11話 話し合い
僕達は宿に集まる。
「全員揃いましたね。それでは今後の事について話し合いましょうか」
僕は今日の出来事をメンバーに話した。
「ドラゴン…ついに挑む時がきたか!」
「ひぇ〜、うち大丈夫かな?」
「…………………」
「今回の仕事は依頼じゃありません。トモエさんの武器の素材を集めるという私的な事です。それも踏まえて受けるかどうか皆さんと話し合いたいと思います」
「何言ってる。行くに決まってるだろう!ドラゴンなんて目撃情報すら滅多にないんだ!このチャンスを逃すことはない!」
ドラゴンが出ると聞いてリリスさんがいつになくやる気だ。
「エルノールさんはどうです?」
「……私は反対だ」
「なんだと?」
「今の私達のレベルでドラゴンに挑むのは危険だ。私は死ぬとわかっている事はしたくない」
「はっ、森人族の臆病風がでたか」
「なんだと!」
リリスさんの挑発にエルノールさんの表情が険しくなる。森人族は誇り高い種族だけに、臆病者呼ばわりは最大の侮辱だ。
でも今回ばかりはエルノールさんの意見も理解できる。妻がいる身としては、無謀な冒険は避けたいだろう。
「リスにもビビって逃げてそうだな」
「リスとドラゴンを一緒に語るな!あんなかわいい生物……危険度が全然違うだろ!」
言い合いがヒートアップしていく。
パァン!僕は手を叩き注目を集める。
「そこまで!まずリリスさん、別にエルノールさんは臆病ではありません。ドラゴンはSランクの中でもトップクラスで危険な魔獣です。“闇鍋”の中でSランクに到達しているのはトモエさんだけ、しかもそのトモエさんが全力を出せる武器もない。この状態で挑んだら死傷者が出る可能性だってあります。勇気と無謀は違うんですよ?」
「ならどうするんだ!何のためにアタシ達を集めた?ドラゴンの所に行くためにじゃないのか?」
「もちろんそうですよ」
「えっ?結局行くのかにゃ?」
「皆さん前提が間違っています。今回の目的はドラゴンの巣にあるヒヒイロカネの入手。ドラゴンは相手にする必要はありません。」
「しかし、ドラゴンがいる以上戦わないといけないんじゃないか?」
「見つかればそうですね。要するに、僕達はドラゴンの巣に入ります。ドラゴンに見つからないように目当てのヒヒイロカネを入手してすぐに脱出。それで終わりです!」
シャルルさんの斥候技術があれば、ドラゴンの居場所を事前に把握できる。眠っている隙を狙えば、戦闘を避けることも可能だ。
「……それなら現実的か……」
エルノールさんも納得したようだ。
「うちも安心にゃ……でも見つかったときは?」
「すぐに撤退します。僕とトモエさんで殿を務める事になると思います」
「今回はリリスさんの意向に沿う形には出来ませんでしたが、必ずまたドラゴンと対時する時が来ます。でもその為にはリリスさん自身がSランクにならないと」
「分かってる」
「どちらが先にSランクに上がるか競争ですね!」
「嫌味か、“闇鍋”で二つ名があるのはトモエとお前だけだ。同じAランクでもお前の方が先に行ってる!」
「僕は個人的に依頼が来ますからね」
「でもみんなはいいにゃ、うちは斥候だからランクが上がりにくいにゃ。地味だし……」
「地味じゃないですよ!“背後から刺す人”って怖さがあるじゃないですか!」
「余計失礼だにゃ!」
場が少し和む。
「っていうか高ランクの斥候っているのかにゃ?」
「いますよ」「いるな」「おるぞ」
男性陣が被ってしまった。
「まず“地獄の番犬”というパーティにSランクの斥候がいますよ。シャルルさんと同じ獣人族ですよ」
「そうなのかにゃ」
「あとそのパーティには人族の剣士、魔人族の魔獣使い、森人族の精霊魔術師、土人族の戦士で構成されてます。彼等は異種族で構成されたパーティです」
「それってうちと被ってるにゃ」
「そうですね。だって“闇鍋”は“地獄の番犬”をモデルにしましたから。」
僕は最初から成功例を参考にしようと思っていた。異種族パーティの可能性を証明してくれた先駆者への敬意でもある。
「違うのは奴らは全員Sランクという事か」
「まぁワシらの上位互換だな」
「でも私達のパーティには神聖術師がいるし、負けてはないんじゃないかなぁ?アルフさんなんて、すぐ骨を直せるし!」
トモエさんが明るく言う。その前向きさに皆の表情も和らぐ。でもその前提はおかしくない?骨折の原因はあなただからね!
