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ひもの街1

1:ひもの街


【――物理学には、ひも理論、というものがある。それによって物理学、特に宇宙物理学は飛躍的に進歩したらしい。そして今も、日々進歩している学問があるだろう……】


ワープした。

 そう突然ワープした。いきなり未見の風景が真っ白に広がる。

 逆光に照らされ白いわけではなく、病院のカーテンのように白く。病院のようにと考えたら不吉な印象か安心な印象か、自分でも心の置き所はわからなかった。オイラは自分のけの白さがくすぶっていたことを見比べた。

「何がどうしたんだ?」

「驚くことか? まぁ、変わった街に近づいたんだろう」

 オイラの驚愕に対してシューは冷静に冷淡に冷ややかな目をオイラに下ろした。シューは相変わらずの黒い短髪をボサボサさせて不精だった。白のTシャツに紺のジーンズはいつも通りだった。

いや、少し変わったか? 仮に変わったとしてもオイラにはオシャレは興味の対象外だったのでどうでもいい。シュー自身もおしゃれに興味のない趣なので、変わっていても趣を変えたのではなく、意図せず違う衣服を選んでしまっただけだろう。

黒のリュックサックを腹に背負うシューは紺のハットをカバンに詰め込んでいた。邪魔になったのだろう。そのまま背中に滑らせてなに食わぬ顔をする。

犬のオイラには服もカバンも帽子も必要のないものだ。一時期は服を着せられたものだが、どうも体が落ち着かない。抵抗するうちに着る機会は撲滅された。

「よくそんな冷静にいれるな。オイラはおったまげたよ」

「いろいろな街を見てきだだろ? そろそろ慣れろなよ」

 オイラ達はいつもいろいろな街を訪れてきた。その中には奇妙な星の数ほどあったが、常にオイラの予想を超えてくる。そんなオイラをシューは子供みたいだとからかう。

その度に、子供を馬鹿にしたらダメだよ、と応戦する。いや、その度ではない。1度か2度か、指で数える限りだ。その度にシューは、そのとおりだ子供は馬鹿ではない、と追随する。

その時に思った、お前も子供だろ! と。

シューはたしか齢15だったと思う。いや、16か? 17か? はたまた14かもしれない。いかんいかん、最近物忘れが激しい。

 とにかく、いつも通りオイラが驚いて、いつも通りシューがそれをからかっているのだ。

「そんなこと言ったって、種類が違うよ」

「誤差は大差、というやつか?」

「――たぶん違うよ……」

 遠くから見える街全体もカーテンのように柔らかそうな外観をしていた。都会のビルや高層マンションの角はプリンのように揺れている。そんな印象を持ちながら、オイラは自分の視覚情報を疑いのけぞって腹の中だけで笑う。

 実際は硬いだろうと当然の予想をしながら。

 そう、建物がプリンのように柔らかいわけがないのだ。カーテンのように柔らかいわけがないのだ。硬いのだ。

「あの街は柔らかいのかな?」

「ポーが言うのなら柔らかいのかもな」

「思ってもないくせに」

「思っている思っている」

 無表情にケラケラ笑うシューに対してオイラは頬を膨らませた。シューは基本的に無言無表情な人間で、感情表現が乏しい。一般的に言うところの何を考えているのかわからないタイプだが、付き合いが長いうちに、そのキビを手に取るようにわかるようになった。

「真顔で冗談言うのやめてよ。最初は騙されたよ、よく」

「もう慣れただろ? じゃあ大丈夫だ」

 大丈夫? 何が大丈夫だろうか?

 表情を豊かにする努力をしろよ。今のシューは人とのコミュニケートが大丈夫じゃないよ。オイラだけに強く出られる内弁慶よ。

 まぁ、今までそれで大丈夫だったけどさ!


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