アクアミスリルの威力
剣術科クラスメイト約50人は、バラバラな位置からジャングルに入っていく。俺は正面の入口から入林した。朝のジャングルはやけに静かである。嵐の前の静けさといったところか。
「魔物サバイバル」開始から5分といったところだろうか。ジャングルの遠くの方からおぞましい叫び声が聞こえた。それと同時に、何か怪物の唸り声のような音も聞こえた。身体中に戦慄が走る。もう、クラスメイトの誰かはやられたのだろうか。まさか、殺されたりしたんじゃなかろうな。こんな不安になること、他にないよ…。
手足の震えが止まらない。俺はそんな自分が情けなく感じた。
ダメだ…! さっきシュミートとブルーナに偉そうなことを言っておいて、結局自分は何もできない弱虫なのか。そう思い、無意識のうちに俯いていると、背後から気配を感じた。
「キアァァ!」
コカトリスだ! よしよし、ちょうどいい。ミョージャと初めて出かけた時に出くわし、この世界にきて最初に倒した魔物だ。ミョージャとの甘美な思い出に浸りながら、余裕で倒すとするか。
「キアァァ!」
はいはい。今倒してあげまちゅから、ちょっとだけ待っててくださいねーって、ぶっ殺してやる!
とはいえ、肝心のコカトリスは少し高い所を飛んでおり、剣が届きそうにない位置にいる。はて、どうしたものか。ここで俺は、そもそもの疑問にたどり着く。
アクアミスリルって、いったいなんだ?
俺の頭には、数々のクエスチョンマークが浮かぶ。「アクアミスリル」は普通の「ミスリル」と何が違うのだろうか。仮に何かが違うとして、「アクア」が名前につくということは、水が関連するのだろうか。あちゃー。ミョージャに色々聞いておけばよかったな。
よくわからないが、とりあえず試しに剣を振り回してみる。すると、表現するのは難しいのだが、剣の残像みたいなものが水としてそっくりそのまま剣の形で出てきて、剣より遠くまで飛んでいった。
はて、これは。俺はコカトリスそっちのけで今度は試しに近くの木に向かって、少し強めに剣を振ってみた。
すると残像は物凄い勢いで飛んでいき、木を斬り倒した。
すごい威力だし、アクアミスリル。凄い剣だ。さすがは我がバレンシア家が皇帝から授かった宝物なだけはある。これならコカトリスくらいだったら、お釣りがくるくらいの楽勝だ。
「待ってな! コカトリス!」
「キアァァ!」
キアァァって、それだけしか言わんのかい、おたく。空高く飛ぶコカトリス目指して、俺は思い切りアクアミスリルを振り切った。
「キアァァ! キ…!」
例の水の残像によって、コカトリスの体は真っ二つに斬られた。そしてその死骸は、ひらひらと虚しく四方八方に飛び散った。
何これ、最強じゃん。そうだ。今の技、名前つけよう。何がいいかな。
そこで、俺は「決闘」の時に適当に思いついた、「覚醒ジェットストリーム」を改良して、「覚醒アクアソード」とすることに決めた。
うわー! めっちゃカッコいいんですけど!
「覚醒アクアソード!」
「覚醒アクアソード!」
俺は何度もアクアミスリルを振り回しながら、ジャングルを徘徊した。
コカトリスの他にも、スライム、キメラ、オークが沢山出てきた。やはり弱い魔物ほどよく出てくる。その点はどのゲームも同じだ。よし、スライムを沢山倒して経験値を…って、そんなシステムないか。そういう固定観念を持ってこの世界を生きるのはよそう。
スライムは可愛いので、倒す時に『覚醒アクアソード』をいちいち使うのに心が痛んだ。できることなら全員仲間になってくれればいいのに。だが、物事はそんなに甘くない。こっちが弱みを見せた瞬間、それにつけ込んで襲ってくることだろう。そういうものだ。魔物とは、現実世界でいう野生動物のようなものなのである。
さらにそれに加えて、アクアミスリルに慣れるという点においてもスライムだろうがキメラだろうが、弱い魔物を倒すことは重要だった。雑魚狩りは、俺にとって『練習』でもあるのだ。
「カー!」
宙に舞うキメラの大群。
「覚醒アクアソード!」
キメラは全滅した。かわいそうだが、許せ。「覚醒アクアソード」を何度も使うと、水の分身に対するコントロールもかなり上達してくるのだった。
ー続くー




