第七話 猿
その頃一方、街では…
「何、怖いわねぇ〜」
「また、現れたらしいぜ。例の怪人…」
それは、街に現れると言う怪人話しだった。
《王都 西地区酒場》
「「カンパーーーイィ!!!」
酒を酌み交わす物…
「マスター、こいつについての情報が欲しい。」
情報を金で買う物…
「へぇ〜クラリアちゃんって言うんだ。」
出会いを求める物…
そこには、他者多様な者達が集う場所が広がっていた。
「てっ!」
込み合う店内の客がある一転に集まり、そこに並ぶ客にぶつかるリコ。
「なんだ、あれ。」
はぐれたムサシには、連絡用のMIを持たせていたこともありそちらにメッセージを送り酒場で待とうと席へと座るリコは目の前にいる筋骨隆々、ピッチとした黒いシャツをきたこの酒場のマスター。
「お客さん、知らないですかい?」
“不可視之超人ハディード・ローム”
「あぁ~知らないねぇ、悪いが見ての通り街の人間じゃないただの下民の田舎もんなんでね。」
リコは嫌味交じりに聞き返す。
「そうでいらっしゃた、申し訳ない。お気を落とされたのなら…」
「いいよ、そう言うの。で、あれ何なの?」
「"怪人"ですよ。」
「怪人?」
酒場の店主はこう語った。
最近、この街で奇妙な事件が二つほど起きているらしい。
一つは、盗人・夜猿の噂である。
「夜な夜な街中の金品を盗んでは、姿を消す。その俊敏な動きから夜猿とも呼ばれる男です。」
二つめは、怪人・閼伽蛾禰
「こっちはちと厄介でしてな…」
「厄介?」
「なんでも、それに会ったものは体がコードで繋がれ生命力を抜き取られたかのように黒くしぼんで骨と皮だけになってしまう。残忍かつ珍妙、全くいやな話です。」
その話を聞いてリコは…
「なんだそれ、会いたくねぇ~」
「ハハッ、全くです。」
《王都 騎士団警備部本部 尋問室》
「だからさぁ~言ってるじゃん僕はなんもしてないって。」
「そんなわけありません、この周辺地域で多くの目撃情報、被害届があったんですから。」
そこには女性騎士から尋問を受けるEven I don't know my real faceと中央に書かれた白いタンクトップと黒のボンタンにアームカバーをした金と黒半々に分かれた髪色の男。
「だからさお姉さん、それは事故なんだって。そ・れ・に」
男は言い訳がましく話した後、女性騎士に近寄り言い寄る男。
「あんまり怒るとせっかくの可愛い顔が台無しだぜ」
「話しをそらさないでください、とにかく貴方には…」
(あれ…)
口説き文句で話しをそらそうする男を度返しにする女性騎士。
(ビンゴ!響いちゃったね)
「いやいやいや、マジだってお姉さん可愛いし、スキンケアとか何使ってるいい匂いだね香水とか好き?シャンプーは?」
「なっなにを…」
それから一時間後…
「まっまったく、もうこんな悪さしちゃダメですよ。」
「へぇ~い、気ぃ~つけますよ。」
(俺は生まれた時から泥棒だった。)
《王都 郊外》
そこは街のごろつきが集まる、下水の近く。
盗賊ギルドの立ち並ぶ裏社会、そこにある小さな小さなぼろ屋。
「盗んでこいお前みたいな無能が金を稼ぐにはそれしかない。」
生まれついての手癖の悪さそれだけが少年の才能だった。
(盗みに必要なのは、話術と戦闘術)
《王都 郊外地下格闘技上》
「うぉぉぉ!!!」
歓声の上がる周囲、それを一心に受ける16歳前後のスキンヘッドの少年。
「なぁ、お前チャンピオンか?俺と戦えよ。」
「ほぉ~威勢だけはいいみたいだな。ヒョロガリ」
チャンプ相手にメンチを切った当時10歳の盗人の少年は、果敢に挑み。
「痛ってぇ~」
ボロボロに負けていた。
それから2年…
「くっ…そ…」
「うっしゃぁーーー!!!これで1200戦1199敗1勝ぉぉぉ!!!」
「はっ…よかったな。負けず嫌いくん」
二年間、他には目もくれず無謀な挑戦を続けその体を傷つけながら後ろ指をさされながら笑われながら不屈の精神で挑戦し続け手にした勝利。
「てかお前、本当に最後まで“手”使わなかったな。」
「あ”ったりめぇーだろ。僕にとってこの手は商売道具…だからな…」
(これで…最っとでかい仕事が狙える。そしたら親父も…)
「ふざけんなぁぁぁ!」
怒り狂う父、吹き飛ばされる息子。
「今までどこで油うってやがったぁ!!!」
「親父、貧乏人間相手じゃ限界がある。金持ちを狙うなら色々と準備が…」
「うるせぇー!、お前はさっさっと…」
(こん時初めて気づいた…親父と僕の性能差。人間としての格の違い、考え方から生き方から視野の違い。親父は馬鹿で僕は天才、少し考えればわかる。そんなこともわからない)
