近衛騎士団親衛隊
結局、俺は宮殿の中を隅々までパトロールしたが、どこにも敵の姿は見当たらなかった。あるいはそもそもあのデーモンの他にはいなかったのかもしれない。ただ、あのデーモンが一体であそこまで宮殿をボロボロにしたと考えると、かなりの驚愕である。ギルバート15世は、昔から何をやっても優秀で、腕っぷしも強いと聞いている。普通のデーモン相手にあんなに軽く吹っ飛ばされるとは考えにくい。そうするとやはり、さっきのデーモンは普通のデーモンではなかったのだろう。
そうだとしてもデーモン一体になす術もなくここまで一方的にやられるなんて。いったい近衛親衛騎士団は何をやっているのだ。
俺はとりあえず屋敷に帰った。皇帝からは、このことを知ったら民衆が混乱し、最悪暴徒化する恐れもあるため、皇帝襲撃事件のことは口外しないように言われた。そして俺を首都圏から追放する処分を取りやめ、改めて処遇を言いつけるから屋敷で待つように言われた。
俺はギルバート15世に改めて呼び出された。宮殿は修築中であるため、臨時宮所にて改めて俺は処分を下されることになっている。
「パオロ・バレンシア君。君には本当に恩がある。もっというと、私はバレンシア家に、散々命を助けられてきた」
「バレンシア家に、ですか」
「ああ」
俺は、祖父のヘンスリー・バレンシアがギルバート14世からアクアミスリルを賜った時の話を聞いた。単刀直入に言う。感動した。胸がほっこりした。
「ただ。私はそのアクアミスリルの幻影にずっと悩まされてきた」
幻影? 何のことだろう。わからないが、とりあえず俺に与えられた選択肢は、彼の話を聞くことしかなかった。
「私は自分で言うのもなんだが、幼少期から何事も卒なくこなしてきた。皇帝の子だからと言われないためにも、ひたすら必死に生きてきた」
かー。素晴らしい。さすが皇帝。俺のクソみたいなニート生活からしたら比べ物にならない程ですわ。
「しかし、人々は私を何と呼んだか、わかるか?」
「い、いえ…」
「冷血人間」
そう言うと、ギルバート15世は声を上げて笑った。どういうことだ? 話の先が見えてこない。
「私は散々、愛がない、愛がないと言われた。私はいつも、心の中で反発した。いつか、いつかアクアミスリルを使うのはこの私だ! 今に見とれ、とな」
なるほど。だから、俺からアクアミスリルを取り上げる大義名分のために、バルドナード、バレンシア家、そして俺を潰そうとしたってわけか。
「だが、先日の私の無様な姿を見ただろう。私は…。私は、アクアミスリルを使いこなせなかった…!」
端で聞いているカバジ・ジャコフは思わず、涙を流した。
「それもそうだ。若者が決闘や魔物の襲撃で死んでいく様を楽しんで観る人間など、冷血人間以外の何者でもないッ!」
「そ、そんなこと…!」
ないですよ! って言おうと思ったけど、そんなことあるわ。ごめん。
「だから私は、考えを改めることに決めた。私は、パオロ・バレンシア君の人生の邪魔をしたりはしない。むしろ、君から学ぼうと思う。『愛』というものをな」
「そ、それはどういうことなんでしょうか」
「すまない。話が長くなってしまった。パオロ・バレンシア君。君は、私の側にいてほしい。近衛騎士団親衛隊に配属及び、近衛師団長に任命する!」
「え、えぇぇ!?」
ー続くー




