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第一話 人形転生

第一話 人形転生


この国の名は、Neo・JAPAN帝国。現在明治3090年のこの国には、国というにはあまりに歪な世界だった。

(ダッ!ダッ!ダッ!)

街を闊歩するは外人かぶれの明治風の日本軍服を纏ったアンドロイド達。

「おうおうおう!明治政府様は随分しけたツラしとるのぉ〜。」

おそらく若いだろう顔にみやわぬ爺さん喋りの大柄な男は、紅蓮の如き業火の描かれた羽織をきて太刀を持ち。そのアンドロイド達を…

「オラァーーー!!!」

蹴散らす。


そして、その頃この物語の主役たる彼は…


ーーー東京 バベルタワー 地下1万階ーーーー


そこには、囚人のように檻に入れられ、狭苦しいなか各々の身体の感覚はゼロ距離それどころか上の子の足が下の子を蹴ってしまうほど狭いその檻の中で。

「おい!ガキども」

「はぁ〜い…」

その返事は弱々しい、疲弊し切っているようすだ。この機械化の進んだ時代になぜ奴隷のように首輪とリールを付けて買われるもの達がいるのだろう。それは、ある計画のためであった。

「もう…こんな生活嫌だ!お家に帰る。」

呼びかけ、牢を開けた看守の目を盗んで逃走を測る少年。

「黙れ…」

(ビリビリ!)

流れたのは電流、流したのは首輪。看守の手もつそれは脱走を防ぐためのもの。

「全く、出産もできんオスガキが、実験体となれるだけありがたいと思え。お前らもいいな…"モルモット共…"」

看守の吐いたその言葉はあまりに酷い。どう考えても人のしていい仕打ちではない。

「「はい…」」

しかし、10代前半から後半入りたての彼らにはなすすべがない。なに?10代後半ならば逆らえるだろうって?。確かにそうかもしれない、相手が人間ならば…

「よろしい!」

相手は機械だ、鋼鉄の身を持つ屈強な機械の兵だ。何者も逆らえぬ絶対の力。武器、兵器を各種に武装する彼らに、勝てる人間は大人のしかも軍事的訓練を受けた者でさえ瞬殺だ。


ここで、君達は思うだろう。なぜ子供達がこんな目に遭うのか。機械にリールをつけられて飼われる人間と言う歪な社会が生まれたのかを。それは、他でもない機械化が原因だった。

(ウィーン)

この世界では、仕事のほとんどを機械が行う。必要なのは、それを整備するメカニックとその費用を出すオーナーだけだ。つまり、他の労働要員は必要ない。完全なディストピア社会だ。

「あん!」

「イック…」

女達はと言うと、これもどうしてか金持ち。つまりはオーナーのオナペット。出産によって子供を産むだけの半ば機械と大差ない扱いを受けている。男は見ての通りの奴隷!と言うか、モルモット。研究者達のためにあるいわば試験ネズミと言うわけだ。


子供は実験と整備士取得のために産む、実験は技術の進展のため未来のためにする。女はその子を産みまた男は…の繰り返し…


そんな、誰もが生きる奴隷となったこの世界で…

(ジャキン!ジャキン!)

一人、さすらいの浪人はその刃を国へと向けた。

「おい!小僧共、外に出るぞ。」

そう呼びかける男の元へ…


あれから10年…

「ウヒョォーーー!!!」

駆け回るは閃光のようなネオンの彼。

「おい!ムサシ、目的を忘れんなよ。」

「あーてるって!」

ビル図体にアクロバットを繰り広げたのち、手を大きく広げて飛び降りる。


"そう、これが俺の仕事。日本ギャングの下っ端さ。ん?ビルなんて飛び降りて大丈夫かって。もちろん、俺達がただの人間なら…死んでるだろうな。"

「よっと!」

飛び降りた少年達は、糸も容易くまるで猫が着地するかの如く華麗に降りた。

"俺達はサイボーグ、壊れたパーツは取り替えて治せばいいし、そもそもどんな高さから落下しようが反重力ドライブで余裕のよっちゃんよ。"

「行こうぜ!」

「おい!あんまりはしゃぐなよ。今回の相手は高額滞納者だ、逃げられでもしたら今度こそボスに殺されちまうぞ。」

「へいへい、ボスね、ボス。」


"そうだ…あいつが来てから…兄貴はかわっちまった。"


それは、ムサシの持つトラウマの記憶。

「なんだてめぇー!兄貴の大事な一張羅汚してくれちゃってぇーよ!」

場所は化怪狐市・ゴジョウ・センターブリッジの橋の上。清水寺の中、赤い木造のそこに奴は立つ。

「おい、やめねぇーかムサシ。たかが肩ぁーぶつけられたぐらいで…」

「何言ってんすか、兄貴の肩はこの国の宝!そいつを汚す行為は何人たりとも…」

言葉の途中で、ベンケイは頬を赤めながらムサシの頭をこずいた。

「痛いっすよ〜」

「恥ずかしいからやめい!」

そんな会話の最中、笠と紫色の薄布で覆った少年は、少しニヤリとする。しかし、その笑顔はまるで悪魔、不敵過ぎて気持ち悪い。なんなんだ、と違和感のまま…

「おい!てめぇ何笑ってんだ?」

ムサシは怒った。

「お前が馬鹿みたいだから笑われてんだよ。なぁ〜坊主、悪かったな…」

そう言ってベンケイが彼の頭にポンと手を置こうとしたその瞬間。

(パチン!)

