予知視
液晶の中へとするりと入り込んでいく私達。
液晶の中は、数字が泳いでいるが、触れても通り抜けるだけで、害はないようだ。
「ここって花粉とか無さそうでいいなー」
つい呟いてしまうが、本当に春は辛いのだ。キーンさんは「労働用じゃないロボット達がよく話してるっスけど、オレら労働用には分からない問題っスねぇ」と言う。人間ロボット達は本物の人間そっくりらしい、しかし労働用ロボットには花粉とか目が痒いとか、そういった事はないらしい。本当は同じロボットなのに無駄にいらない経験をさせられているロボット達がなんだが可哀想になる。本人達は人間だと思ってるから仕方ない機能なのかもしれないけど。
ソイ少年が「ロボットって埃詰まりとかないの? 」と聞いた。確かに。
「俺たち労働用ロボットは、定期的に検査があるが、人間とされていたロボットは……」
「D達がオレとマスターのファミレスに来る前に、この世界の真相? をDから貰ったんで、正直、ビックリめんたま飛び出ちゃうってヤツなんスけどね」
ソイ少年とキーンは和やかな会話を始めた。「そういえば、キーンって雲DのことDって呼んでるの? 」「そうなんスよー。Dならデ・ィ・ーで三文字っスからね。」と話してるが、ビックリめんたまの下りが気になるのは私だけなんだろうか。
「ところで、さっきのソイくんの疑問なんすけど、『二人を取り込んで、能力を手に入れる』ってことらしいんすけど……」
オレ、気持ち悪くなってきたっす。とキーンさんは、顔色が悪そうだ。
き、キーン水飲むか? というソイ少年の気遣いも、今はヤバそうっす……と断っていた。
雲Dさんは、液晶空間から泳ぐ数字を両手で捕まえ、握ると、ベッドが出てきた。
「取り敢えず寝ておけ、キーン。お前の『予知視』の結果は後でいい」
すんませんっす……とキーンさんは目を閉じた。
その姿を見届けた雲Dは、自身の拳を強く握りしめる。
「きっと俺の力も……」
視線を落としていた雲Dは、ハッとすると、悪いな、と私達に謝った。本当に辛いと感じるのはお前達だろうに、と。
キーンさん達が体調を悪くする……ロボットの場合は、配線問題になるのか? ともかく、こんな様子になったのは、キーンさんの予知視の結果なんだろう。私の想像する能力であれば、未来が見えるだとかだろう。
「この世界に人間が……ソイ少年や境少女のような者達に居ない理由は分かるか? 人間というか、旧人間が居ない理由ってことだな」
では、ソイ少年、と指名した雲Dに、俺じゃなくて、ソイが言ってるんだけどさ、と前置きをして答えた。
「『今の人間を自称する前の人達……本当の人間を労働ロボット達が排除した』からって……お前の姉ちゃんもロボットに殺されたの? 」
最後のソイ・ポリスに問いかけた質問は、「△」で返されたようだ。そのまま、アイツが言ってるんだけどさ、と現ソイ少年は続ける。
「『旧人間は、特殊能力を持っていたけど、当然、ロボット達に特殊能力は芽生えなかった。だってツクリモノだもの。今キミ達ロボットに特殊能力が芽生えたのは……』」
「排除した時に、人間を取り込んだ。もしかしたら、死んだ人間も取り込めるのだろうか……境少女はこういうの平気か? 」
俺は、転生前に、スプラッタを好きな友だちがいたからへーきなんだ、とソイ少年が教えてくれた。スプラッタ見る小三とか怖。
かという私も「好きではないですけど、トンデモ世界へのビックリの方が大きいので、今は平気です」と答える。
高校生の時に、理科の授業で見た、命の大切さを訴えるビデオwithお肉工場のは失神しかけたが……そのビデオは謎にお花畑に飛行機が飛んでるシーンも合って、余計に混乱した。
「キーンが予知視したのは、ファミリーレストランで言った、『俺の母親に会いに行く』っていうのを、俺が実行したから、そこを視たんだと思う」
「雲Dの母親って何の職業? 」
「労働用ロボットの調教師……境少女向けに説明すると、労働用ロボットを起動させる前のテスト運転の事だ。そこで、発見されたバグだとかを消していくんだ」
「つまり、雲Dさんのお母さんは魔法……ではなくって、ロボットが持つ特殊能力がどうやって発現したのかご存知だった……ということですか」
「調教師の母は旧人間の死体管理者とツテがあるだろうから、って事で訪ねようと思っていたんだがな」
まさかこんな事になるとは、とやれやれと彼は、ため息をついた。
「ソイの姉ちゃんも特殊能力を持ってるらしいんだけど、なら誰かに食べられちゃった後なのかな」
「そこは分からんな、だが、死体と思われるモノは輸送中みたいだ」
「食べられた後なら、私がいる意味がないので、帰れる気がするんですよね」
最初の目的である『ソイ・ポリス』を探すは達成されているが、私は帰れない。元ソイ少年が言うにはお姉さんの死体を見つける事で私の帰り道が分かるって話だし、多分問題ないだろう。