第四話 相棒ー2
あれから、二人は寝た。
「ん…」
しかし、寝相の悪いムサシは寝ている間に布団を移動し…
「かぁ〜」
リコの布団へと移動していた。
「うっ、うわぁ!!!」
起きた瞬間、同じ布団に女がいる。
その状況に戸惑いを隠さず転倒。
「ん…なんだぁ〜騒々しいなぁ〜ぁ〜」
目をこすりながら眠そうにするムサシ。
「人のベットに入ってきでじゃねぇーーー!!!」
「はぁ〜…あれ?そういやなんで、俺こっちのベットにいるんだ?」
(こいつ、無意識かよ…)
ムサシの、どこか天然なところに、リコは困惑して頬を赤絶句した。
「はぁ〜お前…」
彼は目を逸らし…
「ん?」
少し横目で彼女を見てそう言った。
「無防備過ぎんだろぉ〜」
「は?」
なんやかんやで二人は布団を出て…
(カン!)
作業を開始した。
(カンカン!)
集中を切らさず、剣とは呼べぬ鉄の棒に向き合う彼と、それを見守る彼女?
(カン!!!)
そしてそれらは、数千度を超える熱の中へと入れる…
そして再び
(カン!)
打つ。
「あ"ーーー…クソ!」
しかし、ことはそう単純では無く、正直言ってうまくいかない。
「なぁーなぁー」
「あ"!なんだよ…」
そんな不貞腐れたリコにムサシは声をかける。
「いっつも見てて思ってたんだけどよぉ、トンカチ持つ時にやってるあの辺な光ってんのなんだ?」
「光ってんの?あ〜ありゃぁ〜魔力だよ。」
「魔力?」
ムサシは、聞きなれない言葉に困惑している。
それを見て、リコはもう一度魔力をトンカチに纏って説明する。
「魔力ってのは、この世界に空気と一緒に充満するエーテルつーのを、オレらの身体ん中にある霊的第六感で、吸収、貯蔵、出力することで発生させる特殊なエネルギーのことで…一般的こいつを魔法つーんだぜ。」
「おぉ〜なんかファンタジー見てぇーだな。」
ムサシは、馴染みの無い言葉に触れ少し楽しそうに手をぱちぱちと叩く。
「そんで、オレ達鍛冶屋はこいつに自身の心を流して…打つ!」
「心を…流す?」
「魔力ってのは、精神で扱うものだからな。そいつと精神は密接な関係にあって、オレらはそれを通して鉄やアルミ、他の鉱物とかの物に自身のしてやりたい形、そしてそれが持つ力を打ち込む。生産性じゃ機械に劣るが、武器はやっぱり、職人の心が入ってこそだと俺は思うがね。」
「ん…」
職人、鍛冶屋の錬成技術は、多岐にわたる。打ち方や温度の加減と共に、この世界で重要なのは、心を物に込めること。それを例えるなら、親や大人が子供達に向ける愛情や未来への期待、伝えておきたい教訓を言葉にする様に、職人は物にそれを行うのだ。
そしてムサシは思った…
(技術、そいつは俺にとってすっげぇー冷たいもんだったし、だからくだらないもんだと思ってた…でも…)
「何か…あったけぇーな。それ…」
ムサシの世界にとって、技術は感情のない生産性力と性能だけの冷たいものだった。
そこに個性は無く、ただ期待通りの成果と売り上げをもたらせばいいだけのもの。
作り手は機械、生産性は高速、確かに効率的で無駄がない…けれどそこに個人の意思が入る余地も、思いなんて心なんてものは微塵も無くできるのは冷たい鉄のそれ。
丹生と生涯とその手に握った金槌で、一心不乱に打ち続け試行錯誤しまた打って、取り出す時も打つ時もあらゆる場面で人の手の温もりのある鍛冶屋と言う仕事に…ムサシは…愛着にも似た思いを持っていた。
そんなことを思ううちに…ムサシはふと、疑問に思った。
