第三話 ルージュ
ダルク「まずはこちらの状況を把握してもらう必要がある
書類を用意してある場所まで案内しよう
着いてきたまえ」
そういうとダルクは歩き出す。
慌ててダルクの後を追うさとる。
階段を上り、いくつかの廊下を進んだ先の部屋に着く。
そこは小さな書庫だった。
壁に沿って本棚が並んでいた。
部屋の中央には机があり、机の上に厚さ10cmくらいの書類の束が置いてある。
ダルク「まずはこの書類に目を通してくれ
我々が直面している課題と、それに対するこれまでの議論や考察がまとめてある
完璧に理解する必要はないが、今後の議論をスムーズに進めるために、ある程度は理解しておいてくれ」
さとるは一番上の書類を手に取り、目を通す。
見たことのない文字が羅列されているだけで、何も理解できなかった。
ダルク「読めないかね?
ではこのアイテムを使ってみてくれ」
ダルクはさとるに虫眼鏡に似たアイテムを手渡す。
虫眼鏡を通して見ると、見たことのない文字の羅列が、さとるにも理解できる文字に変換されていた。さとるはそこに書かれている文字を読み上げた。
さとる「作物の生産量の低下に関する考察」
ダルク「アイテムを問題なく使えているようだな
今日明日でここにある書類の束に目を通してもらいたい」
ダルク「とはいえ、わからないことも多いだろう
質問できる相手を用意した
入ってきなさい」
ルージュ「はい」
声が聞こえた方を向くと、メイド服姿の若い女性が部屋に入ってくるのが見える。
ダルク「彼女の名はルージュ
不明点などがあれば、彼女に聞くといい」
さとる「わかりました」
ダルク「では、私は失礼する
後のことは任せたぞ、ルージュ」
そう言ってダルクは部屋を出て行った。
残されたのはさとるとルージュの二人。
ルージュ「改めまして、ルージュです
よろしくお願いします
なんとお呼びすれば良いでしょうか」
(丁寧な人だな、ダルクとは大違いだ)
さとる「さとると呼んでください」
ルージュ「わかりました、さとるさん
私はこの部屋で待機しているので、わからないことがあればお声掛けください
ダルク様は書類に関する質問とおっしゃってましたが、突然知らない世界に連れてこられてわからないことも多いでしょうから、気になったことは何でも聞いてくださいね」
さとる「ありがとうございます」
さとるは、部屋の中央にある机に向かい、机に備え付けられた椅子に座る。
ルージュはどうするのかと思い、視線を向けると、部屋の片隅にある椅子に腰掛けていた。
特に何かをするわけでもなく、声をかけられるまで待機しているようだ。
さとるは、目の前にある書類を手にとる。
一枚目でもびっしりと記載されていて、流し読みするにしても骨が折れそうだった。
そんな書類が数百枚程度ある。
明日までに一通り目を通すには、1枚あたり数分程度という計算になる。
書類の分量をダルクが把握しているとすれば、書類1枚にかけられる時間も理解しているだろう。
おそらくは、その時間で把握できるレベルでいいということなのだろう。
あるいは、そういった計算ができるか、意図を読めるかといったところも試されているのかもしれない。
自分の能力を評価しようとする空気感を感じて若干の不快感を覚えるが、自分が今頼れるのはダルクたちのみであるということを思い出す。
むしろダルクたちの期待に添うように動いた方が良いだろうと判断する。
先の見えない不安を感じつつも、時間が限られているので目の前のことに集中することにする。
さとるは虫眼鏡のようなものを手に取り、書類に目を通し始めた。