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14話 火竜の巣

 セーラー服問題で一悶着あったが、洞窟内の探索を開始する。


 入り組んではいたが、こっちにはカールちゃんとシャルルさんがいるからね。順調に進んでいった。

 分かれ道、カールちゃんが匂いを嗅ぎ、行くべき道を選ぶ。


「む、気をつけてにゃ。この先崖になってるにゃ」

「対岸まで10mくらいか……」


「ここは結界の出番ですね」


 僕は結界で足場を作る。

 結界の形は術者のイメージに左右される。

 ただ、広範囲だったり強度の高い結界だと、それだけ魔力を消費するから誰でも出来る事じゃない。あと呪文を唱えないといけないため、緊急時や連発は出来ないけどね。


 人によっては『神聖なる結界を足蹴にするな』っていう意見もあるけど、イーリス様はそんな小さい事は言わないだろう。

 もしイーリス様の意に反する使い方をしていたら力を貸してはくれなくなるはずだ。


「光の神イーリスよ!刃を砕き、術を退けたまえ!

我らに汝の加護を!ホーリーバリア!」


 結界を張り終えるとみんなで渡る。


「この使い方、最初は驚いたけど今では頼もしいな」

「確かに便利だ。普通なら迂回路を探すか、ロープでも使うしかないからな」


「しかし何度やっても慣れんのぅ」

「大丈夫にゃ、リーダーの結界はほらこんな飛び跳ねてもびくともしないにゃ」


「や、やめろシャルル!大丈夫とはわかってても怖いもんは怖い!」

 ブルーノさんは高所恐怖症気味なのか、足がすくんでいる。土人族は地下や洞窟には慣れているが、高いところは苦手なのかもしれない。


「ブルーノさん、下を見ないで前だけ見て歩いてください」

「わ、わかっとる……」


「しかしよくこんな方法思いついたな……結界の橋渡なんて」


「本当ですね。僕には思いつきもしなかったですよ。さすがトモエさんです」


「わ、私が思いついたんじゃないよ。元いた世界でそういう事してる物語があっただけだから」


 この方法を教えてくれたのはトモエさんだ。彼女が元いた世界アトラスではこういう風に結界を利用する物語があるという。

 それにしても物語か……異世界の文化は非常に興味があるな、僕の琴線に触れる物がいっぱいありそうだ。セーラー服しかり。


「他にも面白い物語があるんですか?」

「えーっと……魔法少女とか、異世界転生とか……」

「魔法少女!?」

 僕の食いつきが良すぎて、トモエさんが引いている。


 そういえば外では事あるごとに魔獣の襲撃に遭ったのに、洞窟内には魔獣が全く見当たらない。こちらとしては助かるんだけどね。

 ドラゴンが縄張りにしているせいだろう。やはりこの洞窟が当たりのようだ。



〜〜〜〜〜



「はぁはぁ、狭いよ〜きついよ〜、まだ着かないの?」


 僕達は今匂いを辿り、道なき道を進んでいる。自然の洞窟は当然同じ大きさの通路など存在しない。歩いて通れる所もあれば、今みたいに匍匐前進しないと通れない道もある。

 膝や肘が岩にぶつかり、服も汚れてしまった。トモエさんのセーラー服も泥だらけになってしまっている。

 でもこれも冒険の醍醐味だ。普通では味わえない体験ができる。


「あの、トモエさん?ここは洞窟ですよ?人口洞窟やダンジョンじゃないんですから……カールちゃんだって頑張ってるんですよ?」


「ふん、アタシのカールちゃんは鍛え方が違う」


「そんな事言ったって、私なんて元々ただの女の子なのに」


 やれやれ、彼女は争いの少ない平和な国で育ったらしい。ほとんどの道は整備されており、こういう道なき道など通ったことなどないようだ。能力持ちとはいえ仕方ないか。


「ほら頑張るにゃ、もうすぐ着くにゃ」


「やっとか、トモエじゃないけど私も洞窟は苦手だ」


「なんだだらしないのぅ、この程度で根を上げるなんて」


「そりゃ洞窟の中に国がある土人族だとこの程度の洞窟は物足りないでしょうが、僕達はきついんですよ?」


「なにそれ、結局みんなきつかったんじゃない!」


「そりゃ楽だなんて思ってませんよ。」


「アタシ達は冒険者なんだ。きついのも危険なのも承知でここに来てるんだから、いちいち泣き言言うなって事だ」


「そういう事ですよ」


「う、はい……」

 トモエさんはリリスさんの説教に項垂れる。


「着いたにゃ!」


 カニ歩きにならないと通れない狭い道を抜けると、広々とした空間が広がっていた。

 天井は無く、上から出入りしているのだろう。


 シャルルさんの感覚通り、ドラゴンは見当たらない。

「問題は本当にここであってるかって事だが……」


「間違いないにゃ、カールちゃんほど鼻は良くないし、ドラゴンの匂いなんて嗅いだ事ないけど、ここにはかなり強い魔獣の残り香がするにゃ」


 シャルルさんとカールちゃんは警戒を強めている。鼻をひくひくさせながら、辺りの匂いを確認している様子だ。


「とりあえず目的の物を探しましょう」


 奥の方へ行く道は上り坂になっている。坂を登ると傾斜の少ない平らな地面になっていた。

 そしてその一角に、宝石や鉱石の山があった。


「凄いにゃ、いったいいくらになるにゃ?」


「只人族くらいの寿命だったら一生働かなくて良さそうだのう」