(いつからあんなに…技術は…冷たくなっちまったんだよ…)
フラッシュバックする、実験室での行為。
「おい!」
閉じ込められた閉鎖空間。
「おい!!」
その過去は…ムサシの顔に影を落とす…
「おい…」
「へ!」
ムサシの顔に落ちた影を落としたのは、リコの声と…その温かな手…
「大丈夫か…涙、出てんぞ…」
ムサシは無意識のうちに、過去のトラウマからその瞳に涙を溢れていたようで、リコはそれを見て心配してくれたようだ。
「ありがとう…」
ムサシは、その言葉と行動に素直にお礼を言って首を横に少し曲げた。
「ん!」
リコは、その仕草と涙を拭いた後の微笑む様な顔に、いつもとは違うベクトルの可愛さを感じ…
「べっ…別にテメェーのためじゃねぇ〜よ」
「ん?じゃー誰のためなんだ。」
「誰でもいいだろーがよ!」
二人は、元気を取り戻した。
「てかさ、そんなんあるなら魔力使って攻撃すれば?」
確かに言えている、魔力なんて力があるならそれを使用してあの男を撃退するればいい。
なのに、なぜそれをしないのか。
「無理だ…」
「なんで?」
「オレの魔力量は56。魔法を実体化するには最低100。戦闘で応用するとなりゃ、200はいる。だから無理だな。」
そう、この世界では魔法騎士団と呼ばれる軍事組織がある。
そこに所属するには魔法騎士団要請学校と呼ばれる要請期間に入り勉学と共に魔力の扱いを学ぶのだが、それに所属するのにも試験を通る必要がある。
試験は三つ、第一、第二、第三と続くが、その内容は年によって変わる。
しかし、絶対に変わらない試験が一つだけある。
それが、予選の魔力測定及び、魔力技術の検査と他技能、身体能力の検査である。
そこでの一番最初の試験は魔力量の測定で、その時点で魔力量100以下のものは落とされる。
そして、この世界で魔力量100以上あるものは世界人工のおよそ半分にも満たないと言う。
つまり、これは彼が極端に悪い訳ではなく、むしろ50もあるなら良い方だ。
「へぇ〜でも、お前は魔力使ってるじゃんか?」
「あ"?これは、ただ錬成だからな、魔力消費がすくねぇーんだよ。一時間で10消費するからオレの場合休憩なしだと5時間が限度だな。その後、倍の時間をかけて消費した魔力を回復する。だから度々昼休憩で飯とか寝たりとかしてたろ。寝てると魔力回復の速度が倍になって飯食えばさらに倍になるからな。」
「ふぅ〜ん」
ムサシは、リコの話しを聞き。
この世界の常識を、また一つ知った。
それから、数日、約束の7日間終了まで残り三日…
「ダメだ!」
また、疲れ果てて倒れるリコ。
「おぉー!最初は形すらまともにできなかったのに、すげぇーじゃん。」
ムサシの言う通り、確かに最初に比べればまともな剣を作れているだけいい方だろう。
しかし、彼が作ろうとしているのは、名だたる名刀を超える伝説級の代物。
父、名鍛治師リス・フェッラリウスが生み出した名品を超える練度の高い代物。
それを七日で作るなど到底不可能で…それと同時に焦りとさらなる劣等感で押しつぶされそうになってるリコの頬には嫌な汗が流れる。
「やっぱり…オレに親父みてぇーな才能は…」
「大丈夫だって、最初よりあんなに上手く作れる様になったんだ。この調子で…」
「だからそれじゃ意味ねぇーんだよぉ!」
リコは比べていた、記憶の中にある父と自分を…
(ガン!ガン!)
響き渡るのは鉄のおと、吹き荒れるは火花。
「父ちゃん!」
走って駆け寄る一人の少年。
(ガン!ガン!)
