宣戦布告
その晩、学校に併設された教会のような馬車で、キヤサーに対するお祈りが始まった。多分、日本でいうところのお通夜みたいなものだろう。
黒いカーディガンを羽織った、不思議な格好をした年配の男性が数人、大きな黄金のギルバート像の前でお経のようなものを唱えている。儀式には、剣術科の生徒だけでなく、ギルバート帝国学院に所属するすべての全員が参加した。全校生徒は1000人以上いるだろう。その膨大な数の人間を収容できる教会が学校にあるのももちろん凄い。さすがはギルバート皇族直轄の学校なだけある。
俺の近くには剣術科のクラスメート達がいる。みんな立っている。みんな泣いている。俺の隣にはキンカーがいる。キンカーは、キヤサーと仲が良かった。よく一緒に3人で魔物狩りをしたものだった。キンカーは俯き、涙を床にこぼしていた。拳は強く握られていた。
「キヤサーを殺したやつは、探し出して絶対に復讐してやる…!」
「やめろ、変な気は起こすな」
深い悲しみな暮れていたのは、キンカーだけではない。剣術科の生徒はみんな、キヤサーのことが大好きだった。みんな、彼を信頼し、尊敬していた。クラスでもリーダーシップを取り、女子からも人気で、立派な男だった。
マルイも泣いている。マルイだけではない。俺も涙が溢れてくる。上を向いても、とめどなく溢れてくる大粒ね涙を、止めることなど誰にもできないだろう。
儀式が終わると、話題はルイスのことで持ちきりになった。というのも、剣術科の生徒でただ1人、儀式に参加しなかったからだ。んー。なんだか怪しい。
ちなみにルイスは昨晩、寮の誰もその姿を見かけていないらしい。ますます疑惑は深まるばかりだ。まあいい。今は犯人探しなんてしていないで、キヤサーの供養をしよう。キヤサー、今までありがとう。安らかにお眠りください。
あーあ。なんだか、今夜は1人になりたい気分だ。他のみんなは教会に残っていたが、俺は1人、寮に戻った。
部屋に戻る。メイドはこんな日に限っていない。ったく、なんなんだあいつは。大事な時に、近くにいてほしい時にいないんだ。
部屋のドアがノックされる。やった! メイドだ。俺は喜んでドアを開けた。しかし、訪問者は衝撃の人物だ。
「やけに嬉しそうだね。そんなに歓迎ムードで迎えてくれるなんて、嬉しい限りだよ」
俺の部屋にやってきたのは、なんとルイスだった。
「はっ! ルイス様、これは失礼致しました」
「ははっ、やめてよ。今はクラスメイトじゃないか。そんな他人行儀で接してもらっちゃ寂しいよ」
「は、はあ」
「それよりさ、面白いクイズがあるんだ」
「は、はあ。なんでしょうか」
「キヤサー君を殺したのは、だーれだ!」
そう言ってにやにやしながら、ルイスは俺の顔を覗きこんだ。こ、こいつ…!
「まあね、練習試合を申し込んできたのはキヤサー君なんだけどねえ。手加減するのを忘れちゃった」
そう言って、ルイスは舌を出した。
「でもね、父上に頼んで、事件を揉み消してもらったんだ。殺しはいいね。クセになっちゃうよ」
大きな声を上げて笑うルイス。こいつ、狂気に満ちてやがる…!
「でもさ、次は決闘があるから。合法的にやれるんだよねえ。次は絶対に君を殺すから。覚悟しておいてね」
「てめえ! ふざけんじゃねえよ」
「分家の分際で生意気な口を叩くな!」
急にさっきまでとはうって変わった物凄い剣幕で、ルイスは怒鳴った。あまりの迫力に圧倒されそうになった。まずい。
「てめえなんか、俺にとってなんでもねえ。返り討ちにしてやる」
それを聞いたルイスは、また高らかに笑い声を上げた。ルイスの笑い声がいつまでも俺の頭に響いていた。




