1話 アルフ・ガーレン
僕の話をしよう。
僕の名はアルフ・ガーレン。
物心がつく前に両親が病死、教会が運営する孤児院で育った。
孤児院には貧しく親に捨てられた子、病や戦争、魔物に襲われ親を失った子などが預けられていた。
その中でも僕は恵まれていた方だった。魔力が高く、神聖術の素養があった。何より孤児院で面倒を見てくれていたシスター達から、
「アルフ君は将来きっと立派な聖職者になるわ」
そんな言葉を真に受けて、僕は純粋に神に仕える道を歩もうと決意していた。
あの頃は本当に純粋だったんだ…。
その為幼少より教会に入って聖職者の道に進み、神聖術師として修行を積んだ。
要領が良かったのか齢15にして大司教まで登り詰めた。周りからは「神童」「奇跡の子」と称賛され、僕自身もその気になっていた。まさか数年後に自分がこんな理由で教会を辞めることになるとは、夢にも思わなかった。
「光の神イーリスの御名のもとに、ここに立つことを許されたことを、まず感謝いたします。私は幼き日に孤児院で育ち、飢えと寒さ、孤独と不安の中で過ごしました。しかし、そんな私を包んだのは、イーリスの光でした。その光は、私に命を与え、未来を示し、そして生きる意味を教えてくれたのです。だからこそ私は、この身を神に捧げます。病める者を癒し、毒された者を浄め、呪われた者を救う。それが、私に与えられた使命であり、私が果たすべき務めです。神の愛は万人に等しく降り注ぎます。貴族であれ、農民であれ、孤児であれ、誰ひとりとして例外ではありません。私が掲げる杖は、力ある者を飾るためのものではなく、弱き者を守り導くためのもの。私が唱える祈りは、権力のためではなく、ただ救いを求める者のためにあります。どうか、私と共に祈ってください。この国に、世界に、光の神イーリスの慈悲と救済が広がらんことを。そして、我らが誰ひとり取り残さず、共に歩むことができますように。光の神イーリスよ、我らを導き給え。その御光のもと、私は大司教として全力を尽くすことをここに誓います。」
大司教を就任した際の演説での言葉だ。
同じ孤児院の子達は僕を羨望の眼差しを向け、特に僕に憧れ教会に入った2つ下のステラは失神までしていた。
そこまでか?大した事言ってないのに失神するほど興奮した後輩にドン引きする。
ステラは僕を「先輩」と呼び、まるで聖人のように崇拝していた。
「先輩のようになりたいんです!」
純粋な瞳でそう言う彼女を見ていると、罪悪感が湧いてくる。
しかし、この時は大司教としてこれから教会に貢献出来ることを嬉しく思っていた。
教会の階位は上から教皇、枢機卿、大司教、司教、司祭、修道士、一般信徒に分けられる。
僕は上から3つ目だ。
神聖術は精霊魔術と違い、神を信仰する事で神の力を借りる事が出来る。
その為教会で修行を積まないと神聖術は使えない。
神聖術で出来る事は主に回復や解毒、身体能力の向上、結界に呪いの解呪など。
怪我や呪いにかかると教会にお布施を払う事で治療や解呪をしてもらえる。
修行は厳しかったが楽しかった。
教会の仕事もやりがいを感じていた。
司祭や行事の管理、布教活動、治癒や解呪依頼、孤児達の面倒など苦ではなかった。
しかし、役職が上がった頃から異変を感じていた。
教会が神として崇める女神イーリス様。
その女神像を見ると動悸がするようになった。
最初は軽いめまい程度だった。でも日を追うごとに症状は悪化していく。
女神像の豊満な胸元に目が行き、そのたびに心臓が早鐘のように鳴る。
礼拝の最中に鼻血を出して倒れたこともあった。
「アルフ様、大丈夫ですか?」
心配そうに駆け寄るシスター達の胸元が視界に入り、症状はさらに悪化する。
他にも大人の女性と接していると同様の症状が出て来た。
ちなみに孤児院の女の子と接しても症状は見られない。 仕事が忙しく疲れているのだと思った。
ある日、教会に呪いを受けた女冒険者から解呪の依頼が来た。
ダンジョンで見つけた鎧が呪われているのを知らず装備してしまったようだ。
僕が担当する事になり、解呪自体は問題なく終わり、鎧を脱ぐことが出来た。
しかし、これまでの感じたことのない動悸、上半身は前のめりになり立つことも出来ず、何もしてないのに鼻血がふきだす。
「こ、これは…?」
「アルフ様!?一体何が?」
「わかりません。解呪に成功した途端この様に…」
病や呪いを疑われたが、なんの異常もみられなかった。
ちょうど大司教以上の役職の方々が視察にこられており、今夜街の教会の一室を貸し切り、会食の予定となっていた。
僕の症状についてなにか知っている事はないかアドバイスを求めて先輩達を訪ねた。
ちなみに僕は若いという理由で誘われていなかった。
中に入ると酒池肉林だった。
豪華な食事に様々な酒。娼婦だけでなく僕と年端も変わらない男娼もはべらせていた。
これが…これが僕が憧れ続けた聖職者達の真の姿だったのか。
孤児院で「立派な聖職者になりなさい」と言っていたシスター達は、この光景を知っていたのだろうか。
「み、皆様、何をなさってるんです?」
「あ、アルフ君?何故ここに?」
「こ、これはもちろん視察だよきみ、普段の市民の暮らしを知らないと人々を幸福になど出来ないだろう?」
「そんなわけないでしょう!見損ないました!」
僕は部屋を後にして自室へ帰る。
「どうして…」
僕は自信の異常の正体がわかった。
「どうして僕も誘ってくれなかったんですか!僕も大司教なのに!僕だって美味しいご飯食べたいし、お酒だって飲みたい。何より綺麗な女の人とイチャイチャしたい!」
思春期だ。
第二次性徴を迎え、これまで我慢していた欲求、特に性欲が爆発したようだ。
でも考えてみれば当然だ。15歳の男子が聖職者だからといって、そんな欲求を抑え続けられるわけがない。
むしろ今まで気づかなかった自分が異常だったのかもしれない。
あの会合は年に数回開かれているらしい。
ダメだ、今更参加したところでその程度じゃ足りない。何より僕は男娼には興味ない。改めて思ったが僕は胸の大きな大人の女性が好きなようだ。
それに僕がさらに昇進し教皇になったとして、これ以上回数を増やすのは危険だ。一般市民にバレると流石に教会の信用は一気に下がるだろう。
このまま教会にいても自由は得られない。
そこで思い出したのが昼間の女冒険者。
冒険者は命懸けだが、魔物の素材やダンジョンで出てくるお宝、それらの報酬で一攫千金を得ることが出来る。
そして、僕の野望がバレても信用が無くなることはないだろう。
そうだ!僕も冒険者になろう。そして高ランクの冒険者となり、その報酬で僕だけのハーレムを作って毎日酒池肉林を!
