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第六話 才能と無能

「お前の趣味か?変態やろぉー…」

その言葉は、敵に対する世界一の侮蔑の言葉。目の前の男は、その言葉に怒り傲慢(プライド)を傷つけられ怒りに震える。

「キミィ〜…絶対殺すよぉ〜許さないよぉ〜ぉ"〜」

「どうした、随分と態度が安っぽくなったじゃねぇーか…こいよ…」

「死ッ風旋風(フウァール・パラサイト)!!!」

それはまるで風の群れ、回転する旋風が虫の群れの如く小さくしかしその威力はそのまま圧縮されたが如く強く逞しい…そして、何より…

寄生虫(パラサイト)…その意味は、名の通り体内に宿りその身体を蝕む虫の群れ。どうする?その風を喰らえば…」

それがムサシの身体に直撃する!!!

「死ぬぞ…」

それは、ムサシの身体を囲むようにして切り刻みその傷口から体内に駆け上がり血管と言う血管を破壊して殺す…はずだった…

「俺さぁ…人形なんだよ」

ムサシは、その風の群れを最も容易くまるでそれが当然であるかの如く平然と立っている。これには思わず碧眼の男も…

「ワンダホォー」

と驚きを隠せずいる様だ、それは当然人形なのだから血管も無ければ傷ついてはいけない臓器も無い。そして何より、ムサシの肉体は材質不明の超合金を超える耐久性と防御力。それは勢いの乗った鬼の拳すら砕き割るほどに硬いのだから、たかが旋風如きに傷つけられる通りは無い。

「俺には寄生中なんて気がねぇーし効いたとして困らねぇー、だって血管も臓器も無いんだぜぇ。どう困れって言うだよ?」

笑い笑い笑い、鼻で奏でる半笑い。ムサシは煽っている、目の前の相手を。それは威圧とは別、相手に対する小馬鹿にする様な態度。その意思は「お前なんて雑魚は、どれだけやっても俺には勝てない」そう思わせるが如く、煽り文句で相手のフラストレーションをあげさせ手の内をどんどん明らかにしようと画策している。

「そうか、ならこれでぇ〜」

碧眼の男は、それになせられまんまと力を見せびらかす。

「旋風・(フウァールシェル)

しかしその攻撃は予想を外す者だった、なんと男は攻撃魔法では無く防御魔法を繰り出して来たのだ。しかし、一体何のために…

「気おつけろぉ!ムサシ!!!その魔法…」

「もぉ〜遅い…」

そう叫ぶアリスと声の後、ムサシは碧眼の巻き起こすその円形の風のドームに引き寄せられ…

「何だよこれ!動けねぇ〜」

貼り付けに身動きが取れない。

「流石だなぁ〜この旋風・(フウァール・シェル)の切り裂く風を受けてもその身に傷一つ出来ないとは完敗だよぉ〜ビスクドールちゃん?」

男は"完敗"と言う言葉を口にした。それは、その言葉だけなら完全に敗北を認めたと言うことになる。ならば、もっと悔しがってもいいはず、もっと何かあってもいいはずなのに。碧眼の男はただ…

「なに笑ってやがるぅ…」

「ヒィヒィ!気づけよそろそろ…無事なのはお前だけだ…」

そう、何も風に引き寄せられるムサシだけじゃ無い。周囲の家具や壁もどんどんどんどん引き寄せられては切り裂かれて地理になる。そして彼女も

「いやぁーーー!!!」

アリスが引き寄せられている、これはまずい非常なまずい。アリスは生身の人間だこれを受ければひとたまりもない。だから、だから激突は避けなければならないそれを成すのはムサシだけ。

「クッソぉ外道がぁーーー!!!」

ムサシは咄嗟に離れた位置に吸い寄せられるアリスの元にリコが作ったクラウソナスの破片から組み上げられた糸で彼女を縛って引き寄せようとしている。

「無駄だぁーーー!!!」

しかし、糸もまたその風の渦の中へ吸い寄せられ届かない。

「クッソぉ…どうすれば…」

その瞬間、ムサシの脳裏に浮かんだ一つの答え…

「アリスぅーーー!!!」

「え!?」

「魔法だぁーーー!!!」

それは魔法を魔法による相殺。魔法の防壁で防御するもよし、相性かなんかで相殺するもよし。

とにかくこの状況を打破するだけの力があればいい、ムサシはただそう願ってそう叫んだ。魔法と言う名の奇跡を信じて。

「ムサシ…だが我…」

アリスは何かを悩んでいる…

「無駄だ無駄だ、そいつは魔法の制御が効かないんだからねぇ〜」

「何だって!」

「そいつが言ってたろ、"危険因子"って。この世界じゃな、ムサシ(お前)みたいに魔力を持たない人間は無能で使えない出来損ないの劣等種。それとは対象的に巨大な魔力や属性を持ってしまった者もまた…危険因子として差別されるんだよ…」

