ひもの街2
実物は柔らかかった。
街に近づくにつれて地面は柔らかくなり足を取られそうだ。実際にシューは前へ派手にこけてしまったが、そのまま柔らかくバウンドして痛くなさそうだった。不安な足場の影響で立ち上がるのに難儀していた姿はバルーンの上のフィギュアの如くだった。
泥の柔らかさではなく、綿や布に見られるクッションの柔らかさ。腰をいわしそうな反動に身を揺らしながら、オイラは心を揺らす。やはり珍しいものに出会うことが旅の醍醐味である。
「ちょっと! 本当に柔らかいよ!」
「本当だ。これは驚いた」
シューはこけた時に汚れた衣服を手で払う余裕もなく、頭の大きいペンギンのようにヨチヨチ歩いていた。その姿に滑稽を感じるとともに、驚いている様子にも滑稽を感じた。それ見たことか、さっきと言っていることが違うじゃないか!
「シューは慣れて驚かないんじゃなかったのか?」
オイラはいたずらな口調。それに対してシューは淡々と返す。
「それはそれ、これはこれだよ」
ニヤニヤ意地悪な微笑を浮かべたオイラは知っている。
そうは言いながらも失態だと恥ずかしがっているんだろ? ムッとしているんだろ? 穴があったら頭から入って尻隠さずだろ?
……あれ? 言葉が違う気がするが、まぁいいっか。
「自分の言葉が自分に返ってきたからといって、投げやりな態度だね」
「文句あるのか?」
シューは屈んでオイラの腹をワシャワシャトとくすぐってきた。それはシューが討論で困ったときにごまかしでする動作である。オイラの勝ちだ。
それにしても、腹をくすぐられるのは嬉しい限りだ。初めは腹から背中に向けて寒気が伝わり鬱陶しくて気持ち悪かったが、今はこれがないと逆に気持ち悪い。変な癖を身につけられたものである。