前師団長VS現師団長
酔っているせいだろう。周りの仲間達は大いに盛り上がり、俺やハドソンに大声で囃し立てている。ただ、その中にも冷静な声もあった。
「やめろハドソン! 俺たち仲間じゃねえか! いがみ合ってどうすんだよ!」
それはミューレだった。しかし、かえって野次を浴びたのはミューレの方だった。仲間達は酔っ払って変なノリになっている。俺はこのむさ苦しい部屋から、異様な空気を感じとった。
やがて、俺から返事がないのがわかると、ハドソンは再び、今度は諦めたようににやりと笑った。
「師団長様には立場ってモンがあるからな」
その言葉は、額面通りに受け取ってはいけない、裏の意味がある言葉だった。
「いいでしょう」
「へ?」
思わず俺の方を見たのは、ミューレだった。ハドソンは相変わらず、こちらをじっと見つめている。
「近衛師団には、ふたつの派閥があると聞きました! ひとつはハドソンさんを擁護する派閥、そしてもうひとつは、私の師団長就任を歓迎する派閥です!」
「うおおー!」
俺の演説風な口調のおかげで、部屋中は大盛り上がりになった。俺がひとことひとこと喋るごとに、歓声や罵声や、合いの手が上がる。気づけば廊下からもこの部屋に仲間達が押し寄せていた。むさ苦しい部屋が、ますますむさ苦しくなってきた。
「ただそんな中、ひとつだけ確かなことがあります! それは、この国難の中にあって、外敵と闘わなければいけない『師団』がふたつにわかれていては、いけないということです!」
「何が言いたいんだオメエはよ!」
野次が聞こえる。仰る通りだ。
「必要なのは、一致団結! 私は私が皇帝から『師団長』の職を賜ったこと、みなさんに納得していただきたい! 私の強さを見せてやりたい! この決闘のお話、受けましょう!」
部屋中は割れんばかりに大騒ぎになった。酒を飲んでいるということもあって、もはやお祭り騒ぎである。
「よし。決まりだな。そうと決まれば早い方がいい。明日の修練後、修練場に残れ。そこで白黒つけてやる。みんな、観にこい! どっちが師団長に相応しいか、俺が証明してやらあ!」
「うおおー!」
もう、誰にも止められない空気になっていた。ここまでくると、俺達2人を囃し立てる声しか聞こえなかった。
「アクアミスリルなんのその!」
それだけを言い残し、ハドソンは部屋を後にした。
ん? アクアミスリルを使えってことか? それはさすがに危険すぎるんじゃ…。宿舎のテンションが、少しだけ下がった。ハドソンの奇妙なひとことにより、熱気が若干冷めたのだった。




