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ブルーナの恋

 はぁ…。最悪。本当に本当に最悪だ。あの時のミョージャの悲しそうな顔が忘れられない。でも、ミョージャが、俺とブルーナがあの時抱き合っており、そして然るべき関係性であるというようなことを思っているとしたら、それはまったくの誤解なのである。

 しかし、今の俺に、誤解を解く資格はあるのだろうか。ミョージャの悲しそうな顔が忘れられないとさっき述べたが、それと同じくらい、至近距離で見たあの時のブルーナのうっとりした顔も忘れられないというのが悲しいところだ。40年の人生において1度もモテたことのない男のウィークポイントが、このタイミングで露呈してしまった。



「おはよう。シュミート。ブルーナ」



「パオロ君、おはようございます。パオロ君にしては早いですね」



 シュミートはこの頃俺に対して冗談を言うようになった。どうやら心を開いてくれたららしい。



「にしては、は余計だよ。なんか昨日は眠れなくて。そのまま学校にきてしまったんだよって、ブルーナ、元気ない…」



「え、あ、うん…」



 うん? どうしたんだろう。ブルーナは俺と目を合わそうとしない。まさか、昨日のことがあったから? おいおい。やめてくれよ。こっちまで照れ臭くなるだろ。学校生活に支障をきたすのも困るし。あ、ほら。現にシュミートも怪訝な顔をして俺達を見ている。

 それでも、俺はブルーナにキッパリと話すことができない。なんだか、ブルーナがかわいそうというか、この状況がもったいないというか…。人生で1度もモテたことのない男の、悲惨な思考回路である。


 結局この日は、ブルーナは一回も俺と目を合わせてくれなかった。シュミートは少し不思議そうにしていたが、特に勘繰る様子はなかった。シュミートの鈍感さに感謝だ。

 放課後、やはりブルーナは男子寮に姿を現さなかった。シュミートはいつものごとく、修練場で汗を流している。当たり前だ。もう「魔物サバイバル」まで残りの日数も僅かとなっている。俺みたいな無双主人公は大丈夫だが、それ以外の人間は「決闘」の時に引き続き命懸けなのだ。だから、休んでいる暇なんてない。

 誰の部屋をノックしても、剣術科の生徒はみんな、不在だった。きっと修練場にいるんだろう。

 修練場に行く気は起きないので、市場に出て鍛冶屋にでも行ってみることにした。



「鋼の剣はあるか」



「は、鋼の剣ですね。作刀のお時間はいただきません。ウチにはとっておきのがございますから」



 鍛冶屋の中年男性は、俺の格好を見て貴族だと判断し、そんな調子のいいことを言っているのだろう。よし、ちょっくらからかってみるか。



「凄いな。これは実に凄い。売ってくれ。金貨何枚必要だ?」



 鍛冶屋に渡された鋼の剣を見つめながらそう言うと、鍛冶屋は恐縮しきった様子で次のように言った。



「いえいえ旦那様! 金貨なんてめっそうもございません! いくらとっておきといえど、銅貨で十分でございますッ!」



「おっ! 正直だな、気に入った! 釣りはもらっておけ!」



 俺は鍛冶屋に金貨を渡した。鍛冶屋は地面に頭が着くくらい深々とお辞儀をした。



 鋼の剣でも大丈夫ではあるんだろうけれど、なんかしっくりこないな。そうだ。バレンシア家は騎士の家系だったっけ。何か目ぼしい剣があるかもしれない。ちょっと屋敷に帰ってみるか。と、そこで重大なことを思い出した。それはミョージャの存在だった。

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