第9話 メインヒロインに会っちゃいました。
俺、アスタ・クロフォードは悪徳貴族に転生した人間。
ギルドでの一悶着を終えた俺たちは、クエストをするべく森の中を歩いていた。
俺はその景色に感動していた。
「――見ろ、モンスターがいるぞ……!」
アスフロ本編に出てくるモンスターが、そこかしこに!
メダマガエルにウッドホーン、遠目にはヘルスパイダーの巣も見えた。
やっぱりゲームの世界なんだと実感するよ。
「ただのモンスターではありませんか、興奮を抑えてください」
「ふん、俺は今までモンスターのいる場所には近づけもしなかったしな。どこかのSランク魔導師のせいでな」
「私の目を盗んで逃げ出そうとするアスタ様が悪いのです」
シルヴィアはそう言ってのける。
確かに最初はコソコソギルドに行こうとしましたよ。
でも屋敷全体に氷の障壁を作って俺だけ出られなくするのは違うだろ、監禁罪が適用されるぞ。
「ふ〜ん、ふんふふふ〜ん♪」
「エミリア、お前はお前で上機嫌だな」
「私、ぼっちゃまと冒険者ライセンスが取れて嬉しいのです。お揃いです♪」
エミリアはえっへん、とライセンスカードを見せてくる。
冒険者の血を混ぜて作られるこのカードは、その冒険者の職、身体情報、クエスト履歴などあらゆる情報が登録される。
自身を証明する重要なアイテムであり、冒険者になるとギルドから交付される。
ちなみに、エミリアの顔写真の横に刻まれた【F】というのは冒険者ランクだ。
皆、最初はFから始まり、かく言う俺もFランクだ。
「冒険者としては同期だ、回復術師として頼りにしてるわ」
「ひええ、恐れ多いですが頑張らせていただきます!」
「おや、同期なのは私もですよ」
「へ、だってシルヴィアってSランクじゃなかったけ?」
「あれはあくまで魔導師としての称号です。冒険者登録はしてたのですが、あくまで資格として取っただけなので活動自体はしてません」
そう言うとシルヴィアもライセンスカードを取り出した。
なるほど、確かにFと刻まれている。
つまり、この新米冒険者パーティーは……。
・嫌われ者の悪役貴族
・屋敷のメイド(戦闘経験なし)
・DLCのSランク魔導師(鬼)
何か……バランスが崩壊してるな。
あれだ、始めたばかりのソシャゲのレンタルフレンドが強すぎる現象。
ほぼフレンドのキャラが敵倒して「もうアイツだけでいいんじゃないかな?」っなるやつだ。
「少なくとも私の見立てでは、現時点でのアスタ様の実力はBランク相当だと考えてます」
「え、そうなの?」
結構高いな。
俺自身、もっと低いと思ってたんですが。
「さっきアスタ様に突っかかってきたあの冒険者、あのギルドでは手練れの部類だったようですよ?」
「マジかよ……でも簡単に吹っ飛んでったぞアイツ」
「このシルヴィアの強さに慣れてしまったんでしょう。しかし練習と本番は違います、今回のクエストでは油断をしないように」
「へいへい」
俺自身、強くなった実感はそこまでない。
シルヴィアには負けてばっかりだし、他の冒険者の強さも目にした訳じゃ無いし。
調子に乗るのはまだ早いってことだ。
自分が強くなったかどうか、それはモンスター相手に試すことにしよう。
すると、ホワイトウルフの群れと遭遇。
後ろの茂みからも現れ、完全に囲まれた。
全員が鋭い牙を見せ、威嚇を始める。
「丁度いいな、討伐対象のホワイトウルフだ」
「ひ、ひええ……アスタおぼっちゃまぁ!」
エミリアは俺の腕を掴んで離さない。
胸を押し付けるな、雑念が出るだろ。
「アスタ様、貴方なら5秒も必要ありませんよね?」
「受注したクエストはこれだけじゃないし、ちゃっちゃっと終わらせる」
グルオオオオオ!!
一斉に飛びかかるホワイトウルフ。
俺は詠唱を省略、空に無数の魔法陣を展開。
魔法陣には、わずかに電撃が爆ぜていた。
「――雷雨!!」
ドゴオオオオン!!
無数の魔法陣から雷が雨のように降り注ぎ、ホワイトウルフに命中。
白い毛並みは丸焦げになり、全て討伐された。
中級魔法、雷雨。
複数のモンスター相手にはこれが最適、ゲームでも全体攻撃出来るから便利なんだよな。
「こんなもんか」
「す、すごいですアスタおぼっちゃま! あんなに恐そうなモンスターの群れをたった一回の魔法で……!」
エミリアは腕を抱き寄せながら言った。
あのーもう離してくんないかな?
モンスターは倒した訳だし。
「流石アスタ様、まぁこれくらい余裕だと思ってましたがね」
シルヴィアは厳しめに言うが、口元は緩んでいる。
なんだかんだ言って、俺の成長が嬉しいのだろう。
「運良くホワイトウルフに出会えたし、次はゴブリンに狙いを定めるか」
本日、俺が受注したクエストはホワイトウルフ討伐とゴブリン討伐。
ゲームではどっちも、初心者向けのモンスターに設定されている。
この世界での強さもゲーム準拠とみたぞ。
出現頻度も高いし、適当に歩いていればエンカウントするだろ。
その時、遠くから叫び声が聞こえた。
女の子の声だ。
「ひゃあ、な、何でしょう!?」
「森の奥からですね」
「何かヤバそうだな……シルヴィア、エミリアを頼む!」
事態は緊急を要する。
俺は雷の属性魔力を纏い、身体能力を上げる。
これで高速移動が可能となった。
「ちょっくら行ってくる」
ヒュン、と一瞬でその場を離れる。
今の俺は電撃そのもの、森の中を一瞬で駆け抜ける。
俺は遠くで馬車を発見。
周りには護衛の兵士が倒れており、そばには大きな人型のモンスターがいる。
「あれ……ハイオークじゃねぇか!」
ハイオーク、まぁまぁ強めに設定されたモンスターだ。
森の奥地に生息しており、初戦闘時は倒すのに苦労した記憶がある。
ハイオークは馬車に取り付き、扉を壊そうとしている。
「マジか、やばいな」
通用するか分からないが……やるしかない。
俺はハイオークに接近、雷拳による強烈なアッパーをお見舞いする。
「やめろってのっ!!」
落雷の音が森中に響き渡る。
グモオオオオ!?
ハイオークはいとも簡単に打ち上げられた。
そのまま地面に落ち、事切れた。
マジか、ゲーム終盤でやっと簡単に倒せるようになるくらいのモンスターだぞ。
もしかして……。
「俺って、結構強い感じ?」
そんなことを考えていると、馬車から1人の金髪の少女が姿を現わす。
「な……!?」
俺は思わずその場に硬直してしまう。
彼女はミレイユ・ソーサラー。
ソーサラー男爵家令嬢、アストラル・フロンティアにおけるメインヒロインであり……。
俺、アスタ・クロフォードが死ぬ7割の原因が彼女に殺されるからです。
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