就任式
俺は、アクアミスリルを所有し、なおかつ使いこなせるというだけで、我が帝国における1番のエリート舞台に配属され、さらにはひとつの部署のリーダーにまで任命されしまった。俺に、そんな素質はあるんだろうか。
俺は指定された場所に、朝早くに向かった。向かった先はギルバート帝国国営の修練場で、かなり広く、屋根がついていた。この修練場を使うことを許されているのは、近衛騎士団親衛隊という、ギルバート帝国屈指の軍事専門舞台だけなのである。
俺が修練場に着くと、1人が気づき、みんなに呼びかけた。
「諸君! あの男を見よ! 彼が本日より師団の長となる、パオロ・バレンシアだ!」
「はっ!」
乗っていた馬からおりて頭を下げる者もいれば、とにかく拍手を送る者もいた。多分、頭を下げてきた人達が近衛師団員だということだろう。にしても、よく俺が未経験でいきなり「師団長」になることをみんな、受け入れられるものだ。反発したりしないのだろうか。もっとも親衛隊の人事権はギルバート15世にあるため、皇帝の意思を尊重する、ということか。
俺はとりあえず誠心誠意お辞儀すると、みんなの輪の最後尾についた。するとそれを確認してか、さっき呼びかけた男が、さらに声を張り上げた。
「注目ッ!」
全員がズバッと彼の方向へ向き直る。俺も負けじとそれについていった。
「我々ギルバート帝国は今、建国以来の危機に瀕しておる! 我々を脅かすのは誰だ! どこのどいつだ!」
「ニエベスの奴らだァ!」
口々に怒号が飛び交う。デーモンが現れた時、ギルバート15世が言っていたことは、その通りだったわけか。俺も学校の座学でかなり勉強したため、ギルバート帝国とニエベス王国が歴史的に常に緊張状態であることは知っている。
「ニエベスの奴らは先日、我が国の魔膜を破り、宮殿を襲撃してきたそうだ!」
彼の声がかきされそうになるくらい、騎士達はいきりたち、怒鳴り声を飛ばしまくった。
「これは、防衛隊長である私パーレンの責任!」
少し場内が静まり返る。騎士達は、この男に怒鳴り声を浴びせる勇気はないらしい。彼はよっぽどな実力者であるようだ。
「が、しかし! もっと情けない奴らは!師団の奴らだ!」
「そうだそうだ!」
口々に調子を合わせたような怒鳴り声を上げる騎士達。
「だから、師団長は、代わった!」
パーレンがそう言うと、彼を含む騎士達の視線が俺に集まった。
「パオロ・バレンシア師団長! 抱負をお聞かせ願いたい!」
ヤバい。どうしよう。とりあえず、気合いで乗り切ることにするか。
「おい! 絶対に! 我々の住む国を防衛し、ニエベスを撃退する! これを違うッ!」
「うおぉぉ!」
修練場は、熱気に包まれていた。




