表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/9

不穏な雨

それから数週間が経ち、快斗と陽香留は以前よりも自然に話すようになった。最初は少しぎこちなさが残っていたものの、互いに気を使いながらも、次第に会話が楽しくなり、時間が経つのを忘れることが増えた。放課後、陽香留が快斗に突然話しかけることもなくなり、代わりに二人で歩きながら話すことが多くなった。

ある日の昼休み、教室で他の友達と一緒に昼食を取っていた快斗は、何気なく隣の席に座った陽香留と話していた。陽香留は嬉しそうに笑いながら、快斗の話に頷いたり、軽く突っ込んだりしていた。その時、隣の席に座っていた友達の一人が、ちらっと二人を見て言った。

「なあ、快斗、お前と陽香留、最近すごく仲良くないか?」

その言葉に、快斗は思わず口を閉じて、少し照れたように返す。

「え? そんなことないだろ。」

すると、友達は眉を上げてにやりと笑った。

「いや、普通に見てても、二人の距離が縮まった感じがするんだよな。前はもっとお前が陽香留に冷たくしてるイメージだったけど、最近はよく話してるし、なんかいい感じに思える。」

陽香留もその言葉に気づいて、少し照れくさそうに笑った。

「まあ、少しずつ慣れてきたっていうか、快斗さんとも話しやすくなりましたし。」

快斗はムッとした顔をし、照れ隠しに頭をかきながら、「別に、そんなことは……」と口を濁したが、内心では少し嬉しい気持ちもあった。

「でも、正直言って、陽香留がこんなにお前に気を使うって、ちょっと意外だな。」友達がからかうように続けると、快斗は軽く肩をすくめて笑った。

「お互い、少しずつ歩み寄ってるだけだよ。嫌なこともあるけど、それでも一緒にいる方が楽しいからさ。」

その言葉に、陽香留はなんだか胸が温かくなるような感覚を覚えた。快斗がそんな風に言うなんて、昔では考えられなかったことだった。

「そうですね。」陽香留も少し照れながら答えると、友達は満足げに頷きながら、軽く肩を叩いて言った。

「いい感じだな、二人とも。お前たち、もしかして本当に仲良くなったんじゃないか?」

その言葉に、快斗は顔を赤らめて笑いながら言った。

「おい、俺たち別に……!」

陽香留はその反応を見て、思わず笑いながら言った。

「まあ、こんな感じでもいいんじゃない?」

友達が嬉しそうに笑いながら、「いいよ、仲良くしてるなら、それで十分だ」と言った。

その日から、二人の関係はさらに穏やかに、そして自然に変化していった。友達の言葉の通り、快斗と陽香留は確かに以前よりもずっと近くなっていた。二人の間には、照れくさいながらも確かな信頼が芽生え、それがどんどん強くなっていくのを、快斗は感じていた。

だが、一方で、こんなに信頼を寄せていても良いのだろうか、裏切られるのではないかという不安が募っていった。

その後、快斗と陽香留の間には少しずつ距離が生まれていった。初めは意識していなかったが、次第にその小さなズレが積もり積もって、次第に二人の関係が微妙に歪んでいくのが快斗には感じられた。

ある日、放課後の教室で、いつものように陽香留が快斗に話しかけてきた。

「ねえ、快斗さん、今日一緒に帰りませんか?」

その何気ない言葉が、快斗には今まで以上に重く響いた。以前ならすぐに返事をしていたのに、その日は口を開けることができなかった。陽香留の明るい声が、快斗の心にどこかしっくりこないものを引き起こしていた。

(どうして、こんなに意識しちゃうんだ……)

快斗は目の前の陽香留を見つめると、無意識に視線を逸らした。

「ごめん、今日はちょっと急いでるんだ。」

その言葉が口をついて出て、快斗は自分でも驚いた。陽香留は少し困った顔をして、優しく言った。

「そうなんだ……じゃあ、また今度ね。」

陽香留の言葉に、快斗は軽く頷いたものの、その後の空気にぎこちなさを感じていた。陽香留はすぐに教室を出て行ったが、その背中を見送る快斗の心には、何かが引っかかっていた。

その日の帰り道、快斗は一人で歩いていると、ふと陽香留のことを考えてしまう。どうして自分はこんなに距離を置いてしまうんだろうと、自問自答するものの、答えは見つからなかった。

(陽香留は普通に接してるだけなのに、俺が避けてるみたいになってる……)

その後も、次第に快斗は陽香留との接触を避けるようになった。学校で偶然会うと、すぐに話しかけられることは多かったが、快斗は適当に返事をして、そのままその場を離れることが増えた。陽香留が話しかけようとしても、快斗はわざと忙しそうにして、視線を合わせないようにした。

「また今度ね。」と言ってその場を去るとき、快斗の胸は重く、後ろから聞こえる陽香留の声が何故か怖く、遠くに感じられることもあった。

ある日、昼休みに食堂で友達と話していると、陽香留が入ってきた。目が合った瞬間、快斗はすぐに顔を背けた。陽香留が近づいてくる音が、快斗の耳に大きく響く。予想通り、陽香留は軽く手を振りながら声をかけてきた。

「快斗さん、今日はここで食べるんですか?」

その問いかけに、快斗はまた無意識に視線を外してしまう。

「うん、今日はちょっとこっちで。」

あくまでそっけない返事をした快斗に、陽香留は少し驚いたような顔を見せたが、すぐににっこりと笑い、「そうなんですね」と言って、別の席に向かっていった。

その笑顔を見て、快斗は胸が締め付けられるような気持ちになった。陽香留は何も気にしていないように見えるけれど、快斗の中では次第に何かが膨らんでいっていた。

(どうしてこうなったんだろう……)

その後、陽香留とのやり取りはますますぎこちなくなり、快斗は次第に陽香留を避けるようになっていた。陽香留は相変わらず何も気にせず接してくれるが、快斗はその優しさが、どこか痛くて、怖くなっていった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