練習試合の約束
「えっ? なんでお…? われ?」
「そんなことはどうだっていい!」
「パオロ様! お疲れなのではないですか?」
「そんなこともどうだっていい! 何故メイドがここにいると聞いているんだ!」
俺がいきり立つと、メイドは口を窄めた。うわっ。めっちゃ可愛いんですけど。って、そういうことではなくて。
「パオロ様、どうして私をメイド、メイドってお呼びなさるんですかあ〜! 私の名前はメイドじゃありません!」
うわっ。こいつ、めっちゃ生意気だな〜。それにしてもたしかに、こいつにもちゃんとした名前はあるよな。知らんけど。実際知らないだけなんだよな〜、俺、転生してきたばかりだし。でも説明のしようがないから、ここは押し通すしかない。
「いや! お前はメイド、メイドだ!」
「パオロ様ひどい! いくら私が平民だからって、そんなの人権侵害ですぅ! しかも2回も言わないでくださいよ! 2回も!」
「いいや! 何度だって言ってやる! メイド! メイド! メイド! メイド! メイド!」
「うわ〜! パオロ様の人でなし、寮生活寂しいと思ってせっかく来てあげたのに!」
「フッ、何を考えているかと思えば、そんなことだったのか」
でも実際のところ、図星だった。初めての寮生活で不安なところに不意にメイドの顔が見れて、声が聞けたもんだから、なんだか嬉しくて、ちょっぴり涙が出そうになったくらいだ。
「これから、ちょくちょく来ますから、安心してくださいね、パオロ様!」
「こなくていい!」
「そんなあ! ひっど〜い! なんか今日のパオロ様、こっわ〜い!」
実際、メイドは学校が本格的に始まってからも、ちょくちょく寮に顔を出した。これが寮規定に違反していないかもわからないし、少しだけ鬱陶しいけれど、メイドの顔を見ると心安らぐ自分がいるのは確かだった。
恐らく、初めての俺の寮生活を心配した父ロベルトが、メイドに命じてやらせているのだろう。屋敷から寮なんて遠いのに、メイドも大変だろう。本当は感謝している。だけれど、伝えなければ意味がない。照れくさくてありがとうなんて言えないけれど。
「パオロ様! 寮のビュッフェ、最高ですよ! 絶対一回行った方がいいです! 人生半分損してます!」
「ビュッフェなんかあるのか!? ていうか、お前は手つけたらダメだろ!」
「え〜! なんでですか? 料理長と私はもう親友です!」
「なんだよその状況!」
前言撤回。こいつは食い意地張っているだけだ。馬鹿馬鹿しいったらありゃしない。
俺はキンカーと仲良くなり、寮でも一緒に過ごす時間が増えた。そうなると必然的に、メイドとキンカーが接触する機会も増えてくる。
この2人もなかなか仲がいい。
それはさておき、キンカーがある日、俺と、メイドと3人で遊んでいる時に妙なことを言い出した。
「ねえ、パオロ」
「なんだ?」
「決闘はひと月後にあるじゃん?」
「うん、あるな」
「誰がどんくらい強いのかとか、まだ全然そういうの、わからないじゃん?」
「まあ、そりゃあな。知り合ったばかりだし」
「ちょっとさ、2人で決闘の練習してみない? 死なないようにそれこそ木刀で」
「何言ってんだ」
俺が断ろうとしたのも束の間、いきなりメイドが会話に割り込んできた。
「はい! はい! はい! 私、大賛成です! やりましょう、決闘! 私、審判やりましょう」
「ね? メイドもそう思うでしょう? ほら、パオロ、一戦よろしく頼むよ」
「仕方ないなあ、わかったよ」
軽く受けてしまったが、内心はビビりまくっていた。キンカーも可愛い顔して、ギルバート帝国学院剣術科に入学が許されたエリートなのである。相当強いはずだ。負けて、俺が大怪我を負う可能性だってある。そんなの勘弁だっつーの。
それでも、決闘は1ヶ月後に必ずしなければいけないのだ。ここらで練習試合をしておく必要は、確かにあるかもしれない。
「よし、そうと決まったら明日、寮内の修練場で夕方、やりましょう!」
「よし!」
「なんでお前が仕切ってるんだよ」
「え〜、だって、楽しみじゃないですかぁ〜、またパオロ様の華麗な剣遣い、ぜひ見たいです!」
そう言って例のごとくメイドは、剣を振り回す真似をした。それを見たキンカーが笑っている。
やれやれ、調子のいいやつだ。ったく、先が思いやられるわい。




