激励会
アクアミスリルを手にした俺に、怖いモノなど何もない。こいつを親父と思い、必ずや魔物を倒す。そして必ずや生きて帰ってみせる。ミョージャは何も言わなかった。何も言わないが、俺を見つめる眼差しには力強いものがあった。俺の無事を祈るではなく、信じているようだった。うん、もはや生きて帰ってくることの確認など必要のないことだった。
「行ってくる」
「はい…」
ミョージャの顔には不安の色は一切なく、それどころか笑顔さえ見えた。とても晴れやかな表情だった。
俺達剣術科の生徒はついに、魔物の集まるジャングルの入口に集結していた。どのクラスメイトの顔も、さすがに引き攣っていた。その気持ちは痛いほどわかる。ジャングルに出没するのはどんな魔物か一切知らされていないが、毎年大量の死者が出るこの「魔物サバイバル」。緊張するなという方が無理な話である。
俺は近くで引き攣った顔をしているシュミートと、ブルーナを激励した。
「おいシュミート! いつもみたいにウンチク垂れろよ! みんながうんざりするほどさ!」
「何を言うかと思えばパオロ君! 人聞きが悪いですぞ…!」
「ブルーナ! いつもみたいに蹴り入れてこいよ! ほーらほら!」
そう言って、俺はブルーナに背を向け、自分の尻を叩いて見せた。ブルーナは顔を真っ赤にして飛び蹴りしてくる。
「調子乗ってんじゃねえぞ!」
「いってえ! でも大丈夫だ! その力が出せれば、どんな魔物でも倒せるよ!」
「なるほど…! わかりましたぞパオロ君!」
「ああ? 何がわかったんだよガリ勉クソメガネ!」
ブルーナはむしゃくしゃしながら聞いた。
「パオロ君は我々を奮い立たせようとしてくれているのですぞ!」
「よくわかったな。シュミート。俺達はやれる。普段の授業だって一生懸命やってきたし、決闘の時だってがむしゃらに生き残ってきた。そんな俺らがさ、自信持たないでどうすん…」
「パオロよく言ったア! そうさ、アタシ達は強い! 最強なんだ!」
急にブルーナがぶち上げ始めた。いや、俺の話を遮らないでほしいんですけど。いいとこだったのに。って、やる気出してくれたならなんでもいいか。
やがてマルイがみんなの前で挨拶を始めた。
「えー。今日は余計なことは言わん。絶対に生きて帰ってくるべ」
マルイの挨拶は本当にそれだけだった。ただ、最後の一言は心にグッと響いた。マルイは挨拶を終えると、ジャングルに入る指示を出す前にチラッと俺の方を見た気がする。気のせいか? そして表情を曇らせた気もする。気のせいか? まあいい。絶対気のせいだ。よし! 頑張ろう!
「えー。では、これからジャングルに入ってください。剣を出して」
俺は持っていたアクアミスリルを、青空にグイッと突き出した。青空に染まるほど美しいブルーだ。
「おい、パオロ、それもしかしてミスリルか?」
「いや、これはミスリルじゃない。アクアミスリルだ!」
ー続くー




