第6話 評判と違うクロフォード家の息子(シルヴィアside)
Sランク魔導師――肩書きだけなら羨望の眼差しで見られることは多いです。
ですが、実情は息が詰まります。
氷の属性魔力に選ばれた少女の未来は、夢のような景色ではなかった……。
数多の危険モンスターを討伐し、王国内でSランク魔導師の称号を賜った私、シルヴィア・マリウス。
その実績を買われ、家庭教師として貴族の子供に魔法を教えることが多くなりました。
輝かしい将来を持つ、未来の魔導師たちのお手伝いが出来る。
私は胸が躍りました。
ですが、貴族の子供には……まるで忍耐がありませんでした。
『もっと簡単で強い魔法が使えるようになりたい!」
『何でこんな地味なことやんないといけないの、めんどくさい!』
いくらこちらが親身に教えようとも、すぐに投げ出してしまう。
屋敷での恵まれた環境が、努力することの大切さを失わせたのです。
やがては……こんな言葉を言われました。
『――貴女って、教える才能はないのね。Sランクと聞いていたのに失望したわ』
その言葉は……私のどんな氷魔法よりも冷たく、鋭いナイフとなって突き刺さりました。
痛い、辛い、悔しい。
私は貴族……いや、人間が嫌いになった。
それから私は俗世から離れ、人知れぬ雪里へ籠るようになった。
窓から見える銀世界、雪の結晶が音を吸収し、静寂を奏でる。
やはり独りはいい。
心にずけずけと踏み込む者もいない。
強いて言えば、1人で飲む紅茶が寂しいと感じるくらいだ。
そんな中、魔法協会から一通の手紙が来た。
内容を読んで驚愕した。
クロフォード公爵家の次期当主が、この私を家庭教師として指名したのだから……!
あの家の噂は、国内に住んでいれば嫌でも耳にしていた。
『あそこの息子は最悪だ、クロフォード家の末代を見たよ』
屋敷で働く人間を人と扱わず、日常的にメイドにセクハラをする。
剣術も魔法の勉強もサボり、食欲のままに食事を摂り、眠くなったら寝ての繰り返し。
その次期当主が、わざわざ私を指名した。
断ることも出来るが、魔法協会にも面子がある。
「これで諦めがつく……か」
今思えば、ほんの少しの希望を持っていたのか、ただの気まぐれだったのか。
私はクロフォード公爵家に足を運ぶことにした。
『――クロフォード公爵家次期当主、アスタ・クロフォードです。シルヴィア殿、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします!』
そこには、真っ直ぐな姿勢で頭を下げる少年がいた。
聞いていた話と違う……少なくとも私の知るアスタ・クロフォードは、自分以外の人間をゴミと考えている小僧なのだから。
私は魔力合わせをして更に驚いた。
何とこの子は……雷の属性魔力の持ち主だったのだ。
国内で数少ない属性魔力持ちだと伝えると、何故かアスタ様は、目をつぶって空を見上げ……。
『俺が、属性魔力持ち、し、知らなかったなぁ……やったぁ!』
その後、わざとらしく喜んだのです。
私には全て理解しました。
――力を持ってしまったが故に、自らに待ち受ける過酷な未来を想像したのだと。
昔の私は、氷の属性魔力を手に入れて浮き足だっていた。
己の未来に勝手に期待をして、勝手に絶望した。
しかし、この子は……既に覚悟をしている。
何がクズ貴族だ。
アスタ様は、私よりもずっと大人の考えが出来る。
こういう人間が、後の世を引っ張っていくのだ。
(ならば……私はこの少年の力になりたい)
希望に満ちた芽を護り、水と光を与え、綺麗な一輪の花を咲かせたい。
その瞬間を、1番近くで見たい。
支えるのだ、このシルヴィア・マリウスが……!
◇
「――シルヴィア〜!!」
遠くから私の名を呼ぶ声。
出会った当初のことを思い出してしまったようです。
「早く氷弾飛ばしてくれよー、魔物討伐の訓練にならないだろー!!」
アスタ様は雷の魔力を込めた両手を構える。
正直、いつ稽古で根を上げるかと不安になってました。
でも、貴方は今もこうして鍛錬を続けている。
実直に習ったことを受け止め、夜遅くまで復習をしているのも見てましたよ。
私は正しかった。
毎日の成長を見て、確信しました。
この子は大物になる!
この先、
貴方がどんな道へ進むのか。
この上ない……楽しみです!
「――行きますよ、アスタ様!!」
「――よし、こい!!」
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