「いいんですよ。今は負けてたって、だって“闇鍋”は結成してまだ2年しか経ってないんですから。伸び代だらけですよ?」
「そうだな、アタシ達もいずれSランクになる。そしたら同じだ。」
「そうです!僕達は少しずつレベルアップしていきましょう!まずはトモエさんの武器の調達です!」
「わかった」
「仕方ないか」
「死なないようにせんとなぁ」
「緊張してきたにゃ」
「みんな…よろしくお願いします!」
トモエさんの言葉に、皆の表情が引き締まる。危険な任務だが、仲間のためなら力を合わせられる。これが"闇鍋"の絆だ。
とりあえずヒヒイロカネの入手に行く事が決定した。
コンコンコンとノックの音がする。
「おぅ、ワシじゃ!トルムルじゃ」
扉を開けるとトルムルさんが入ってきた。
トルムルさんは宿の部屋を見回し、「狭いのぉ……お前ら、いつか広い部屋に泊まれるくらい稼げよ?それともワシのひげでも質に入れるか?」
「誰が買うんだよそのひげ!」
ブルーノさんがが即ツッコミを入れる。
「で、首尾はどうなった?」
「とりあえず行く事に決まりました。これからそちらに伺おうかと思ってたんですが」
「おぅ、そりゃちょうど良かったのぅ。じゃあ詳しい場所を教えないといかん」
僕達はトルムルさんの説明を聞いた。
場所は王都から東にあるカズスール山脈、そこにドラゴンが縄張りにしている洞窟があるという。ドラゴンは火竜種だそうだ。
「トモエだったか?お前さんに渡すもんがある」
トルムルさんは背負っていた布に包まれた物をトモエさんに渡す。布を外すと大剣が出てきた。
「実は今滅多に壊れない丈夫な剣を作って欲しいと依頼がきとってな。これはその試作品じゃ。アダマンタイト製で重いがお前さんなら大丈夫じゃろ。」
アダマンタイトと聞きブルーノさんがふきだす。
「あ、アダマンタイト?何でそんなもんが?」
驚くのも無理はない。アダマンタイトはヒヒイロカネと同じくらい希少な金属。こちらもダンジョンでしか見つからず、滅多に出回らない。
「依頼主が持ってきたもんじゃ、ワシも久しぶりに扱うから多めに貰ってのう」
「いいんですか?他の方が依頼した物でしょう?」
「余ったアダマンタイトはこっちの好きにしていいって言っとったから大丈夫じゃろ。依頼主に渡す分は製作中じゃ。それより魂のこもったやつをな…ちゃんと返せよ?貴重なんじゃから」
「トルムルさん、ありがとうございます!もしドラゴンと戦う事になったら使わせてもらいます!」
トモエさんが大剣を手に取ると、「重い……でも大丈夫そう」と呟いた。
確かに重量感はあるが、彼女の怪力なら問題ないだろう。何より、これなら全力を出しても壊れる心配がない。
「試しに振ってみるといい」
トルムルさんの言葉に従って、トモエさんが軽く大剣を横薙ぎに振った。
ゴッシャァアアン!!
床板が真っ二つに割れ、下の階から悲鳴が上がった。
「「「「「「…………」」」」」」
ドタバタッと宿屋の女主人が血相を変えて飛び込んでくる。
「弁償ね」
「「「「「「えぇぇぇぇっ!?!?」」」」」」
僕達は全員で叫んだ。
「……じゃあワシはそろそろお暇するか」
トルムルさんはそそくさとドアに向かう。
「待てぇい!師匠が余計なこと言うから!」
「あほか!誰も部屋を壊せとは言うとらんわい」
ブルーノさんが止めるもトルムルさんは知らん顔。
「……で、誰が払うんだ?」
沈黙のあと、エルノールがぼそりと切り出す。
「……全員で割り勘にしますか」
アルフが冷や汗を垂らしながら提案する。
「うちパン代なくなるにゃ!」
ジルが耳を伏せ、涙目。
「ここは実行犯と世話係のアルフの支払いでいいんじゃないか?」
「「「賛成だ(にゃ)」」」
リリスさんが腕を組んで堂々と言い放つと、即座に全員がうなずいた。
「それなら通訳のリリスさんも……」
「残念だが通訳はもう引退した」
僕は必死に食い下がるもリリスはそっぽを向いて鼻で笑った。
「「そんな!」」
こうして、僕達はカズスール山脈のドラゴンの巣へと向かう決意を固めたのだった。




