第12話 悪役令嬢たちを懲らしめる。
俺はミレイユの下に向かうと、壁際でさっきの少年少女たちに囲まれていた。
「キミ見ない顔だね、田舎の貴族ってヤツ?」
「あの……通して下さい」
「いやいや会話したいだけだよ〜」
ミレイユの行く手を阻み、タチの悪い絡みをする輩共。
その中心には、巨大なツインテールの令嬢が手を添えて嘲笑していた。
「――オホホホホ、芋っぽさの極みですわね〜このワタクシ、ベアトリスのような華やかながありませんことよ〜」
あ、あのドリル頭は……。
俺には見覚えがあった。
ベアトリス・スチュアート、アスフロにおける悪役令嬢ポジのキャラクターだ。
簡単に言えば女版アスタのような存在で、主にヒロインたちを目の敵にし、家柄を盾に威張り散らす。
オマケに敵として戦うときもまぁまぁ手強く、強キャラの部類に入る。
ただ悪役貴族のアスタと違う点は、ベアトリスには主人公と結ばれるというどんでん返しのような救済ルートがある。
本編でちょっかいを出していく過程で主人公のことが気になっていき、顔を真っ赤にしながら思いをぶち撒けるのだ。
そんな一面もあって、公式では実質ヒロイン扱いをされ、ルックスも可愛いので人気は結構高く、二次創作のイラストも豊富だ。
アスタとベアトリス……同じような役割で、その人気と結末は全然違う。
何なんだこの差は、悲しくなってきた。
「貴女のような芋貴族は、ワタクシには必ず地面に手を付けて挨拶しなさいな」
「手を……付けて?」
「分かりませんの、土下座でしてよ土下座、敬意を表す最高の所作ですわ〜!」
ベアトリスはオホホホホ、と口に手を当てて笑い、取り巻きもニヤニヤし始める。
なんかこの光景にデジャヴを感じるな。
「あ、思い出した」
主人公がミレイユの冒険者カードを届けるためにこの屋敷に侵入して、ミレイユが絡まれてるところに遭遇するんだ。
そして主人公は貴族の少年たちを魔法で撃退し、ミレイユとの仲が深まる。
そのイベントのシチュエーションと同じだ。
問題は……その絡んでる子供の中心がアスタだったはずだ。
それがミレイユとの初対面となり、アスタの印象が最悪になるのだが、今はどういうわけかベアトリスにすげ変わってる。
「またシナリオブレイクです、か」
これに関しては俺なんもしてないよ。
俺がミレイユに絡まずとも、誰かが代わりを担う流れになっちゃうのか。
よく見ると……取り巻きも本来はアスタの周りにいる奴らだ。
魔法の勉強に集中したかったから、普段の貴族の誘いを断ってた影響か?
まぁ性格の悪いヤツらを遠ざけられて良かったと思うことにする。
「ほら〜頭を下げてくださいまし、たかが男爵家風情が、スチュアート伯爵家令嬢のワタクシと同じ目線で話すなんて――可笑しいでしょう?」
にしても胸糞が悪いな。
偉いのは両親で、お前自身が偉いわけじゃないだろうが。
今の印象だとただの性悪女だな。
「何やってるのかな?」
「――!?」
俺が声を出すと、全員が注目する。
「だ、誰だお前?」
「そんなのどうでもいいだろ、で、何やってたんだ?」
ベアトリスは得意げに言う。
「貴方、見てわからないんですの、躾ですわ躾」
「躾?」
「そうですわ、田舎貴族には徹底的に上下を教えなければいけませんのよ!」
「あれ、お前らが躾られる方じゃないんだ?」
「……は?」
「か弱い女の子を複数で囲うくらい品性がないみたいだし……貴族としてのマナーはこれから学ぶつもりなんだろ?」
「は、はぁ、何言ってますの!?」
「え、違うのか、俺には到底真似出来ないな。さぞ良い教育を受けたんだなぁ、反面教師にさせてもらうよ」
ぶちっ!
「――誰に物を言ってるのか分かってますの!! ワタクシはスチュアート伯爵家令嬢、ベアトリス・スチュアートですのよ!! どこの貴族だか知りませんけど、家ごと爵位を潰して差し上げましてよ!!」
頭の血管が切れる音が響き、ベアトリスが鬼の形相で睨みつける。
「家は勘弁して欲しいな、使用人たちが路頭に迷っちゃうから」
「うるさいですわ! お前たち、あの無礼者を痛い目に合わせてやりなさい!」
「「「はい!」」」
取り巻きの少年たちがベアトリスを守るように立ちはだかり、魔力を練り始める。
「火球!」
「魔法矢!」
「氷弾!」
一斉に繰り出される初級魔法、俺は右手を前に出した。
「雷撃」
――ドゴオオオンッ!!