その時、少年は最初で最後の父親に意見した。
「おつむが弱い奴ほど、結果を先に求める。暴力に頼るのも相手を服従させる結果を先に求めたから、安い金しか持たない平民や貧乏人どもを狙わせるのも簡単に結果が得られるからだ。」
「てめぇ~何をごちゃごちゃとぉ…」
「だからよ…バーカ、もうちっと頭使えこのウンコ親父。」
顔を真っ赤にして血管を浮き上がらせた父親が、持っていた酒瓶を少年の頭に向けて叩きつける。
(この二年間で、僕が学んできた蹴り技はなんでもありの裏格闘技を想定して作られたもの)
少年は手をズボンのポケットに入れる。それが彼の戦闘の構え、決して手を使わない彼の誓いの証。
その彼が、凶器にもなりえる酒瓶を割ることなく蹴り上げ…
「喰らうなら、てめぇーだけでな。」
父親の顔面に蹴りつけ、その顔に触れる瞬間酒瓶が割れ破片がその顔面に無数に刺さる。
「それじゃな、親父。これでグッバイだぜ。」
その日少年は自立した。
それから少年は街に出て、巧みな話術で人をだまし。
図書館でものを学び、大学を出て就職し舞踏会に出るまでになった。
「本当にあなたのことが…」
かつて盗人だった少年に向かい合う、ブランドヘアーの女性。
「僕もだよ…」
向かい合い唇を合わせるその瞬間。
「な'ん'て'ね'?」
彼が狙ったのは、この日この舞踏会之当日にのみ彼女に託されるアレキサンドライトのピヤス。
「貰ってくよ。」
少年は…いや、青年は飛び出した。そして…
「夜の中に消える…カッコイイぃ〜」
“それが僕の一番最初の大仕事、泥棒としてのオリジンだぁ”
《そして現在の王都西地区商店街》
(今日も月明かりの当たる夜の屋根を駆ける。)
この時の彼は、風を感じて笑うバイク乗りの如き楽しさを全身に感じながら今日の夜の屋根を駆ける。
「ヒャフォーーー!!!」
“今日も…マジ余裕”が彼の脳を埋めつく…
「随分と、楽しそうだな。コソ泥鼠…」
「あ”」
現れるのは赤い頭のカチューシャ野郎。
(バット…)
「最上赤禰合金バットと強化力学腕鎧」
赤禰合金、それは世界第三位の硬度を誇りる鉱石かつ鉄なみの殉難な変形率を誇る。
その二つが合わさることで生み出す凄まじい威力。
「死ねぇ!!!」
「ちょいちょいちょい!」
間一髪、噴射でその攻撃を避ける。
「危ないきみぃ~いきなり」
「あ”!盗人に加減なんていらねぇーだろ。」
「いやいやいや、流石に殺しちゃダメでしょ。懸賞金は賭けられてるけど生死は問って書いてあるでしょ!!!」
「あ”?犯罪者ならなんでもしていいかと思ってた。」
「そんなわけあるかぁ!」
殺されかけた彼は、冷や汗をかいて目の前の青年リコの恐ろしさに驚く。
(この子さては世間知らずだな、どこの田舎者だよ。)
「で!てめぇーを生け捕りにすりゃ~いいんだな。」
「まっまぁ~そうだけど。…やめといた方がいいと思うよ、僕…強いよ?」
その瞬間、彼の目から放たれた凄まじい殺気を受けて狼狽えるリコ。
「悪るい、これでおしまい。」
一瞬、たった一瞬のスキで背後を取られ頬を指でつねられたリコ。
(!)
その状況に、リコは凄まじい恐怖を覚える…が…
「足元、ちゃんと見た方がいいぜ…」
「え?」
その瞬間、足元から現れた赤いネット。
「なんだこれ、全然切れねぇ~」
「そりゃそうだろう、そいつはさっきのバットと同じ素材でできてるからな。てか、お前泥棒だろ。なんでこんな簡単なトラップに引っかかってんだよ。」
「いや…」
(言えない、久しぶりの若い子相手にカッコつけたかったなんて…言えない…)
そんなカッコ悪い大泥棒…
「そういえば、君名前は?」
「犯罪者に名乗る名はねぇ」
「ふぅ~ん、なるほど。リコ・フェッラリウスくんか、いい名前だね。」
「あ~あ…ん?」
その瞬間、リコの頭に浮かんだ疑問…
「なんで俺の名前知ってんだ!!!」
「ん?それはね、僕は読唇術が得意でね。」
「それだけ?」
「うん、それだけ。」
「「・・・」」
「まぁ~なんにしろ、お前は騎士団に突き出す。」
「わぁーーー!!!横暴だぁーーー!!!」
わけのわからないことを叫ぶ彼を無視して、歩みを進めるリコ。
「てか、フェッラリウスってあの名鍛冶師リス・フェッラリウスさんの息子さんとか?」
「な…」
その瞬間、リコの耳に飛び込んできた衝撃の言葉。
(なんでこいつ…親父のことを…)
「ふぅ~ん、図星なわけね…」
そんな世間話の最中、突然リコの皮膚に伝わる違和感。
(なんだ!)
