第二話 異世界
さとるは毎朝起きるのと同じように目を覚ます。
(もっと寝たかったな。)
(今日もまた退屈な1日が始まるのか。)
憂鬱な気分で重い体を起こす。
(そういえば目覚ましの音が聞こえなかったな。)
そんなことを思いながら周囲を見ると、そこは自分の部屋ではなかった。
黒いローブを着た人が自分を取り囲んでいた。
とっさに身の危険を感じたが、ローブを着た人が動く気配はない。
警戒を解かずに周囲をさらに観察する。
少し奥に白いローブに身を包んだ人と、高価そうな服を着た人が話しているのが見えた。
こちらをチラチラ見ながら話しているようだったが、遠すぎて何を言っているのかまでは聞き取れない。
ひょっとすると自分のことを話しているのではないかと考えていると、白いローブの人が近づいてきた。
白いローブの人「言葉はわかるか?」
さとる「はい、わかります」
適度な教育を受けた学生なら、敬語くらいは使えるのだ。
白いローブの人「私の名はダルクだ、君のことはなんと呼べばいい?」
さとる「雨宮さとるです。」
ダルク「アマミヤサトル?長いな、さとるでいいか?」
さとる「はい、構いません」
ダルク「では、さとる、状況を説明しよう
君はこの世界の人間ではない
我々が君をこの世界に召喚した
我々のために働いて欲しい」
突然のことに驚くさとる。
ぼんやりした頭を回転させて、言葉を紡ぎ出す。
さとる「つまり、ここは異世界で、何かして欲しいことがあって、私を召喚したってことですか?」
ダルク「君の視点から見れば、そういうことになるな」
さとる「私に望むものとはなんですか?」
ダルク「端的に言えば、君の世界の情報が欲しい
我々は様々な課題を抱えている
だが、いくら検討を重ねても根本的な解決方法が出てこない
この世界で生まれ、この世界で生きてきた我々には突飛な発想は生まれにくい
そこで、異世界人を召喚して、異世界の情報を得ることで、新たなアイデアが出てくることを期待している」
さとる「なるほど、私があなたがたに協力するのは構いませんが、見返りはなんでしょうか」
ダルク「見返りはない」
さとる「は?」
ダルク「冷静に見えて、状況を正しく認識できているわけではないようだな
教えてやろう」
ダルク「君は何も知らない異世界にたった一人で召喚された
家族も友人も知り合いすらもいない
完全なる孤独だ
そんな状況では、明日どころか今を生きる術すらわからない
誰かに助けてもらうしかないのだ」
さとる「...」
ダルク「さて、あえて問おう
我々に協力してくれるな?」
それは質問の形式をとった、ただの脅迫だった。
さとる「わかりました。」
ダルク「賢明だな。君が有益な情報を与えるなら、衣食住くらいは保証しよう。」