しかし、男は駆け寄るそれに見抜きもせずにただ目の前の鉄を撃ち続けた…
時は満ち、夕焼けの空の下…
「ふぅ〜できた…」
その剣はあらゆる宝石を凌駕する美しさと、輝きを放ち、鉄の強度の限界まで薄くして切れ味を上げ、その芯は彼の心に応えてか一切不滅の強固な剣。名を…
「魔光剣」
そう言って天上に向け剣を向けてその輝きを確かめていると、膝になになら違和感が…
「ん?」
「かぁ〜…」
それは幼きリコの寝顔、待ちくたびれて膝の上で寝てしまった様だ。
「ふっ…」
その寝顔に、自身の剣の輝きなど到底敵わない美しさを凌駕するその愛らしさを感じる自身の親バカさに少し笑い。
少年を布団の方へとやって、自身もその横で眠りについた。
「父ちゃん…」
男は、少年の呼びかけに答える様にして目覚め。
その姿に心打たれた…
「リコ…」
少年は、目を輝かせて父の打った剣を見つめる。
横に並べられたのは、今まで自身が打ってきた名品。
「リコ」
「父ちゃん!」
背後から背中にポンと手をやって、語りかけた父はリコに言葉をかける。
「"剣が好きか?"」
「うん!」
父の言葉に、少年リコは当然と言わんばかりに明るく元気に答えた。
「そうか…今の時代じゃ、機械が鉄を打つ様になった。確かに機械は正確で仕事も早い…だけどな、リコ。おりゃぁー思うのさ、…"剣の芯を打てるのは、心を持つ人だけ"だってな…」
「芯?」
「そう、芯は剣で一番大事な部分だ。そこがしっかりしてなきゃ、どんだけ他がよくても名刀にはなれねぇー!。そんでもって俺ら鍛冶屋は、その鋼の芯を心で打って一本の剣を作る。…でももし心を持った機械があんなら、そいつはきっといい剣を打つだろうな。」
その記憶が、死ぬ間際の父と交わした最後の言葉…
「剣の芯は…心で打つ…」
リコは立ち上がった。
まだ体力も完全じゃない、しかしかれの脳裏によぎったのは父の言葉。
"「剣は時間じゃねぇー!、少ない時間でも、そいつにどんだけの心を込めたが大事なんだ」"
(カン!カン!)
それは夜更け、あの後もう数時間寝て、日は落ちて夜の月光があたりを照らすその時に…
「ん?」
(カン!!!カン!!!)
鳴り響く轟音に、ベットで休むムサシの目が開く。
(カン!!!ガン!!!)
目を覚まして音の方へと駆け寄り、それを見つめる背後のムサシには気にも止めず。
(ガン!!!ガン!!!)
彼は、一心不乱にそれと向き合い…ただ打ち続けた。
(ガン…ガン)
いつしかその音は…
(ガン!…ガン!)
父のそれと…
(ガン!ガン!)
同じものに…なっていた。
あれから、朝方まで続いたそれはついに…
「できた…」
その剣は、父の打つ。宝石の様な輝きを放つそれとは全く違う。むしろ、正反対の燻んだ剣。
光など知らない、興味ない、ただその剣はあらゆる輝きを否定して、ただの大柄の大剣としてそこに存在していた。
「すっげぇ〜」
ムサシは目を輝かせてそれを見る。
「この剣の名は…"愚光剣"」
「セカンド?」
「そう…セカンド…俺は名工、リス・フェッラリウスの名を継ぐに者、リコ・フェッラリウス。俺こそが伝説のソラスシリーズの次なる担い手、先代を超える二代目だぁ!」
そして…約束の七日目の朝…
「おう、随分と早かったな。で?どんだけご立派な剣を見せてくれるのかな?」
「こいつだ…」
そう言って背後から現れるムサシ、その背中に背負う大きな箱。
「ほぉ〜見た目だけは一丁前の様だが中身は…」
そのケースを優しく地面に置き、ムサシが見せたそれは…
「は?」
燻んだ色の大剣。
「「ハッハッハ!!!」」
バンビーノの続き、周囲の者達から嘲笑うような声。
「こんな…こんな!もんが名刀だとぉーーー!!!。片腹痛いにも程がある、確かぁ〜オメェーの親父さんは鉄で宝石の様な美しい剣を打ち、その性能は折り紙付きと評判だったはずだぜ?それに比べてお前は…」
笑いを堪える様にしながら、罵声を浴びせてくるバンビーノに対し…
「じゃー!…試してみるか?」
名乗りを上げるは、リコ。
「あ"?」
「この剣は確かに親父ほど美しくはない、でもな…」
その言葉に続く様に、ムサシは、その小さな身体にみやわない大きな剣を背負い。
