みんなの反応
俺はバレンシア家の屋敷に帰った。ソーナもアロンゾも、ミョージャもあたたかく出迎えてくれた。
「パオロ様、いかがなさったんですか?」
「えっ、何が?」
「浮かない顔をなさっています。右肩も上がっているし」
そう言ってミョージャは、右肩を極端に上げる素振りをして見せた。そんな上がってねえわ! でも、何もかもお見通しだ。ミョージャに隠し事はできないな。
「実は」
ダメだ。言えない。もし言ったら、ここにいる大切な人達すべてを失いそうで怖い。いっそ言わないでおこうか。いや、それはさすがに無理だ。どっちみちいずれ知られてしまうことだ。
「兄ちゃん! もったいぶらないで教えてよう!」
「そうですよ、パオロ様! 末恐ろしいじゃありませんか!」
母ソーナだけは、黙って、真剣に俺の言葉を待っている。やばい、俺が変に溜めるから、ますます言いづらい雰囲気になってしまった。
「実は、皇帝に呼ばれてさ」
「ええ、それは聞いたわ。そこで何か言われたのね…」
みんなの顔が曇る。やがてお通夜ムードになり、アロンゾなんかは泣き出しそうになった。おいおい、まだ何も言ってねーぞ。何も言ってないのにこれって、もし言ったら、ショックでみんな死んじゃうんじゃないか? まあいい。どうにでもなれ!
「バレンシア家は、騎士じゃなくなるようにとの命を受けました」
「え!」
ほらね。本当の地獄はここからだ。みんなきっと、泣き喚くに違いない。
ところが実際の反応は、思っていたものとは違った。
「あとは何?」
「兄ちゃん、早く全部言ってよ〜!」
「え、いや。これで全部だけど」
「パオロ様、殺されないんですか?」
「いや、そんなこと一言も…」
「よかった〜!」
真っ先に抱きついてきたのは、ミョージャだった。そして次にアロンゾ。ソーナとはさすがに抱き合わないが、彼女は俺の顔を見てにっこり笑った。
「それだけなら。全然大歓迎よ。あらやだ、あんなに溜め込むからてっきり死刑とかだと思ったわ」
「ソーナ様、私もです! ああ、よかった!」
「ねえ、じゃあさ、ウチ、次から鍛冶屋さんやろうよ」
「パン屋でもいいわよ」
「ソーナ様、いいですねそれ!」
おいおい。嘘だろ。めちゃめちゃポジティブ。俺に気を遣って無理しているわけでもなさそうだし。本当に次は何の家になるかで揉めだしてるし。
「俺のことみんな、恨んでますか?」
「そんなわけないでしょう! 騎士だろうと鍛冶屋だろうと、パオロはパオロよ」
「兄ちゃんは兄ちゃんだよ!」
「パオロ様はパオロ様です!」
みんな。ありがとう。気掛かりだったものが、なくなった。
「パオロ様、右肩が上がっていませんね。それが無理してたことだったんですね。何でも、何でも相談してくださいな」
ミョージャは優しく俺の両手を取った。そうか。俺は騎士になれないことを恐れていたんじゃない。騎士になれないことで大切なものを失う可能性を恐れていたんだ。
でももう、何も怖くはない。俺は騎士じゃない。俺は、俺だ。




