第8話 悪役貴族、ガラの悪い冒険者をワンパンする
翌日、俺は冒険者ギルドに向かった。
剣が交差した紋章の看板を目指す。
ゲームで散々練り歩いた領地だ、迷わず行ける。
「……というか」
俺が立ち止まると、背後のメイドと女魔導師も足を止めた。
「どうされました、アスタ様?」
「如何されました?」
「――何でお前らも来てるんだよ!」
エミリアとシルヴィアが何食わぬ顔で付いてきてた。
屋敷を後にした途端、消えない人の気配があると思ったらこれだ。
「わ、私はその、アスタ様をいつでも回復魔法で治せるように馳せ参じました……!」
「それは帰ってからでいいだろ……で、シルヴィアは?」
「アスタ様は何かと無茶をしそうなんで、お目付け役が必要と思いまして」
うへー。
過保護すぎだよ。
俺くらいの歳には、冒険者として独り立ちしてるヤツもいるのに。
「実は私、ギルドに入るのは初めてで……少し緊張します!」
「そうなのですか、ならばせっかくなのでエミリアさんも冒険者登録をしましょうか。ね、アスタ様」
「もう好きにしてくらはい」
俺たちは冒険者ギルドに足を踏み入れる。
職員と冒険者がひしめき合うギルドホール、その合間を縫って受付に向かう。
「いらっしゃいませ、本日はどのような……って貴方は公爵家のアスタ・クロフォード様、そしてSランク魔導師のシルヴィア・マリウス!?」
受付嬢が思わず声を上げると、周りの冒険者たちはこっちを見ながらヒソヒソと話し始める。
Sランク魔導師のシルヴィアはともかく、俺は悪い意味で有名人だ。
俺が酷い人間だということは、領民の耳とっくに入っていることだろうしな。
「オイ、あの黒髪、クロフォード家の馬鹿息子だぜ」
「女はべらして冒険者の真似事かよ、あんなゴミ死んでくんねぇかな?」
少なくとも、俺に向けられる目と言葉は良い物とは言えなかった。
まぁーしょうがないよな、これは自分が悪いわけだし。
「俺とメイドの冒険者登録をしたくて来たんだ。それが終わり次第クエストもさせてもらうよ」
「か、かしこまりました、少々お待ち下さい……!」
「――おいおい、今クロフォード公爵家の次期当主ってお前かぁ?」
すると、スキンヘッドに棍棒を装備した大柄の男がやって来た。
顔には刺青が入っている。
「噂は聞いてるぜ。クロフォード公爵家には一流の穀潰しがいるってな。全く羨ましい人生だな」
「どうも」
「こんなところに来ても、薬草摘みで死ぬのがオチだぜ、ガハハハハハハ!!」
相手にする必要はないな。
こうなることは予想は出来てたし。
てゆうかこのオッサン、仮にも公爵家の子息に喧嘩売ってるんだよな。
失うモノがない人ってヤツか、こういう人間は何しでかすか分からない。
ガン無視を決め込もう。
「いい加減にしなさい、アスタおぼっちゃまを貶す者はこのエミリアが許しません」
すると、エミリアが俺とオッサンの間に立つ。
ドジっ子メイドキャラ思えないほどの殺気が放っている。
「お、キミ可愛いね。どうだお嬢ちゃん、こんなヤツのメイドなんて辞めて俺とパーティーでも組まない?」
「お前みたいな品相のカケラもないゴミ男とは関わりを持ちたくありません。とっとと去りなさい」
「な、何だとぉ!」
おい、やめてくれ。
出来れば大事にはしたくない。
俺はエミリアを退かそうとするが、その場から離せる気配がない。
ぐっ、何だ、足裏に接着剤でも付けてんのか!?
さらにシルヴィアが続ける。
「アスタ様との力の差が分からないとは……冒険者としては致命的ですね、引退を視野に入れた方が宜しいかと」
ってオイイイッ!?