それはムサシにとっては理解しがたい事実。実力が才能が無くてもあっても差別される。ならば、ならばどうしろと言うんだ…

「何事もほどほどが肝心なんのさ。この世界の天才はみ〜んな、素の才能だけで言えば中の下からよくて中の上、それ以上はいらねぇ〜んだよ。」

「何でだ!ズゲェー奴がいることはいいことじゃねぇーか!!!」

「ちっちっち…何言ってんだ、核兵器ってあるだろう。あれは力のある国のその使い方をしってる頭の冴えたトップの人間が少量持つから抑止力になるのであってそこら辺の一般人がそれと同等の力を持っちまったら、何をしでかすかわからない。才覚ってのはな、無さすぎればゴミ出し、ありすぎても手に余る…だから消すんだよ。力を持った奴がその力の使い方を知って何かをしでかす前にな…」

それは確かに正論かもしれない、魔法と呼ばれる巨大な力を各個人が各々の形で各々の量で各々の現象を持って操り生み出すこの世界で、ありすぎる才能は国にとっては邪魔なものかもしれない。万が一反乱が起きたら?その者が力を悪用したら?色々なケースが考えられる。


だから消す、鎮圧する。火が燃ゆる前に火種から消すのがこの世界のやり方。しかし、ムサシにはそれがどうしても理解できなかった。なぜなら…


前世の記憶…

「なぁ〜ムサシ、俺はな。力のある奴ってのは無い奴を守るためにいると持ってる。そんでよぉ、力のない奴はある奴を支えてやるためにいる。例えばな、俺は見ての通り強いがもし食事を作ってくれるおばちゃんがいなけりゃ餓死にしちまうし、家を建ててくれる大工のおっさんがいなけりゃ寒さと暑さでどうにかなっちまう。だならな、ムサシ。"弱い奴には弱い奴なりの戦場があるんだよ。"だからそいつらを大切にしてやらなきゃな」

畳の上で胡座をかくベンケイの大きな背中を見ながら、ムサシはその話を聞いていた。

「でも兄貴、俺らサイボーグなぜ?食事も睡眠も環境だっていらねぇーじゃん。どうせ死なねぇーんだから。」

「それもそうだな…それじゃぁ〜メカニックはどうだ。あいついねぇーと故障なおせねぇーだろ。それに、"デザイナー"がいねぇーとかっこつかねぇーし、"フォーマー"がいねぇーとハンサム顔も作るねぇーしパーツ交換できねぇーぞ。」

「確かに…」

「だからよ、人が人を支えてんだ。仲良くしようぜってこった…」


弱い奴が無能でいらないんじょない、弱い奴に奴なりの役割があって価値がある。

そして、強い奴にもそれらを護る責務がある。

なら、力を持たなず戦いと、護りたいと願ってもダメだ奴がいる中で少なくとも人一倍の力を持って生まれたのなら…その力を…"力の無い奴のためにつかわねぇーといけねぇー"。ムサシはそう思ったのだ。


「アリスゥ…頼む…助けてくれる…"お前の力が必要だ"…」

その言葉、アリスが今まで言って欲しかった言葉。今まで力のせいで迫害を受けた、魔女裁判にもかけられた、そんな彼女がやっと…初めて信頼されて託されて…"必要とされたのだから"。

「うぅ…ぐぅ〜」

アリスの目から涙が溢れる、しかし時は待ってはくれない。アリス皮膚がその球体につくその刹那の瞬間。

暴風(テンペスト)…」

それは、突如として現れた。先程の球体が引き寄せて粉々にした家一個とは比べ物にならない広範囲森全体を吹き飛ばすほどの強風が吹き荒れて現れて相殺どころか完全に圧殺して消し去る。

「これが…アリスの魔力…」

「我は…基本五大属性の全てを最高純度で扱える稀な存在…のちに大魔法使いになる者…その名は!三角帽子のアリス!!!」

アリスはそう叫んでムサシをお姫様抱っこして空中に飛び上がり、虹のオーラを纏って空に座す。

(風属性は…天才の兆し…)


碧眼の脳裏…


風属性、それは基本五大属性の中でどの属性とも相性がよく複合させやすい属性。

それでいて、その応用性は風単体としても多岐に渡り、殺傷力、防御力、速力、遠近中あらゆる局面に対応できる万能属性である。

風と言うのらりくらりとした流れる様な性質から、破天荒な変わり者が多く。周りからは浮いてしまうが、それは逆に言えば天才が故に孤独とも言える。

(僕は、そんな属性を持って生まれた…)