ダイヤモンド、ルビー、サファイア…見たこともない美しい宝石が山のように積まれている。

 これだけの財宝を見ると、さすがにめまいがしそうだ。ドラゴンが財宝を集める理由がよく分からないが、その執着心は尋常ではない。


「お宝もいいがヒヒイロカネを探そう」


「ねぇ、もしかしてこれ?」


 トモエさんが手にしていたのは太陽のように赤く輝く鉱石だった。


「トモエ、見せてくれ!」


 トモエさんはブルーノさんに渡す。


「冷たいのぅ、表面が揺らめいて見える…エルノール、軽く炙ってくれんか?」


「火の精霊よ、小さき種火をここに灯せ。フレイム」

 エルノールさんが蝋燭の火程度の火魔法で炙る。


「あっちゃー!」

 熱かったのかヒヒイロカネを落とした。あんな小さな火で少し炙っただけなのに、なんて熱伝導率だ。


「ふぅふぅ……間違いない!師匠から聞いとった特徴と一致しとる」


 ブルーノさんが手を振りながら確認する。これだけの反応を示すということは、間違いなく本物のヒヒイロカネだ。

 ついに見つけた!トモエさんの剣の材料を。


「よし、急いでこれを持ち帰りましょう!」


「待つにゃ、リーダーはいつもせっかちにゃ。目の前に金銀財宝があるのに冒険者だったら持てるだけ持って帰るにゃ!」


「せっかちって……僕はただいつドラゴンが帰ってくるか分からない所にいつまでも居たくないだけですよ」


「わかってるにゃ。心配しなくてもウチとカールちゃんがいるから大じょ……」


 シャルルさんが固まる。尻尾がピーンと直立し脂汗をかいている。

 カールちゃんも尻尾が垂れ下がり怯えている怯えている。

 まさか……僕達は上を向く。空に先程までなかった小さな影があった。それが徐々に大きくなり、はっきりと輪郭が見えるようになる。

 間違いなくドラゴンだ。

 心臓が早鐘のように鳴る。ついに本物のドラゴンと遭遇してしまった。

 しかも相手の縄張りで、逃げ場の限られた洞窟の中で。


「皆さん!さっきの横穴に!」


 一斉に出口に向け走り出すとドラゴンの咆哮が……


「グォロオォオオオオオオ!」


 そして口元からチラチラ火が見える。


「ブレスが来るぞ!」


 僕達に向け口から炎を吹き出した。

 ゴォオオオオオオオオオオ


 しかし、途中で遮られる。あらかじめ貼っておいた結界だ。しかし広範囲で作ったため強度は自信がない。


「今のうちです!」


 ドラゴンが結界を破壊しようとしてるうちに巣穴から脱出した。


「こ、怖かった!」


「結界のおかげで助かったのぅ」


「いつの間に貼ってたんだ?」


「天井を確認した時に、ドラゴンの出入り口塞いどけば逃げる時間を稼げると思いまして」


「でも結界張ってたならお宝をもう少し持って帰ればよかったにゃ」


「僕の結界も万能ではないんですよ?結界の強度を超える力で攻撃されたら壊れちゃうんです」


「しかも相手は初めて相まみえるドラゴンだからな。どこまで持つかもわからん」


「それでも金銀財宝が欲しいなら行ってきてもいいでよ。いつ壊れるかもしれない結界に守られて…」


「わ、悪かったにゃ…」


「それでは皆さん、ポケットの中の物は一旦カバンにしまいますよ。荷物になると戦闘に影響しますからね。後で山分けしましょう」


 ちゃっかり回収したポケットいっぱいのお宝をトモエさんのカバンにしまう。


「えっ?みんないつの間に盗ってたの?ずるい!」

 トモエさんはヒヒイロカネをカバンにしまってたからね。そんな暇なかったんだろう。


「だから後で山分けするんですよ」


 正直、あの状況でよくお宝を回収する余裕があったなと我ながら感心する。冒険者の本能というべきか、貧乏性というべきか。


「ぐふふ、これでまた酒をたんまり買えるわい」

 ブルーノさんは鎧の下にたんまり入れていた物を取り出す。ポケットどころじゃなかったよ。僕の軽く10倍はある……よくそんなに入ったな、痛くなかったんだろうか?


「ブルーノ……お前どんだけ盗ってきたんだ」

「ホントにゃ……まるで金の亡者にゃ」

 エルノールさんとシャルルさんがドン引きしている。しかし、そう言うシャルルさんの胸は不自然に膨らんでいた。

「お主には言われたくないわ!」


 シャルルさんも自分が盗った物を取り出す。ブルーノさんと同じくらいあった。ブルーノさんは鎧の下に入れてたから体型変わらなかったけど、シャルルさんは明らかにオッパイが大きくなっていた。

 そんな所に入れてたのか……あれは僕が貰うとしよう。


「シャルルさん、そんな所に入れて痛くなかったですか?」

「う、うん…ちょっと痛かったけど、他に入れる場所がなかったにゃ」

 顔を赤くして俯くシャルルさん。可愛いじゃないか。


「リリスさんも回収したんだ……あまりそういうのに無頓着だと思ってたのに」


「あぁ、“闇鍋”に入る前は借金があったからな。アタシもお金の大切さは身に染みてる」


「さて、お宝を入れ終わったらさっさと撤収しますよ。ドラゴンに暴れられたらこの洞窟も崩れて生き埋めにされちゃいますからね」


 みんな頷いた。僕達は出口を目指す。

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