こうして僕はSランクの冒険者を目指すこととなった。
優秀な神聖術師は騎士団や冒険者ギルドから勧誘がくる。
もちろん僕の所にもいっぱい来ていた。
15歳の時、教会を辞め冒険者ギルドに登録した僕は当時Aランクだった“一角獣”に入った。
「お前クビな!」
そして一月後、リーダーのギルベルト・キースからクビ宣告をうける。
「ちょ、ちょっと待って下さい!いきなりクビっておかしいでしょう!そりゃ確かに冒険者ランクはまだ低いですけど、まだ冒険者になって1ヶ月ですよ?神聖術だって役に立っているはずです!」
「確かにお前の神聖術は役に立ってる。元大司教だけあって高位の回復や結界、バフ…物すごぉく助かってる」
「な、なら何が気に入らないんですか?」
「お前クレアとリーシャの着替えとか湯浴み覗いてるだろ?2人からクレームが来てる…」
リーシャ・フー(20)とクレア・エリーゼ(19)は“一角獣”の女性メンバーで、それぞれ弓使いと精霊魔術師だ。
出るところは出て引っ込むところは引っ込んでおり、顔が整っている。2人とも僕の好みなのだが、まさか覗きがバレていたとは。物音を立てないよう靴を脱ぎ、息を殺し……。我ながら職人レベルの技術だったと思うのだが、女性の勘というのは恐ろしいものらしい。
「そそそんな!ふ、ふふふ2人の勘違いでは?たまたまたま通りかかって視界に入っただけだけす!」
いけない!覗きがバレていた事に動揺を隠せず焦ってしまった。
「それとお前この前リーシャに治癒魔法かけたろ?」
「それは怪我をしたから当然でしょう?」
何を言っているのだこの男は。仲間が負傷しているというのに神聖術師の僕に何もするなと?
「治療中ずっと胸を揉んでたらしいじゃねぇか」
「そ、そそれはリーシャさんが胸を怪我したからで…直接触れた方が効果あるんですよ!」
言いがかりだ。たまたま胸を負傷したから胸に触れ治癒魔法をかけただけじゃないか。
「お前今まで“一角獣”の男メンバーにそうやって治療した事あんの?」
「……………ありません」
「だろうなぁ!俺もされた事ないしなぁ!」
「わ、わかりました!ちゃんとお2人に謝ります!そりゃパーティに不和を作っちゃいましたけど、そんなに怒らなくてもいいじゃないですか!お2人が怒るならともかく」
「リーシャはなぁ、俺の女なんだよ!テメェは俺の女の胸を揉みしだいたんだよぉ!このムッツリ野郎!」
こうして僕はリーダーにボコボコにされた後、クレアさんとリーシャさんの2人から、
「キモいんだよ!このむっつり童貞野郎!」
「変態僧侶!さっさと私達の前から消えて!」
と侮蔑の言葉をあびせられ(彼女達になじられて少し興奮したのは秘密だ)、“一角獣”はクビになった。
その後、当然その噂はギルド中に広がる。
あれだけ引くて数多だったのに、僕を入れてくれるパーティはなくなった。
ちなみに僕という不和がいなくなった事でパーティはさらに結束、数年後“一角獣”はSランクに昇格する。
冒険者の仕事は素材採取、魔獣の討伐、護衛など様々な依頼が来る。
依頼の難易度によりF・E・D・C・B・A・Sとランク分けされており(冒険者個人のランクとパーティのランクも同様)、当然高ランクの依頼は冒険者のランクを上げないと受ける事も出来ない。
戦闘に自信のある者はソロ活動をするが高ランクの依頼は1人で達成するのは困難な物ばかりで、どんな冒険者でも自然とパーティを組む様になる。
僕は1年ソロで活動を続け、なんとかCランクになったが限界を感じていた。
そもそも支援職の僕では敵を倒す事すら難しい。
仕方ない、誰もパーティに入れてくれないなら自分で作るしかないな。