第1話 制服
私は憂鬱に日々を過ごしていた。
憂鬱に。
「憂鬱」それは、何も考えたくない。誰とも接したくない。自分の世界に閉じこもった怠慢な考えであると誰かは言った。
誰かが言った。ならばきっとそうだ。私は怠慢に生きているのだ。
言葉とはどうしてこんなにも私をきつく締め上げるのだろう。
学校からの帰り道、夕焼けの太陽に照らされ私は歩いていた。
蒸された空気を胸いっぱいに吸い込み、息苦しさをどうにか紛らわせる。入学したての頃は全ての景色が新鮮でたまらなかったのに、結局は慣れてしまうんだな。
私は宙を仰ぎ、遠くで色の消えゆく空を眺める。
高校の制服は中学とは違い、可愛いリボンが付いたが、特に愛着はわかなかった。
狭いコンクリートの通路を抜け、音のない住宅街をくぐり、犬に遠くから吠えられるのをスルーし、私はいつも通り家に辿り着いた。今までと全く同じ歩数で無事に着いたんじゃないかな。
なんて私は偉いのだろう。ここまでわざわざ文句一つ言わずに歩いたんだぞ。
片道40分以上かけて歩き続ける不満は言葉にせず、表情ひとつ変えることなく、私は喜んでみせた。
「ただいま。」
鍵を開け、扉を開くと、どうも家の中まで暑さが保たれていた。じっとりと湿る制服に辟易しながらも私は靴を脱ぎ、リュックを片側だけ肩から下ろして二階へと上がる。
階段を上がると、直ぐ右手に私の部屋がある。部屋の中は相変わらず片付いておらず、プリントや本やら、その他諸々が机の上から広がり散らばっており、いくつもの学校の教材が横向きに寝転がったままだった。部屋の汚さは、持ち主の心の状態を表しているのだとか。どこかの番組で聞いたっけ。
リュックを床に置き、一息ついて、やっとカーペットの上にうつ伏せに寝転がる。私は寝転がりながら足に手を伸ばし、まずはじめじめと窮屈な黒い靴下を脱ぐ。相変わらずゴムの痕が足首に残っているのが見えたが、これはもう仕方がない。解放された足首を軽く掻いた後、じれったい気持ちでボタンを一つ一つ外し、ブラウスをおもむろに脱いだ。そして重いスカートも。内にためられた熱気が全て外に逃げてくれたので、私は大きく安心のため息をついたのだ。