「性能は…親父を超えてる自信がある。」
「…」
バンビーノのは、みやげる様にしたその視線に影を脅し…
「上等だ…やれ…」
周囲の取り巻き達数十名が一斉にムサシを襲う。
「オレは鍛冶屋だ、ムサシ!頼む。」
「おう!」
そう言い放ったムサシは、向かってくる敵勢力に向かって行くように走り。
「馬鹿女がぁーーー!!!」
襲いかかる数々の刃を、切り裂き。
「ヒヒ!」
バサー!と言う音共に、集まった男達の服が全て切り裂かれた。
「盾!」
そのあまりの切れ味に、周囲に凄まじ斬撃。
ボスだけは死守すると、横にいたお付きの者がボスを魔法の力で守る。
「おぉ〜あれが魔法か、便利だなぁ〜」
ムサシは、遠くからその姿を見て感心する。
「ボス、どうします。」
「退け…」
「え…」
「俺がやるから、退けーーー!!!」
守った部下を吹き飛ばし、バンビーノはポケットの召喚札を空中に投げ、ポンと言う音共にロケットランチャーを二丁取り出して構える。
「えぇーーー!!!」
「どうした?」
「ロケランなんてあんのかよ」
「あるだろ、今は英王歴210だぞ。」
ムサシは、中世風のファンタジー世界のノリでいたのに突然登場した現代兵器に困惑しつつリコはその反応を見て、"あるに決まってるんだろ"的な言葉で返す。
「うわぁ!」
その攻撃をモロに受けるムサシ。
「やったか!」
「まっ、関係ねぇーけど。」
ムサシは余裕の表示でそれを耐え
「フン!」
その剣を振るう。
すると、あまりの切れ味に空気が刃の姿を描きそれによってできた剣圧でバンビーノのロケランを持っている右腕ごと切り裂く。
「うぁ!…クソ…」
バンビーノは、もう片方のロケランからリコの方へ一発放ちそのロケランを捨てて吹き飛んだ右腕の方を庇う様にしてうずくまる。
「ヒヒ!テメェーがどんだけ強くたってそりゃテメェーを狙ってでの話し…辛いねぇ〜足手纏いを抱えるのは…」
(ヤベェ!)
リコは向かってくるロケランの弾に、狼狽える。
しかし、ムサシはリコの方へと走り出す。
「無理だね!たとえそれが間に合って庇えたとしても、その距離じゃ〜爆撃のダメージはリコにだって直撃する。お前は生きれれても、リコは死ぬぜ、絶対に!」
そう宣言、高らかに笑うバンビーノに…
(ジャキン!)
しかし、その弾は当たる寸前で微塵切りしてその爆撃を無力化した。
「んな…馬鹿な…」
「確かに…俺一人ならそうかもな…でもよぉ〜」
ロケランの弾、つまりはミサイルを切り裂いてすまし顔でそこに立つムサシ。
「俺と、相棒と、そんで持って相棒の作ったこの剣があればよぉ〜なんとかなんだよ。」
「何をした…」
そんなことを話すバンビーノが不審な音のする地面を見るとそこには…
「だって、ロケランつたって中身は火薬だろ。火薬なんて小さくしちまえばただの爆竹みてぇーなもんだろ。」
そう、ムサシは一瞬にして爆発するはずのミサイルを切り裂き小さくして爆発の威力を最小限にした。
ただし、これをするには間に一度の衝撃もあってはならない、しかし衝撃なんて与えることもなく切り裂けたのは愚光剣その剣がもつあまりの切れ味が、衝撃すら加えず対象を切り裂いて無力化したのだ。
「ありえん…ありえねぇー!」
バンビーノは認められなかった、自身よりずっと弱いはずの存在が、自身の自慢する武器を越える名刀を作った事実が…
「猛火円」
まるでその現実が逃れるように、バンビーノのリコの周囲に炎の円を作り出しそれでは囲み。
(お前は…)
そのまま、作り出した炎の中へと
「滑」
滑る良いにして入り。
そして…願うようにして叫んだ…
「俺の下でなきゃいけねぇーんだぁーーー!!!」
炎で噴射し、勢いをつけたその蹴りを…
「仲間狙いとは、芸がねぇーなー!」
その火の円すら切り裂いて…
「がはぁ…」
大剣の面で、バンビーノを打ったたく。
「どうだい、テメェが姫ぷヤローと呼んだ…男の剣は…」
こうしてムサシは、一連の騒動に肩をつけ。
「あ!そうだ相棒。」
「あ"?どうしたムサシ。」
拳を前に突き出し、その手で…
「俺の相棒になってくれ、そんで一緒に旅をしようぜ。」
「…あぁ…よろしくな」
新たな仲間を手に入れたのだった。
(パキン)
「「あ…」」