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ぬくもり

 憂鬱な気分のままで食卓に着いた俺だったが、テーブルに並べられた食事の豪華さに度肝を抜かした。そして一瞬でテンションがぶち上がった。やっぱり人間って食べることに尽きるよな。



 食欲は大事。もっとも、転生前の食事といえばもっぱらカップラーメンだった俺が偉そうなことは言えないのだが。



 どう見てもこの世界って、中世ヨーロッパ風なのに、寿司みたいなものまであるんですけど、何すか、これ。ホタテ、ウニ。いくら、中トロ、大トロ。

 もちろん、洋食もある。ローストビーフや、ビーフステーキまである。シチューもある。無敵だ。



 さらに驚いたのは、俺、つまりパオロの母親はとても美人だということだ。まあ、パオロがイケメンだから、多少はね。

 メイドは相変わらず楽しそうに家事をしている。認めたくはないが、このメイドを見ていると、なんだか気分が明るくなる、そんな気がする。

 それとあともうひとつ、わかったことがある。パオロには3つ離れた弟がいるということだ。名前をアロンゾという。俺のが優秀らしく、アロンゾは俺に憧れているみたいだ。人に憧れるなんて今までの人生で一度もなかったから、なんだか、新鮮な感覚だ。不思議といってもいい。




 俺は片っ端から料理に手をつけ、端から端まで順番に完食していった。そんな俺の様子を見て、美人の母親はとても満足そうな笑みを浮かべていた。

 食事中、俺は初めて美人の母親と会話をした。





「まだ15歳なのにパオロったら、いくらバレンシア家が伝統的な由緒正しき騎士の家系なのに、剣術科に進むなんて。命の危険があるのよ、あそこは」






「ソーナ。これはパオロが自分で決めたことだ。息子の決定を尊重してあげることが、親としてしてやれることなんじゃないか」





 ロベルトは言う。あのー、父上殿、誰も自分から剣術科に行きたいなんて言ってないんですけど。

 ロベルト・バレンシア。全くをもって調子のいい父親だ。でも悪い人ではなさそう。子を思う気持ちは本物らしい。






「僕、兄ちゃんみたいにいつかギルバート帝国学院剣術科に入りたい!」





「よしよし、その心意気だぞ、アロンゾ。ただし、ギルバート帝国学院剣術科はよっぽど賢くないと入れないぞ〜! お前の場合は勉強を今の1000倍は頑張らないとな! ハッハッハ!」





「1000って、ゼロいくつ?」





 アロンゾの言葉に、メイドを含めた全員が声を上げて笑った。当の本人であるアロンゾも照れ臭そうに笑っていた。仲睦まじい、理想的な家庭だ。

 現実世界での俺の家庭も、こんな感じだったらよかったな、と少しだけ思った。



 俺はきたるべきギルバート帝国学院剣術科入学に備え、戦々恐々と日々を過ごすのだった。

 


そんな中、唯一の安らぎの時間は、家族で過ごす晩餐の時間だった。現実世界では俺の家は家庭崩壊していたため、こんな時間は過ごせなかった。だから新鮮だったし、幸せだった。異世界転生も悪くないな、としみじみ思うのだった。

 現実世界の自分の家族もこんな華やかな人達だったらいいな、と思った。今にして思うと、現実世界の家族は俺に対して当たりが強すぎた。だから俺はダメになってしまったのではないか。きっとそうだ。そうに違いない。そして今、こんなに素晴らしい家族に囲まれた俺は無敵な気がする。まあ、本当のところ結局は自分次第なんだろうけどね。こんな時くらい現実逃避したっていいじゃない。と、俺は思うのだった。




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