大混乱
「ど、どうしてでしょうか…」
「それは答えられない」
ギルバート15世はにべもなく言い放った。俺には何がなんだか、わけがわからなかった。いくつもの疑問が頭に浮かんだが、それを言葉にする能力が、俺にはなかった。皇帝が相手だからということももちろんあるにはあるのかもしれないが、単に俺の言語化能力が低かったからだと思う。
「君の処分は追ってまた下すことにする。呼び出したらまたここにきたまえ」
「え、処分…?」
ギルバート15世は椅子から立ち上がると、ゆっくり俺の方へ近づいてくる。初めて全身を見たが、かなりの長身だと思った。2メートルを大きく越すことは間違いないだろう。
皇帝はようやく俺の前で立ち止まると、身を屈め、目線をできるだけ俺の高さに近づけながら、真剣な眼差しで言った。
「剣は、返してくれたまえ」
結局のところ、俺はギルバート15世に何も言えないまま、カバジ・ジャコフに促され、宮殿を後にした。
俺、何かしたのか。ギルバート15世が言い放った「処分」という言葉が頭に引っかかる。「処分」を下されるようなことを、果たして自分はしたのだろうか。わからない。ひょっとしたら何かが、ギルバート15世の逆鱗に触れてしまったのかもしれない。俺のことだからな。はあ、ため息が止まらない。このことを、ソーナやアロンゾ、ミョージャ、そして何より親父になんと説明したものか。
その日の夜、学校の近くの例の教会のようなところで、マルイと剣術科の学生に対する弔いの儀式が開かれた。残された生徒は俺、シュミート、ブルーナともう4人だったが、かなりの重症を追っていたため、とても儀式に参加できるような状態ではなかった。
シュミートとブルーナは泣いていた。俺は色んな感情が絡まりすぎて、涙が出なかった。落ち着いて泣くことができなかったのだ。
儀式が終わると、俺はシュミートとブルーナの2人に、俺達は全員ギルバート帝国学院剣術科を卒業できることになった旨を伝えた。2人はさすがに喜ぶでもなく、なんとも言えない、複雑な表情を浮かべていた。それもそのはずだ。本来ならば剣術科の生徒全員で卒業できるはずだったのだから。
その中でも、俺が騎士になることを諦めるよう皇帝に言われたことまでは、言えなかった。みんなそれどころじゃないだろうし、俺もどう伝えていいかわからない。
でも、家族にも伝えないといけない。ソーナは怒るだろうか。アロンゾは、俺を見損なうだろうか。ミョージャは、俺を愛し続けてくれるのだろうか。
俺は、どうしたらいいんだろう。まったき先が見えない。心の整理をする時間が、俺には必要だった。




