第一話 平凡
そこはとある高校の教室。
教師の声が響く中、気怠げにチャイムを待つ生徒たち。
何の役に立つのかもわからないまま、面白くもない話を聞かされる。
それが当たり前となって、誰もが疑うことすら忘れた、不思議な世界。
彼もまた、そんな「普通」の中で生きる一人だった。
雨宮さとる、それが彼の名前だった。
クラスメイトたちからは、さとると呼ばれている。
何かが特別というわけでもない、どこにでもいるような学生。
学力は平凡で、強いて言えば数学が少し得意なくらい。
部活はサッカー部に入ってはいるものの、飛び抜けて上手いわけでもなく、レギュラーでもない。
顔も普通で、イケメンかというとそんなことはなく、かといってブサメンかというとそうでもない。
好きな人は人並みにいるが、彼女がいたことはない。
何の特徴もない。むしろ平均的であることが特徴とすら言える。
あえて平均になるように立ち回っているのであれば、隠れた才能があるのかもしれないが、彼の場合はただの偶然だった。
彼がもし、世界を救う勇者だったなら。
彼がもし、最強スキルを持った冒険者だったなら。
彼がもし、神に選ばれしものだったなら。
下校中にトラックに轢かれたかもしれない。
天を覆う光が降り注いだのかもしれない。
だが彼にはそんなことは起きない。
ただ、自室でひっそりと息途絶え、数ヶ月の間 目が覚めないくらいのことは起きる。