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皇帝と騎士の美徳

☆ギルバート皇帝☆


 パオロがいなくなると、ギルバート15世はため息をついた。しんとした部屋に、彼のため息が響き渡る。

 ため息の理由は簡単だ。良心の呵責が彼を咎めたのである。彼にも良心というものはある。「決闘」や「魔物サバイバル」で、未来ある若者が殺されるのを娯楽としか思わない彼にも、良心というものが残っていたのである。



「よろしいのですか、皇上」



 カバジ・ジャコフの問いに、彼は答えなかった。答えたくなかった。しかし、カバジ・ジャコフも百戦錬磨。ギルバート15世が幼い頃から宮殿に仕えているだけあって、ギルバート15世の本心を読んでいた。



「良心の呵責が咎めているのではないですか」




「まあな」



「確かに。皇帝ともあろうお方が、一度先代が授けた剣を返してくれなんて頼み込むことはできませぬ」



「そう。だから、パオロ・バレンシアに騎士を諦めてもらい、彼の家はもう騎士の家ではないという、アクアミスリルを返してもらう大義名分を作るしかなかった」



「本当に」



 カバジ・ジャコフは相手が皇帝であろうと臆することなく、相手の青い瞳をじっと覗きこんだ。



「本当によろしいのですが、皇上」



「どういうことだ、ジャコフ。何が言いたい」



 ギルバート15世は、カバジ・ジャコフをきっと睨みつけた。しかしそれでも、カバジ・ジャコフは怯まない。



「皇上は、人が死んでいく様子をモニター越しにご覧になり、娯楽とされていました」



「違う。あれは教育だ。立派な騎士になるには、命懸けで闘った経験がないとな」



 彼のそんな言葉が、カバジ・ジャコフはおろか自分すら偽れないこと、ギルバート15世はよく知っていた。

 カバジ・ジャコフは彼を見つめ、何も言わなかった。ギルバート15世は皇帝という身分でありながら、カバジ・ジャコフを恐ろしく感じた。



「アクアミスリルにまつわる、こんな言い伝えがございます」



「なんだ」



「アクアミスリルは、騎士の美徳を守らない者が持っても、鋼の剣ほどの価値にしかなりませぬ」



「無礼者!」



 ギルバート15世は怒鳴りつけたが、怯むことなくカバジ・ジャコフは続ける。




「騎士の美徳とは…」



「もういい! もうわかっておる!」



 耐えきれなくなり、ギルバート15世はカバジ・ジャコフの話すのを遮った。騎士の美徳を、優秀な彼が知らないはずがない。そしてそれを自分が守っていないということも、優秀な彼にわからないはずがなかった。




「彼を…。パオロ・バレンシアをここに呼びたまえ」



「仰せ仕りました」



 カバジ・ジャコフは仰々しく頭を下げて言った。いくら彼であろうと、皇帝の決定に逆らうことができないのだということくらいは、ちゃんと弁えていた。

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