追い討ちかけんなあああっ!!
オッサンの頭の血管がピクピク騒いでるだろうが!
「ふ、ふざけんなよ、小娘共が調子に乗りやがって!」
「私はさっさと去れと言いました」
「きっと耳が詰まってるんでしょう、触れてあげるのは酷ですよ」
ぶちっ!
血管の切れる音が聞こえた。
「――このクソメイドがぁ!!」
オッサンは、棍棒をエミリアに向かって振り下ろした。
「……!」
俺は即座にエミリアを庇い、棍棒を片手で受け止めた。
雷の属性魔力を腕に纏わせ、腕力を強化したのだ。
「なっ、俺の攻撃をいとも容易く……!?」
「――ルール違反だろ、それは」
俺の周りの人間を傷付ける。
それだけはダメだ、何があっても許すつもりはない。
あっちから喧嘩を売ってきたんだし、俺はそれを買っただけだ。
「雷撃」
俺は初級魔法、雷撃を発動。
右腕から棍棒を通じて、オッサンに強力な電撃を浴びせた。
「ぐ、ぐわあああああ!?」
オッサンはよろけるが倒れはしない。
中々タフだな、手加減したのもあるけど。
「く、くそぉ……何だ、今の本当に雷撃かよ……!?」
オッサンは負けじと棍棒で向かってくる。
逆上した相手の対処は容易だ、動きも読みやすい。
シルヴィアとのスパルタ稽古で嫌というほど身に付いている。
それに比べりゃ、オッサンの動きは止まってみえた。
俺はさっきのように雷の魔力を腕に込める。
棍棒が振り下ろされる一瞬、オッサンの懐に潜り込む。
「雷拳」
ドッゴオオオオオン!!
落雷のような衝撃音がギルドホールを包んだ。
「ぐへええええええええ!?!?」
オッサンは吹っ飛ばされ、壁にぶち当たる。
創作魔法、雷拳。
雷の魔力で身体能力を向上させ、そのまま殴るシンプルな魔法だ。
威力はご覧の通り、並の人間なら一撃で戦闘不能。
むしろこれでも威力を抑えてる。
「流石は雷の属性魔力を持つアスタ様、一瞬の爆発力に置いては……私をも超えます」
シルヴィアが言った。
散々貴女にしごかれましたからね。
これくらいはやりますよ。
てなわけで……俺はある程度自衛できるくらいの魔法を使えるようになりました。
元はゲームの悪役貴族だって考えると、進歩したと思う。
「す、すげぇ、あの黒鉄のガンザを一撃かよ」
「クロフォード家の子息って、実はすげぇヤツなのか……?」
周りの冒険者は口々に言った。
どうやら有名な冒険者だったらしい。
今のオッサン、アスフロに出てた覚えなかったけどな?
「――そうです! アスタおぼっちゃまは雷の属性魔力に選ばれた、ゆくゆくはこの王国を変える存在になる方なのです!」
エミリアはギルドホールの中心で高らかに叫んだ。
え、何やってんのあの娘。
「属性魔力だって!?」
「確かに強い雷魔法だと思ったけど……!?」
「皆さまの知るアスタおぼっちゃまは昔の姿、今、これからの姿を刮目し、生き証人となるのです!」
「「お、おお……」」
「さぁ皆さまもご唱和ください! アスタ様万歳! アスタ様万歳!」
「「……」」
「――声が出てなぁぁぁぁぁい!!」
エミリアは目をかっ開き、ドスを効かせながら言った。
「……ァ、ァスタ様、万歳!」
「アスタ様万歳!」
「アスタ様万歳!」
「アスタ様万歳!」
冒険者は圧倒され、ギルドにアスタコールが響き渡る。
は、恥ずかしい……!
「大丈夫、本来強き力は目立つものです。好奇の目にも慣れなければいけませんよ」
シルヴィアはにっこり微笑んだ。
こ、こいつ、楽しんでやがる……!
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