その手を退けろと言わんばかりに叩く少年。

「穢らわしい、触れる出ない!」

「んだとー!」

「抑えろムサシ…坊主、何度も悪かったな。その背格好、どう見ても金を持ってる。オーナーの子供がなんかか?まぁ〜なんでも良いがよ、見ての通りの横のこいつは血の気が多い。ここは一つ俺の頭に免じて許しちゃくれねぇーかい?」

怒るその子に、頭を下げるベンケイ。

「兄貴!」

「良いんだ!…こいつは政府でも、ましてや輩を取り込むオーナーでもねぇ〜。ただの子供だ…」

そいやって、ムサシを宥める男の背中は威厳があった。数多の強者をねじ伏せ、幾人もの部下を従えるギャングの王。まさに男は背中で語るを体現した様な、そんな立派な背中だった。

「いやじゃ…」

だが、子供は断った。それは差し詰め駄々をこねる我儘坊主と対策ない対応。

「そう言わず、どうかここで…」

「いやと言って折ろう…虫ケラ…」

その言葉に、ついに兄貴の間に袋の尾が切れる。

「おい、坊主…あんま大人をなめとったら、痛い目見るでのぉ〜」

そう言って、立ち上がりイキリたったその時。

(ポン!)

と、可愛らしい音と共に、身長3mはあろう兄貴の肩を、160㎝と男性の中でも小柄なムサシよりさらに20㎝近く小さいその小僧が…

「お座り…」

肩に触れたのだ。さっきほどぶつけたその肩に触れたその瞬間!

「兄貴…」

立ちあがろうと、強く地面を踏み締めたあの最強無双のムサシヤ・ベンケイその人が…

「はい…」

膝をついたのだ、地面に、その小さなクソガキ相手に…

「おい…テメェー兄貴に何を…」

「はは!あはははぁ!」

少年は狂った様に笑いだす。

「テメェ…」

そう言って、ムサシは目の前の少年に容赦のない一撃を振りかざす。

(ダン!!!)

凄まじい音と共に、地面に頭を減り込ませたのは…

「ご無礼を、お許しください。」

背後から、ムサシの頭を鷲掴みにするベンケイ。

「なん…で…兄…貴…」


"今覚えば、あれは人間(ヒューマノイド)の作った対サイボーグ用のウイルス兵器の一種だったのだろう。つまりあのガキは、人間。俺達と違う生身のな…だからこそ、タチが悪い…"


この世界で、現在三つの勢力がせめぎ合っていてる。肉体を強靭に、便利に、効率的に、不死身にを目指したサイボーグ達。世界の汚染に耐えかね、この世界を捨て仮想世界に消えた新人類(プレイヤー)。人間は人間らしくいるべきと主張する人間(ヒューマノイド)の三勢力。各々が敵同士、それは思想の違いから起きた衝突を起点とし、今も末代まで呪い殺さんと各々がその隙を窺うこの世で…運悪くも出会ってしまった最悪と…


「はははぁー!こりゃぁー面白いや。昔からこんな風にしてみたかったんだぁ〜図に載ったアンドロイドやらサイボーグやらを人形みたいに糸引いて従えてさぁー!」

少年のやり方に人道は無い。かつてのベンケイの様な義理も人情もカケラとしてない。まさに皆無、純粋悪。無邪気な狂気は独裁者の如く全てを鎖で縛って従える。これじゃ、かつての政府と対策無い。


"だが、誰も奴には逆らえない。俺を含めあいつを気に入らない奴は大勢いたが…全員もれなく正気を失って今じゃあいつの良い奴隷。あいつの力はウイルス感染した奴を支配する。ただそれだけのシンプルな力。だからこそ、このディストピア世界で最強。まるでその世界に生まれるべくして生まれた理の如く奴はその座に腰掛ける。"


(どこまで行っても奴は嫌いだ。俺は兄貴や相棒が助けてくれるから今でも生きていられるが、それでも今じゃ兄貴のあの字も拝めない下っ端生活。元々用量のいい方じゃねぇーし。と言うか頭が悪い。当然義務教育をつけ込むメモリは入れてねぇーからな。常用漢字一つ書けるか怪しいぜマジで。)