彼は、生まれた時から異彩を放っていた。

「ズゲェー!お前空飛べんのか?」

「あぁ〜できるよぉ〜」

彼は産まれた時から並外れた魔力制御で魔法を何の学習や訓練も無しに使える純粋(ナチュラル)な魔法使いだった。

だから、小さな頃はよく友達を連れて空を飛び、ピータパンの真似をしていた。

「なぁーなぁー!俺も俺もぉーーー!!!」

そうしていると、近くに住む子共達が集まってきて皆んなで飛んだ。いつしかその人数は増え、数十名の大御題で空を飛ぶこともあった。


しかし…彼は知らなかった…


(あれ…身体が…)

自身の限界値(まりょくりょう)の底を…

(「昨夜未明、風属性魔法による集団転落が発生しました。」)

彼の魔法は、空中で切れてしまったのだ。多くの子共達を浮かせたまま…遥かに上空落ちたら必ず死ぬその場所で…

「見ての通りだ、お前は多くの人を殺め定期。その罪は償わないと行けない定期。」

「はい…」

彼は捕まった。しかしそれは当然のことで、彼が殺めた人の人数、負傷者の人数を見れば明らかだ。状況的に"死刑"の線もありえる犠牲者の人数。彼は…ただ黙って死を覚悟した…

「そう言いたいところだが…」

「え…」

自身を尋問する魔法騎士団長の男は、言葉を濁した。どうしてだろう、どうあってもろくな結果にならないこの状況でどうして言葉を濁すのか…

「"お前には才能がある、定期。"」

その言葉が、絶望の淵いた彼を救った。

「だからその芽を摘むのは惜しい、定期。だから、こうしようぜ。"お前、うちの団に入れ、定期。"」

騎士団長は尋問室で、指を刺してそう言った。それは倫理観と言う観念からは想像できない言葉で、当然少年である碧眼の頭にも無いことだった。

「それが…許されるんですか…」

「許す?無理だな。罪は罪なんだ"死を持ってしか"償えない、定期。でも…見逃すことはできる…」

見逃す…不思議な言葉だった。だって、人殺しが許させることなんて…神の名の元に生きるカルト集団も政治の名の元に生きる政府も神なんて当てにしない科学者でさえ…そんな言葉は使わない。


少年のここらに、同様と罪悪感と衝撃が走る。


「取引をしよう。俺はお前の罪を見逃してやる、そのかしお前は俺にその才能を提供する、定期。」

「見逃すって言ったって、そんなの世の中が許すはず…」

「報道内容をよく聞け、定期。」

そう言われ、ニュースの方へ耳と目を傾けると風属性の魔法による…とは言われているが、その犯人までは提示されていない。つまりは伏せられているのだ、本来捕まって尋問をされているはずの自身の名を使わずあえて隠して犯人をわからなくしているのだ。

「で!どうする?」

それは究極の二択、このまま黙って死刑になり罪を償うか…それとも…世界に嘘をつき続け生き残るのか…

「罪は…明かされなければ罪でわ無い。語られぬ物語が風化し、消えゆく様に。罪もまた、隠していれば消えて無くなる。…君は"選ばれたんだよ"。罪を裁く我々から…定期。」

男の言葉に魅了され、彼は特別推薦で騎士団へと加入した。


"騎士とは、技を磨き、才覚を育てそれを持ちいる者のこと…選,ば,れ,ん,だ,よ,…ボクは…"


時は…現在に戻る…

「なぜだ…選ばれたんだよボクは…なのに…選ばれなかったお前ら劣等因子と危険因子なんかに…」

粉々になって大きなクレーターを描くその中心に、ボロボロな状態で横たわる碧眼。

「そうだな…」

それに駆け寄り、言葉をかけるムサシ。

「でもそれだけだ…お前は選ばれただけ、運が良かっただけなんだよ。才能も産まれも育ちも…出会いも…運が良ければサイコーだし、悪ければサイテーだ。でもさ…"俺らとお前の違いって、そんなもんなんだよ"。」

その言葉は、碧眼に…二度目の衝撃を与えた…


こうして、なんやかんや一難を乗り越えたムサシとアリス。アリスはムサシを森の外まで案内し、王都への方角を教えた。

「ムサシ、今回のこと本当にありがとうだぜぇ。なんかお礼がしたいんだけどよ…」

アリスのその言葉に、ムサシは手を前に出し笑顔でこう答えた。

「そうか、じゃぁー!俺の仲間になってくれ!」

その言葉は、アリスの理想を…夢を…叶える最大の声援。初めて…初めて誰かに必要された自分自身に…必要としてくれたムサシに…

「うん…悪い…涙が止まらねぇーわ…」

彼女は恋をした…

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