゴゴ
洞窟内が揺れ、小石が落ちてくる。ドラゴンが暴れているのだろう。流石に洞窟内までは追って来れないみたいだが…
「あのドラゴン、大分お怒りみたいにゃ」
「急ぎましょう!崩れたら洒落になりませんよ」
天井から落ちてくる石が徐々に大きくなっている。このままだと本当に生き埋めになってしまう。
ドラゴンの怒りは想像以上だ。財宝を盗まれた恨みは相当なものらしい。
「生き埋めは勘弁してほしいのぅ」
狭い道を抜けると、ようやく走れるようになった。
「リリスさん、あのドラゴンと戦う気はありますか?」
「いや、無理だ。カールちゃんじゃ無駄死にさせるだけだし、今のアタシじゃ従魔にさせるのは実力不足だろう」
「僕も同じ見解です。ではこの後の展開ですが、もしドラゴンが追ってきたら、予定通り僕とトモエさんで足止めします。僕の結界も多少は有効だったみたいですし。皆さんは馬車の所まで行って下さい!トモエさんもいいですね?」
「う、うん!わかった!」
「リーダー……やっぱりあのドラゴン追ってくるかにゃ?」
「仮定の話です。追って来ない事を祈りましょう」
そうこうしてるうちに出口に到着する。
「シャルルさん、ドラゴンの気配はしますか?」
「この出入り口のすぐ近くにはいないと思うにゃ」
「わかりました。エルノールさん、僕とトモエさんに炎の耐性強化の呪文をお願いします!」
「ああ」
念には念をいれておこう。何もないといいが。
「フレイム・レジスト」
僕とトモエさんの耐性が強化される。
準備が整った。僕は杖を構え、呪文を唱えながら走る。
「バリアグ」
洞窟を出ると同時に上方向に結界を張ると、
バッガァアン
洞窟を出たと同時に上から大きな岩が落ちてきた。
危なかった。念の為結界を貼っておいて正解だった。嫌な予感が当たる。
出入り口の上の方で僕達が出てくるのを待っていたのだろう。出てきた瞬間に岩を落とすって事は、向こうも僕達の気配が分かるようだ。
ドラゴンは知性が高く、人語を話す個体もいるといわれている。このドラゴンもかなり頭が良いのだろう。こっちに気配を悟られないようわざわざ離れた所から攻撃してくるとは……
野生の本能だけで動く魔獣とは格が違う。これが伝説の生物の恐ろしさか。
「エルノールさん!そっちは任せます!」
ドラゴンがゆっくりと降りてきた。
「アイシクル・レイン」
エルノールさんが呪文を唱えると、複数の氷柱がドラゴンにぶつかり、落下する。
「後は頼んだ!」
エルノールさんの置き土産だ。
「トモエさん!」
「まかせて!」
落ちてきたドラゴンの首目掛けて斬りかかる。装備しているのは、トルムルさんから借りたアダマンタイト製のバスターソードだ。
ズバッ
「固っ!」
一応切れたが浅い。ドラゴンにとってはかすり傷だろう。
でもトモエさんの本気でも剣は壊れていない。これで少しは希望が見えたか。
それにしても、Sランクの魔獣相手にこれだけ戦えるとは。トモエさんの成長は本当に目覚ましい。
ドラゴンは体勢を立て直すと、爪でトモエさんに攻撃するが剣で受け止める。だが、その衝撃で足が地面に減り込んだ。
そのまま押さえつけて顔をトモエさんに向ける。
ドラゴンの口元が揺れている。熱による陽炎だ。ブレスがくる!
「光の神イーリスよ!