「おい!なにぼぉーとしてんだ。ついたぜここだ。」

そんなことを誰もいない虚空にキメ顔で語っていたら目的地に着いていた。

「それにしても随分ボロいアパートだなぁ〜」

「し!ターゲットが動いた。取り立ての時間だ。」

「うっしゃー!」

やる気を出しつつ慎重にことを勧める二人。

「こ…これが例の金です。」

「おう、約束通りほら!」

ボロアパートの通りの毛むくじゃら、そのわり頭は荒野の様に何も無いヤニ臭く薬物中毒なのか目が行っちゃっているそんな形容し難い汚物と言うべき男は、闇金から滞納した金で薬を買う。

「ちっ!クズが。人様の金使ってあれかい本当。」

「だな、さっさととっ捕まえてやろぉーぜ!」

「おい!ちょっと…」

ムサシは、警戒もせずその場から走り出し。

「よぉ!邪魔するぜあんちゃん。」

と、背後から男の首元に腕をやって肩を組む。

「ひぃ!」

「おいおい、どうしたのかな?そんなにおびちまってよぉ〜」

男は身体を震わせている。それもそのはず、滞納している闇金の取り立て人が今。ゼロ距離に立っているのだから。

(カチャ!)

「あ"」

その時だった、麻薬の売人と思われる男は徐に銃を取り出し。ムサシの頭に…

「ムサシーーー!!!」

発砲した。

「は…」

いきなり後ろに引っ張られて頭を打って意識を一瞬飛ばしていたムサシ。

「痛ってぇ〜なにしやが…」

頭を抱え、頭痛をうたっえるムサシの前に広がるのは血溜まりと…

「清水ーーー!!!」

清水マリナ、それが打たれた彼女の名前だった。

「テメェ…」

当然ながら、希望の欠片も無く即時。それが、銃で頭を撃ち抜くと言うことだ。

「おっとと、先に手を出したのは兄ちゃんだぜ。うちの常連によぉ〜…」

煽るかの様に、ムサシと同じ様に男の背後から首元に腕をやって肩を組む、ピンクパーカーの男。

「ふざけんなぁー!そのゴミの金はなぁ〜借金まみれで自己破産して、まともに借りれんくなったから、俺ら頼って手にした金だ。元々俺らのもんなんだよぉー!このフラミンゴやろぉー」

「おうおうおう、威勢がいいねぇ〜お坊ちゃん。だが、妙だなぁ〜その背格好どおみても金貸しには見えねぇーが?」

「金貸し?ざけんなぁー!俺はギャングだ。しかもあの伝説のギャング集団。武装組のなぁー!」

「武装組?」

ムサシはそう名乗った、それはただしい判断だ。何せ、武装組は日本ギャングの中でも筋金入りの極道。その頂点とも呼べる存在である。だから、この麻薬売りが"ただの"小金稼ぎのアホォーなら、ひよって後退するはず。そのはずだった…

「そうか…お前、ベンケイぇーとこの…」

「そうだ!ベンケイの兄貴は偉大な…」

その言葉を言いかけた瞬間、男は再び銃をムサシの頭に突きつける。

(早い…)

見えなかった、サイボーグとして、モルモットとして、幾度も実験を重ねて。認めたくは無いが、そのおかげ強くなっているムサシ。普通の速度ならまず見切れる。と言うか、大抵のサイボーグの移動速度である1ナノ秒なら止まって見えるほどの超直感。それすら凌ぐこの男とは…

「悪いなぁー世間知らずの坊主。ベンケイの名前を出したらビッビッてくれるとでも思ったのかい?それならお笑いもんだな。」

「…」

男は、銃を突きつけながら衝撃の事実を語った。

「俺はベンケイと同期だ。まっ、安っぽいいがライバルって奴だな。」

(兄貴の…ライバル…)

「つーことで、その部下なら尚更…嫌がらせついでに殺しとくぜ。」

(キュン!)

と、事実の重みと、非現実感に圧倒され。動くことができなかったムサシは、そのまま。ニュートリノ粒子による光速を超える光弾に頭を撃ち抜かれ絶命した…

(俺は…死んだのか…)

彼は、肉体から魂が離れるその直前。

(やだな…)

願った。

(もう一回…もう一回だけでいいからよ…)


「兄貴!」

「どうだムサシ。うめぇーか。」

それは、機械化と効率化を求めたこの世界が失ったもう一つのもの。

「うんうん、こんなうめぇーもん初めて食ったす。これなんて言うんすか?」

味覚。味を楽しむと言ったことは不要。栄養さえ取れればいい。と言うか、そもそもサイボーグなど、食品を買わなくても燃料の切れた車にガソリンを入れることで事足りるとされたこの世界で…

「それはなぁ〜」

初めて味わった。食の思い出…

「"米"つーんだ。」


(兄貴と…米…食いたかったなぁ〜…)


<その願い、叶えましょう。>

聴こえたのは、魂に響きわたる女神の声。…だった…

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