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最終決戦!

 遠くに見えていた光の球に向かって俺は「覚醒アクアソード」を打った。はず…。光の球は迫ってくる一方だった。あれ? おかしいな。俺はもう2度、3度とアクアミスリルを振り切る。しかし、状況は何も変わらなかった。



「くそっ! どういうことだ!」



 騎士達はざわつく。それもそのはず。我らがギルバート近衛師団は最強であるとひとくちにいっても、最近の戦闘に限っては大部分が俺の「覚醒アクアソード」に頼っていたからである。「覚醒アクアソード」が使えないとなると、戦局はかなり悪化することが予想される。

 ひょっとして、俺から『騎士の美徳』がなくなったのか? いや、そんなことは絶対にない。『騎士の美徳』の教えは、日に日に俺の中で強まるばかりだったからだ。

 そうこうしているうちに、光の球はまさに光のような速さでギルバート帝国の魔膜付近まで到達した。幸い、どういうわけか光の球は攻撃ではなかった。

 光の球体が縦にふたつに割れ、中から年老いているが筋肉隆々の男性が出てきた。手には棒のようなものを持っている。杖か?



「おはよう、ギルバート帝国の諸君。私はニエベス大王です」



「何っ! ニエベス大王だと! 大王が直接くるなんて、何の用だ!」




「クックック。パオロ・バレンシア君。君に言いたいことがある」



「なんだ!」




 どういうわけかニエベス大王は、俺の名前を知っている。知らない間に俺ってそんな名を轟かせていたのか? まあ、そんなことはどうだっていいが、不気味である。「覚醒アクアソード」が使えなかったこともあってなおのこと不気味だ。




「おい! 危ないからどっか行ってろ!」



 俺は近くにいたミョージャに小声で言った。しかしミョージャはまったく聞かない。どうするんだよ。




「パオロ・バレンシア君。どうして『覚醒アクアソード』が使えなかったかわかるかい?」




「!」




 やはり。どうやらこいつの仕業らしい。




「それはね、クックック。こいつのせいなのさ」



 そう言ってニエベスは、手に持っている杖を高らかに上に上げた。



「この名もなき杖。これには『科学』の力で、『愛』の証でもある『覚醒アクアソード』を、完全に封じ込めることができる」




「嘘だろ…!」




 近衛師団の仲間達もどよめき出す。無理もない。みんなギルバート帝国の前に、自らの身を案じたことだろう。




「おいおい、みんな、何をビビってんだよ。別にその覚醒なんちゃらが使えないってんなら、俺がこいつの首を取って、ギルバート帝国に平和をもたらしてやるよ。こいつがいなくなれば全部終わりなんだぜ? ノコノコと出てきやがって。馬鹿じゃねえの」




 そう言って前に進み出たのは、ハドソンだった。



「そうだ! やっちまえ!」



「頑張れ、ハドソン!」



「くたばれニエベス!」



 仲間達は例に漏れず馬鹿みたいに野次るが、ここは行って大丈夫なところなのか? 妙な胸騒ぎがする。根拠はないが、ハドソンにはまったく勝ち目がないように思えてならなかった。




「うりゃあ!」




 ハドソンは乗っていた馬を走らせ、目にも止まらぬ速さでニエベスの元へ向かった。もう本当に、一瞬の隙だった。何分の何秒の間の出来事かわからない。ハドソンが剣を振り上げる瞬間、少しだけぐらついたのだ。

 俺は急遽馬を走らせた。そしてハドソンの前に覆いかぶさることができた。




「ぐわあああ!」



痛い。こんなに痛いのは人生で初めてかもしれない。40年の人生で1番の痛みだ。死ぬかも知れない。本当にそう思った。ただ、たとえこれで死んだとしても、俺の40年余りの人生に悔いなどなかった。最初の40年は散々だったけれど、その40年があったからこそ、最後の数年で大いに飛躍できた。そして最後は人助けをしてその生涯を閉じる。この上ない人生じゃないか。

意識が遠のく。あれ、待てよ。遠のいていく意識の中で、何か叫び声が聞こえる。

 そうだ。俺、やっぱりまだ死ねないや。俺には大事な大事な約束があるんだった。

 そんなことをぼんやり考えていると、恐らく「覚醒治癒能力」がミョージャによって使われたのだろう。

 俺は意識を回復し、元気100%モードになった。




「ちょっと洋平さん! 話が違うじゃないですか! 何自分から死にに行ってるんですか!」




「いや、そういうわけじゃ…。ってか、お前逃げてろよ! おい! 誰か、ミョージャを遠くに連れていってくれ!」




 仲間達に叫んでも、騎士のみんなはミョージャの「覚醒治癒能力」に驚くばかりで、誰ひとりとして俺の話を聞いていなかった。馬鹿野郎! お前らどれだけ馬鹿なら気が済むんだよ!




「『覚醒治癒能力』か。厄介だからそいつも諸共この世から消し去ってくれるわ! 死ね!」




 ほーら。言わんこっちゃない。でもね、ニエベスさん。そこまではっきりと俺のミョージャに攻撃する宣言をしたら、許さないんですわ。っつっても、こっちにはなんの手立てもないんですけどね! トホホォ!




「10秒与えてやるから、その間にせいぜい愛を誓い合うんだなぁ。あの世でもよろしくってな」




「10秒ですって、早く!」



「え、え、何?」



「愛の力です! 2人の力なら、『覚醒アクアソード』は発動します! 絶対に!」

 


「え、ちょ待っ!」




 そう言うとミョージャは俺に有無を言わせず、俺のアクアミスリルに両手を添えた。




「洋平さん、せーの!」




「覚醒アクアソード!」




 す、すごい! 『覚醒アクアソード』がついに、ついに発動した。仲間達も大盛り上がり。今までで1番大きな水の分身が、ニエベス目がけて飛んでいった。




「ひ、ひえ〜!」




 ニエベスは跡形もなく、木端微塵に吹っ飛んだ。この世界を制したのはギルバートでもなければニエベスでもない。そう、『愛』だったのだ。



「ブラボー!」




「さすがお2人!」



「最高だぜ!」



「平和、サイコー!」



 みんなが口々に喜びを口にし合う。俺とミョージャは思わず抱き合い、キスをした。それを見ていた仲間達からは、再び大歓声が上がった。



「お、おい。パオロ! アクアミスリルが光ってるぞ」



「なんだよ、ハドソン。水を差すなってって、あれ?」




 ハドソンの言う通り、アクアミスリルは光り輝き出した。そしてそのまま宙に舞い上がり、天空の彼方へと消えていった。

 その瞬間、フッと視界が暗くなった。

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