それは焼けるような暑さで、夜猿を捉えた網をくくりつけたその棒を離してしまう。
「あっつ!」
「ひひぃ!引っかかった引っかかった!!!」
「おい、待て!」
夜猿は走って逃げる、それを追おとするリコに急な吐き気。
「ゔぅお!」
その場に突っ伏し、標的を逃すリコ。
(どうなって…やがる…)
しかし、吐き気はするのに吐けない。吐き気、そんな気だけが全身を駆け巡る。
「ひっひひん!そう簡単にこの大泥棒様が捕まったら警備隊なんていらねぇーんだよ。少年!」
そう言って走り去るため路地裏に入ったその時であった…
「あ"!」
目の前に現れた"コード"。
「体の…力が…」
それに生命エネルギーの全てを吸い尽くされたかの如く萎んで干からびる夜猿。
(ブルン!)
吹き飛ばされたそれを吐き気の中、精一杯い顔を上げたリコは目撃する。
「なんだよ…今日は無駄に幸運ぜ…」
路地裏から現れたもう一つの怪物の正体は…
「閼伽蛾禰…」
同時刻、夜の王都に侵入する二人の少年少女。
「なぁ!こんな方法あんなら最初っからこれで…」
「何言っての!私の魔力は指名手配中なのよつまりこの方法で入って見つかりでもしたら魔法で反撃できないんだからね!。」
ムサシは魔力がなく、アリスは魔力を隠で隠した上で王城行きの荷物を運ぶ魔導機械馬車の荷台に乗って侵入。
「止まれ!物資の確認を行う。」
その発言の瞬間、二人の脳裏に過る焦り。
(やばいやばいやばいどうしよう~)
(どうするも何もないだろう、魔法でどうにか…)
(だからその魔法が使えねぇーーー!!!って言ってるだろぉ…てかあんたなんで私の言ってることわかんのよ。)
(俺昔から人の感情が匂いでわかるんだよ。それに話すのも匂いで…)
「いやぁーーー!!!」
会話の方法を聞きそうになって叫んでしまうアリス。
「ん?」
「「あ…」」
二人は確認中の騎士団と目が合い…
(バァーーーン!!!)
王都の入り口に凄まじい爆炎が上がる。
《視点はリコと夜猿へ…》
「ドウシタ…コノ程度カ…明工ノ息子ト…我ト同ジ異名持ノ男ヨ…」
閼伽蛾禰の目的は、不明。赤いそのゴーグル越しの瞳は何を映し、何を見据えて行動しているのか。目的、動機、素性全てが不明のそれにのされる二人…
(「どうする、七光りくん」)
(うぁ!びっくりしたぁ!)
頭に直接語り掛ける夜猿に、驚くリコ。
(あ”?なんで言葉がでねぇ~つかなんで微動だにしねぇーんだ俺の体…)
(「それは俺の動けないのは俺の魔法の影響だ、口もな。とにかく今は聞け、目の前のあいつと戦うのリスクが高すぎる。やめよう、ああ言うたぐいの奴とはかかわらないのが一番だ。だから逃げる、それまで死んだふりしとけ。」)
(確かに…俺には戦闘能力がねぇーし、お前は~あれだし…)
(「いや、別に勝てないわけじゃねぇーからな。勝てるから、余裕だからでも今は戦うメリットがないから逃げようって言ってるだけで…)
夜猿は、一度倒した夜猿の実力を疑っているようで、それに対して釈明をしている。
(はいはい…)
「流すな!!!ガチだからガチ!!!」
「ん?」
「あ…」
「力量だけじゃなくて頭もか…」
思わず言葉を出す夜猿。
「マダ…息ガアッタノデスネ…食事ハ…ユックリヤル主義ナノデスガ…」
((食事って…))
「死ネ…」
((あ…これ死んだ…))
二人が死を悟ったその瞬間。
(バァーーーン!!!)
後ろから聞こえる爆発音。
「コンドハ…ナンダ…」
コードエッジが視線の方向を変えたその瞬間。
「「うぁぁぁあぁぁぁ!!!」」
こちらに走ってくる二人の姿。
「ムサシ!!!」
「アリス!!!」
向かってくる二人の名前を叫ぶ。
「「お前、あいつと知り合いか?」」
同時に叫んだことを気が付いた、二人はお互いを見つめあって同じセリフを吐いた。