第13話 悪役貴族、メインヒロインに助言する。
「お前がそこまで頭が悪いとは思わんかったぞ!! ふざけるな!!」
「パパ、何を言ってますの!?」
「大変失礼いたしましたアスタ殿、うちの馬鹿娘がとんだ御無礼を!!」
スチュアート伯爵は頭を下げる。
ベアトリスはともかく、父はまともな人で良かった。
「まさかクロフォード公爵家って」
「この国に数えるだけしかいない公爵家の1つじゃんかよ……!」
「つまり、伯爵家よりも上の貴族ってこと……!」
取り巻きも顔を真っ青にさせながら言った。
焦るのは良いけど、謝る相手は俺じゃない。
「自分よりも、彼女に謝っていただきたいです」
俺はミレイユに目を向ける。
「本当に申し訳ございませんでした。お怪我はございませんか?」
「いえ……私は大丈夫です」
「申し訳ございません、娘にはしっかりと言い聞かせておきますので……何をボーっと突っ立ってるんだ、お前も早く謝りなさい!」
「パパ、ワタクシは悪くありませんのよ! この無礼者が――」
「――謝 り な さ い ! !」
語気を荒げるスチュアート伯爵に、ベアトリスは涙目になる。
「ご、ごめんなさい……」
ベアトリスはガタガタと肩を震わせながら頭を下げると、取り巻きもそれに続く。
「本日のことは大事にするつもりはございません。こちらも応戦のために魔法を使用しました。ですが……無かったことにするには、些か関わった人たちの肩書きが大きすぎる気がします」
「は、はい、アスタ様のおっしゃるとおりです」
「今回のことは父に話します。ただ『既に全て解決した』『スチュアート伯爵家は大いに反省の色を示している』こともお伝えします。後は父の判断となりますので」
「お取り計らい感謝致します……」
まぁ面倒だから黙っててあげるけどね。
このくらい脅しとけば大丈夫だろ。
「さて、楽しいパーティーは始まったばかりですので戻りましょう。料理が勿体無いですからね」
「は、はい! ほらいくぞベアトリス、お前には話がある!」
スチュアート伯爵はベアトリスの腕を掴んでその場を後にし、それを追う取り巻き。
遠ざかる中、悔しそうな涙目のベアトリスにキッと睨まれた。
まだ状況が分かってないのか、この先も一悶着ありそうだな。
そんなわけで、俺とミレイユの二人きりになった。
「災難だったな、大丈夫?」
「アスタ様……また助けて頂きありがとうございます。あの、どうしてここが?」
「いやー、トイレ探してたら迷っちゃってさ」
この屋敷は序盤の探索マップとあって結構入り組んでいるが、一度プレイしているので直感的に進むことが出来た。
「まっ偶然だよ、偶然」
「……」
「どうした?」
「えっと、その……森中の時のアスタ様と大分話し方が違うもので」
あっそうか!
あの時は破滅フラグのミレイユにテンパって、めちゃくちゃ丁寧な言葉遣いで話してたんだ。
「堅苦しい話し方って嫌なんだ、本当の俺はこんなもんだよ」
もうめんどくさいや、ラフでいこうラフで。
「なるほど、何というか……とても自然で良いと思います!」
「ありがとな、そうだ、これ」
「これって……私の冒険者カード!」
「森で落としてたのを拾ったんだ」
俺は冒険者カードを手渡すと、ミレイユはホッとした。
「ありがとうございます、お父様に怒られるので誰にも言えなかったんです……」
「無事に渡せて良かったよ」
ミッションクリアだ。
念のため、ミレイユの動きを確認しておこう。
「そういえば、あの後ミリシャ村には泊まったの?」
「はい、アスタ様の仰ってた通り緑の美しい村で、長旅の疲れを癒すことが出来ました。あとお友達もできたんです」
「もしかしてソイツ……俺らと同じくらいの男の子だった?」
ミリシャ村の男の子――主人公のことである。
あの村には他に子供はいない。
「ええ、アスタ様の言う通りです」
「よし!」
「よし……?」
「あ、いや、こっちの話!」
俺は心の中でガッツポーズをした。
しっかり主人公とメインヒロインが絡んでいる、シナリオ通りだ。
最低限、俺の見えない部分は正しく歩んでほしい。
ラスボスを倒すという主人公の役目を果たしてもらうために。
「それじゃ、俺たちもパーティーに戻るか」
「待ってください」
ミレイユがスーツの袖を掴む。
「どうした?」
「少し、話を聞いてくれませんか?」
ミレイユが俯きながら言った。
「私、引っ込み思案で、自分に自信が持てないんです。剣士の家系なのに剣術も得意じゃないし、魔法もイマイチで……」
あれ、なんか覚えがあるな。
これ確か、今の騒ぎを助けた主人公に言うセリフじゃなかったか?
この後、ミレイユは悩みを打ち明けるはず。
「私、どうすればアスタ様みたいに強くなれるんでしょうか? 実力も心の強さも」
そうら来た!
また主人公ムーブだよ。
何て言ってたか思い出せないな……ここは出血サービスだ。
「少なくとも、俺になるのは無理だな」
「え……」
「俺は属性魔力持ちなんだ」
「ぞ、属性魔力!?」
ミレイユが目を丸くする。
ゲームでも数人しかいない特殊技能。
そりゃこの反応は不思議じゃない。
「ああ、雷魔法なら他のヤツよりもずっと強い。生まれ持った物だから後天的には身に付かない」
「なるほど……」
「だけど、ミレイユにしか出来ないこともあるよ」
俺は壁に飾られた模造剣を手渡す。
「この剣に何か属性を込めてみてくれ、魔法を使う要領で」
「へ、この剣にですか?」
「何でも良い、炎魔法でも氷魔法でも、どんな属性でも」
ミレイユは両手で柄を握り、集中する。
すると、模造剣の剣身が炎を纏い、その色を赤く染めた。
「こ、これは……!?」
ミレイユは目を見開く。
彼女には魔法剣士の才能がある。
剣にあらゆる魔法を付与し、オールラウンダーに戦える性能のキャラだ。
判明するのはもう少し先だが、これくらいは誤差だろ。
「やっぱりな、
「わ、私に、こんな力が、どうして分かったんですか!?」
「何となくだ」
アスフロをプレイしたからだ、と心の中で呟いた。
「ありがとうございますアスタ様、私、頑張れそうです!」
「それと様付けはいいよ。同い年なんだし楽な会話しようよ」
「は、はい、えっと……ありがとうアスタくん!」
モジモジしながら言うミレイユに、思わずドキッとしてしまう。
さすがメインヒロイン、本当にこの子が俺を殺すんか?
「てゆうか」
もう主人公ムーブを避けるとかめんどいな。
少なくとも、今のミレイユなら大丈夫そうだし、悪さしなけりゃいいよな。
細かいところは気にせず好きに生きて、後のことはその時に考えよう。
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