今ここに天の光を降ろし、聖なる壁を築き給え。
迫り来る刃を砕き、猛き炎を退け、荒ぶる雷を散らし……」
ゴォオオオオオオオオオオ
「……我が仲間をその慈悲の御腕で包み守りたまえ!グレーターバリア!」
ドラゴンの口の近くに結界を張る。至近距離で結界に向かってブレスを吐いたため、炎が逆流、ドラゴンはのけ反る。
よし、この戦術は有効だ。結界を盾として使うだけでなく、相手の攻撃を利用することもできる。
でもタイミングがシビアすぎる。一歩間違えれば即死だ。
拘束が外れ横回転、その勢いで剣を横薙ぎに。今度はドラゴンの脚に深々と食い込み、倒れ込んだ。
頭が下がったな。トモエさんはジャンプしてドラゴンの顔に剣を振り下ろした。左の角が折れ、左眼が潰れ、牙が1本折れる。
「ぐぉおおおおおおおおおっ」
「やった!」
意外とやれている?2人だけなのに……
どうする?追撃か逃亡か……ええい、攻撃は出来る時にやる!
「トモエさん、追撃です!」
「わかった!」
「ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオエロォオオオオオッ」
その時、ドラゴンが咆哮し近くにいたトモエさんが吹き飛ばされる。なんて衝撃だ。
「きゃっ」
「大丈夫ですか?」
「う、うん」
さっきとは表情が違う。めちゃくちゃ怒ってらっしゃる。
ドラゴンは僕に向かって突進する。動きが速くなってる。結界が間に合わ……
「ホーリーバリア!」
ドゴォッ
目の前に結界を張るが、壊され僕は吹き飛ぶ。詠唱・魔力を練る時間が足りず十分な強度の結界を作ることが出来なかった。しかし、それがなければ致命傷になっていただろう。片脚を怪我しているのになんてスピードだ。
「アルフさん!」
「グオオオオオオッ」
地面に這いつくばった僕に追撃をするが、噛みつかれる寸前で止まった。トモエさんがドラゴンの尻尾を掴んで踏ん張っていた。
「させるかぁっ」
尻尾を反対側にぶん投げる。
「はぁはぁ、アルフさん怪我はない?」
「た、助かりました……」
怪我はしてるけど……右腕に肋骨数本ってところか。
くそ、僕の判断ミスだ。さっさと撤退すべきだった。
「光の神イーリスよ!血を止め、骨を繋ぎ、肉を修復し、苦痛を取り除きたまえ。この身は未だ戦いを諦めず、希望を捨てぬ者なり。その祈りに応じ、癒しの御手を差し伸べ給えセイントヒーリング」
骨折治療はお手のものだ。この2年間、何度骨を折られたと思ってる!トモエさんに……
今から逃げてもあの速さで終われたらすぐに追いつかれる。だったら狙うのは……
「トモエさん翼です!」
「うん!」
体勢を立て直したドラゴンがまた突進して来る。トモエさんは横にすり抜け、胴体を横から斬りつける。
それによりドラゴンの軌道がズレ、僕の横を通り過ぎた。
向きをまたこちらに向けるが、その隙にトモエさんがジャンプし、翼に剣を振り下ろした。
片翼が破壊される。
「光の神イーリスよ!汝の御手より放たれる聖なる鎖よ、天地を貫きて降り注ぎ、闇を纏う者を縛り上げ、その力を断ち、逃れ得ぬ牢獄に閉じ込め給え。汝の光は審判の鉄槌、邪悪を逃さぬ網……」
また突進するが、さっきまでのスピードはない。
「ここに捕らえられし者は、永き時すら縛られる!グレーターチェイン!」
光の鎖がドラゴンを拘束する。
「やったね。もう動けないよ!」
「今のうちに逃げますよ」
「なんで?あと少しで倒せそうだよ?」
「ドラゴンの生命力を舐めないで下さい!少し怪我した程度でまだ余裕ありますよ!」
僕達は逃げるために背を向けると、ドラゴンのブレスが襲う。
嘘だろ?あの状態で攻撃して来るなんて……結界にしておくべきだったか……
火耐性を上げてたおかげで丸焼けは避けられたけど、めちゃくちゃ痛い。しかも、僕の杖が焼けてしまった。
「と、トモエさん……生きてますか?」
「う、なんとか……エルノールさんに感謝だね」
