第四話 書類
最初の書類のタイトルは『作物の生産量の低下に関する考察』だった。
課題は意外と単純で、近年の作物の生産量が、以前に比べて低下しているということだった。
この世界の主食は小麦のような穀物を加工したものだった。
その原材料である小麦の収穫量が低下しているらしい。
書類には、生産量低下の原因に関する考察が記載されていた。
穀物を育てる土地面積が変化したのではないかという仮説を立てたが、調査の結果、土地面積に大幅な変化は見られず、生産量低下の原因ではないという結論が書かれていた。
読み進めていくと、いくつかの仮説検証の結果、労働力の低下が原因であるという結論が記載されていた。
労働人口の減少と労働者の高齢化が、労働力の低下につながっているという考察であった。
その先には対処法が記載されていた。
高齢化そのものに対処するのは困難という判断がなされていた。
異世界でも若返りはできないようだった。
続いて、労働人口の減少への対処法が検討されていた。
労働人口が減少するのは、小麦の生産による収益よりも、魅力的な労働が多くて、新規参画するメリットがないというのが主な考察内容だった。
上記の考察に基づき、新規参画を増やすために補助金を出すという施策を行っていて、全く効果がないというわけではないが、期待するほどの効果が得られているわけではないという状況だった。
そこまで読み進めた後、さとるは元の世界の状況を思い出した。
元の世界でも、農業関連の労働人口の減少と労働者の高齢化が問題視されていた。
ただ、実態として、自国で必要な食料を自国で生産しているわけではなかった。
足りない分は他国からの輸入に頼っていた。
そして、その代わりとして、自国で余っているものや他国で必要とされているものを輸出していた。
そうやって支え合っているのだった。
ではこの世界ではどうなのだろうか。
そもそも輸出や輸入といった概念があるのだろうか。
さとるはルージュに聞いてみることにした。
さとる「ルージュさん、質問してもいいですか?」
ルージュ「どうぞ、何でも聞いてください!」
さとる「作物の生産量の低下についてですが、輸入に頼るという選択肢はないのですか?」
ルージュ「輸入ですか?」
輸入という単語が伝わっていないようだった。
やはり輸出入という概念がないのだろうか。
さとる「作物の生産量が豊富な国から買い取るんですよ」
ルージュ「友好国とのやりとりはありますが、あまり多くはないですね
友好国の数が少ないですし、友好国への移動ルートには危険が多いので、商人の数もそれほど多くはないです」
さとる「なるほど、友好国を増やすことや、移動ルートの安全確保などが解決策になりそうですね
私のいた世界では、作物だけでなく様々なものを輸入に頼ってました
自国で100%生産していたものの方が少ないくらいですね」
ルージュ「そうなんですね
ぜひダルク様にもお伝えください
他の書類についても、さとるさんの世界と比較してコメントしてください
それが、異世界から来たさとるさんに期待していることですので」
さとる「わかりました」
この世界で自分が果たすべき役割に対して手応えを感じつつ、さとるは次の書類に目を通し始めた。