轟音と共に放たれた電撃は、取り巻きの魔法をまとめて蹴散らした。
たった1発の初級魔法だが、雷の属性魔力のお陰で威力が底上げされている。
「な……アイツ、もう中級魔法が使えんのかよ!?」
「今のはただの雷撃だよ」
「は、そんなわけないだろうが!?」
「あんな威力の初級魔法があってたまるかよ……!」
「まだやるか、次攻撃してきたらもっと威力を上げるぞ」
「ぐ、ぐぐぐ……」
「何をやってますの貴方たち! 早くあの無礼者に痛い目を合わせてやりなさい!」
「で、ですが」
「全然使えませんわねぇ、もうワタクシが直々に潰してやりますわ!」
ベアトリスが息を巻く。
ゲームでもこんな感じだったっけなぁ。
本編でも取り巻きのモブを倒したら、中ボスとしてアスタと戦うことになる。
序盤だから弱いけど(てゆうか全編通して弱い)ベアトリスならそうはいかないかも。
何故なら……彼女の魔法は初見では看破が難しいからだ。
「無礼者、ワタクシの魔法を見せてあげますわ」
ベアトリスは離れたところの壺を指差す。
「――加重力!」
すると、壺は載せられてた台ごとペシャンコになった。
「これがワタクシお得意の重力魔法ですわ! 後悔しても遅いですのよ〜、腕の一本でも折れば分かるかしら!」
ベアトリスは高らかに笑い出す。
重力魔法――ゲームでもまぁまぁ強めのカテゴリー魔法だ。
全ての魔法がガード無効を持ち、喰らうと一定時間スタンしてしまう。
ベアトリスの使う魔法は全てこれ、彼女が強キャラと言われる所以だ。
「オホホホホ、降参した方が身のためでしてよ。何なら重力魔法で土下座のお手伝いをして差し上げますわ」
「中々強い魔法だ、でも問題なさそうだな」
「な、何ですって?」
「俺なら無傷で済みそうだって言ってんだ」
ぶちぶちぶちっ!!
血管の切れる音が響く。
「その減らず口、身体をペシャンコにすれば閉じるかしら! 最大最強の加重力を喰らいなさい!」
ベアトリスは俺に指を刺し、照準を定めた。
「――アスタ様っ!」
ミレイユが叫ぶ。
俺は防御のために魔法を繰り出した。
「落雷」
初級魔法、落雷。
一本の雷が俺に目掛け落ち、それを人差し指で受け止める。
「は……」
「言ったろ、俺なら無傷で済みそうだって」
人差し指に電気がパチパチと爆ぜる。
俺の頭上には、粉々になった魔法陣が現れていた。
これは加重力 の魔法陣。
重力魔法は上からの攻撃に限られる。
つまり、攻撃方向が絞られるので対策も簡単だ。
アスフロをプレイしてなかったら見破るのは難しい。
「な、ワタクシの重力魔法が、こんな簡単に……!?」
「もう分かっただろ、お前の攻撃は通用しないぞ」
「う、うう、ありえませんわ! ありえませんわこんなこと!」
ベアトリスは涙目で地団駄を踏む。
すると、ヒゲを生やした中年の貴族がやってきた。
「何だ、騒音が聞こえたと思えば、お前たち何をやってるんだ……!」
「パ、パパ!!」
ベアトリスは涙を流しながら抱きつく。
どうやら父親らしい。
「ベアトリス、一体どうしたんだ」
「パパ、あの生意気なヤツがワタクシをコケにしますの、仕返ししたいですの!」
「は、どういうことだ?」
「ワタクシが田舎貴族に躾をしていたら、あそこの黒髪が邪魔してきましたの! これはスチュアート家の侮辱、社会的制裁が必要ですわ!」
ベアトリスが捲し立てる。
状況は状況だが、しっかり挨拶しないとな。
「どうも、私はクロフォード公爵家次期当主、アスタ・クロフォードと申します」
「クロフォード……君はまさか魔道具流通の」
「はい、あのクロフォードです」
俺は丁寧に会釈する。
クロフォード家――貴族の最高階級である公爵を賜る王国切っての家柄。
事態を理解したのか、スチュアート伯爵は顔面蒼白になる。
「公爵? どうせ伯爵よりも低いでしょうに」
「……こ、こ」
「へ?」
「――こ、このバカモンがあああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」
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