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カバジ・ジャコフの告白

☆カバジ・ジャコフの告白☆



「ジャコフ、どうしたと言うんだ。改まって話があるなんて」



 ギルバート15世の青白い顔には、明らかに不安の表情が浮かんでいた。頬は元来よりもかなり痩せ細っている。それもそのはず、連日の騎士団指揮と、それに加えた国が亡くなるかもしれない恐怖によって、彼は食事すら、喉を通らなかった。

 だが、それはカバジ・ジャコフにしても同じことだった。カバジ・ジャコフも長年皇帝に仕えてきただけあって、ギルバート帝国に対する愛着は異常なまでに強い。さらにそれに加えて、カバジ・ジャコフには悩みの種があった。それは後悔である。




「皇上、私は、皇上に仕える資格のない人間でございます」



 カバジ・ジャコフの言葉によって、さっきまでうつろだったギルバート15世の美しい瞳に、焦点が定まった。




「それはどういうことかね。わかりやすく説明してくれたまえ」



「はい、有り難き幸せ」



 カバジ・ジャコフはついに床に膝をつき、何かに祈るように両手を合わせながら、話を始めた。ギルバート15世はその様子を怪訝な顔で眺めながら、話を聞いた。




「私は以前、罪を犯しました。『見殺し』という罪です。ロイド・バルドナードの悪事を魔法裁判で裁くために、パオロ・バレンシアの父、ロベルト・バレンシアが殺されるのを救わなかったのです…! ロイド・バルドナードの罪を立証するためにです…!」




「ハッハッハ。ここにきて急に何を言い出すかと思えば。そのくらいのことは諜報員であれば誰だってやっていることではないか」




 カバジ・ジャコフは、ギルバート15世の言葉に、ひいては皇帝の言葉に初めて反発した。おいおいと泣きながら首を横にぶるんぶるんと振った。それを見たギルバート15世は苦笑いをしながら次のように言った。




「ジャコフ。落ち着け。今、国の状態が非常に危険なせいで、君には大変な苦労をかけているようだ。いいだろう。少し休みを与える」



「違います! 皇上! 私はパオロ・バレンシアのおかげで国が守られている今の状況を考えると、やはり『愛』は尊いものです! 私のしたことに、『愛』なんかこれっぽっちもありませんでした…」




 カバジ・ジャコフは土下座するような体勢でついには床に突っ伏した。そして声を上げて、幼い子どものように嗚咽した。




「それは聞き捨てならんな」




「えっ」



 ギルバート15世の言葉に、カバジ・ジャコフは思わず顔を上げた。




「ジャコフが例の『見殺し』とやらをしたのは、決して愛のない行為ではない。手段を間違えただけだ。確かにあの時、バレンシア家に対する愛はなかったが、私に対する愛は感じた。君が今、こうして罪を告白しただけでも、ロベルト・バレンシアも少しは救われるのではないか」



「皇上ッ…!」




 カバジ・ジャコフは号泣した。ギルバート15世は、カバジ・ジャコフが落ち着きを取り戻すまで何も言わなかった。



「皇上」



「なんだ」



「諜報室の調べでございますが、ニエベスはアクアミスリルを無力化する杖を手に入れたそうです。これでは我々、なす術がございません」




「私はそうは思わない」



「えっ」



「私は、そんなちっぽけな小手先が、パオロ・バレンシアの『愛』に敵うはずがないと思っている。我々は信じるしかない。だか、信じようではないか、一緒に。なあ、ジャコフ」




「皇上!」




 カバジ・ジャコフは思わず立ち上がり、相手が長年仕えた皇帝であるということも忘れ、力強く頷き、にっこりと微笑んだ。

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