ズン、ズンと足音が聞こえる。まさか今ので魔法の拘束が解けたのか?まずい、なんとかトモエさんだけでも逃がさないと。
炎と煙で僕達の正確な位置はバレてないはず。しばらく時間は稼げるだろう。
「光の神イーリスよ、我が祈りを聞き届け、傷を癒したまえ。ヒーリング」
治癒魔法の光がトモエさんを覆う。少しでも回復させないと。
ズン
足音が近づいてくる。今ので位置がバレたか……
「トモエさん、先に逃げて……」
しかしトモエさんは僕の上に覆い被さる。
ズン
「何してるんですか?今の治癒魔法の光で位置はバレてます!早く行って下さい」
ズン
「逃げないよ」
ズン
「ここでアルフさんを見捨てたら……お父さんとお母さんがいなくなった時みたいに、また心が死んじゃう…そんなの生きてる意味ないよ!」
彼女の瞳に宿る決意は本物だった。両親を失った悲しみを乗り越えて、新しい絆を築こうとしている。
そんな彼女を死なせるわけにはいかない。
「光の神イーリスよ!今ここに天の光を降ろし、聖なる壁を築き給え、迫り来る刃を砕き、猛き炎を退け、荒ぶる雷を散らし……
ズン……
僕達に影が覆い被さる。ついにドラゴンの手が届く位置まで来た。
「我が仲間をその慈悲の御腕で包み守りたまえ……」
爪で攻撃してくるが、
「グレーターバリア!」
結界で阻む。最後まで足掻かないとな。
説得しても彼女の意思は固いし、僕の力じゃこの子を引き剥がせない。だったら魔力が続く限り1秒でも長く……死なせない!
ドラゴンはガンガンと何度も攻撃し、結界を破壊する。
くそっ、もっと時間をかけれていたら、せめて杖があればもっと強い結界ができたのに……他のメンバーがいたら……
くそっくそっ、全部僕の判断ミスだ。
でも、ここで諦めるわけにはいかない。トモエさんが僕を信じて残ってくれたんだ。
最後まで、絶対に守り抜く!
「グレーターバリア」
「グレーターバリア」
「グレーターバリア」
壊されたら結界を張りなおすという作業になってきた。詠唱と魔力を練る時間が稼げないから徐々に強度が下がり、壊される時間も早くなる。
「ぐっ……ホーリーバリア!」
バリィッ
ついに上級の結界魔法を張れなくなり、一撃も持たなくなった。
ここまでか……
ドラゴンの顔がニヤけたように見える。そして最後の攻撃をしてきた。
「なぁにニヤけてんだトカゲ野郎」
ドゴォッ
ドラゴンが何者かに殴られて倒れる。
「やっぱりかてぇな、ドラゴンは……ひひひ、たまんねぇぜ。これでこそ殺りがいがあるってもんだ」
現れたのは獅子型の獣人族だった。ドラゴンを殴り倒すなんて……
「待て待て、お前この前も1人でやったろうが…今回は俺に譲れよ」
そしてもう1人現れる。今度は只人族の老人だ。
「あん?こういうのは早いもの勝ちだろう?」
「そりゃお前は斥候だから1番初めに見つけられて、真っ先にやり始められるだろうが、こっちは歳でそんなに早く走れねぇんだよ!」
「ちっ、わかったよ」
「おっなかなか良いもん持ってんじゃねぇか。この剣借りるぜ?依頼中の剣がまだ出来なくてよ」
只人族の老人はトモエさんが落とした剣を拾う。
「この剣はアダマンタイト製か?ワシが依頼中のやつとおんなじだな……ん?しかもこれトルムルのジジイが作ったやつか?」
老人は僕に尋ねる。その通りなので頷いた。
ドラゴンが起き上がってこっちを見る。
そして更に剣をまじまじと見ると、
「お前……これ…………」
ドラゴンが突進して来る。獣人族の男は老人がやるって言ったもんだから後ろに下がっていた。
「俺が依頼した剣じゃねぇか!」
老人が叫びながら剣を振り下ろすと、突進してきたドラゴンの首を両断。首を失った肉体は突進を続けるが、途中で力尽き倒れる。僕らはその光景を呆然と眺めていた。
一撃で……ドラゴンを一撃で倒した。
こうして僕らを苦しめたドラゴンは突如現れた老人にあっさり倒されたのだった。




