成仏させよう乱入しよう
「さて、急いで飲みながら話すとしようか」
雲Dがそう言った瞬間に、ソイ少年が一気に半分飲み干すものだから、二人で笑ってしまった。怒る彼の意識を反らす為か、雲Dは、次の提案をした。「死体については、情報の宛がある。俺の母からデータを貰いに行きたい」と。
ソイ少年が「俺はソイの願いが叶えられるならそれでいいよ。コイツの身体貰うから、願いくらい叶えてあげないと」といきなり喋り「よ、よせよ。照れ臭い」と一人で照れ始めた彼を見るに、本来のソイ少年が「優しいんだね」とでもいったのだろうか。
その様子を見た雲Dは「……成仏させような、少女」と語りかけてきた。せやな。
続けて彼は、私達にお願いをする。
「ソイ少年、窓を開けてくれ。境少女、荷物はまとめたか? 」
素直に従った私達は、そろそろ出るんだろうなと思って席を立とうとする。
カラン
入り口の方を見ると、さっきの黒服達とおじいさんが居た。
「あそこじゃ! 捕まえろい! 」
「ちょっ、雲Dさっきのやってよ、ハイ姉にげよっ」
雲Dは、失礼するぞ、と少年を掴み、私のケープを掴むと窓から飛び降りた。あっ、食い逃げになってしまうのでは、私たち。
「お、お支払い忘れたけど仕方ない! 」
「いいや、問題はない」
えっ、と雲Dの方を振り返ると、頭上から「てんちょぉー!黒服さん達、食い逃げっす」「何? 撃ち殺す」とさっきのウェイターさん達と物騒な店長らしき人の会話が聞こえてくる。
「オレ、捕まえてくるっす」
と聞こえたかと思うと、ウェイターさんまで、窓から飛び降りてきた。
つい、5階って飛び降りれるもんなんだね、と漏らすと、そりゃあ、あの人も機械だからだよ、とソイ少年が独り言に返してくれた。そうだったねこの世界。
ぼけっとしていたが、下にも黒服、上にも黒服。ファミレスでドリンク街の時にひそかにいじってて見つけたフォチャの銃、閃光弾モードに変える。「それいいっスねぇ」と一緒に飛び降りたウェイターさんが褒めてくれた。
「でも、オレのもスゴイんスからねっ、D! 」
「分かってる」
残り一階分の高さで彼らは繰り出した。
『『冷凍ビーム/正義パンチ』』
上から降ってくる氷漬けの黒服と痙攣している黒服を二人はコードの山へと投げ出した。
助かったね、良かったーとソイ少年と抱きあっていると、上の窓から店長さんが乗り出している。
「撃ち殺す暇も無かったなぁ、まぁいい。キーン! 雲D! ソリティが怒ってるぞ」
「マスター、悪かったと伝えといてくれ」
「お夕飯までには戻るっスよぉっ」
へいへい、と返事したマスターはそのまま窓を閉めた。
歩きながら、私とキーンさんは自己紹介をする。
「事後紹介が遅れたっスね。コイツは敵の黒服、オレの名前はキーンっス! 」
下に居た黒服を掴み上げコードの山に放り込んだキーンさんは、「このノリやってみたかったんスよねぇー。ところでD、これ誰なんスか?」 と紹介しといて何も知らない様子である。
「悪い、コイツはいつもこうなんだ」と言った雲Dさんは「ロケットランチャーを装備してきたかと思いきや、使い方分からないって言って、結局それで敵殴ってたからな」
まぁ、そこが良いところなんだよなキーンは、と雑に締めくくった。
「今ので、キーン兄がどういう人か分かったよ」
と言った少年に対し、
「うん、偉いなソイ少年は」
「偉いっスねー」
と機械な二人組は彼の頭を撫でていた。
撫でるのを止めた雲Dは、黒服の事を「さっきから付いてくる奴だ。何か分からんが、ソイ少年を狙ってるらしい、あのじいさんの命令だろうな。境少女も狙うって事はおそらく」とキーンさんに説明した。「でも、あのじいさんは労働用じゃない方の機械なんだよ……俺とハイ姉をどうするつもりなんだろう。本物の人間になりたいとか?そうしたら旧歴史の事も知ってるよね?」
捕まえた所でどうやってなれるのか知らないけど、と彼の表情はとても暗い。という私も暗いが。いきなり何かよく分からない人達に追いかけられの怖いよね。
私もトラックに追いかけられるの怖かったもん。住宅街だったんだし、誰か止めてよ。と過去に八つ当たりをする。
どんよりモードになりかけた私達二人をキーンさんは、励ましてくれた。
「あそこに丁度、お天気予報用のスクリーンがあるっスよ、D! お願いするっス」
ソイ少年、境少女、俺の手を掴んでくれ、と雲Dは言う。私が掴む前に、キーンさんは彼のやることを理解しているようで、呼ばれていないが掴んでいた。
ソイ少年は「液晶の中に入るんだと思う、ハイ姉と会った時みたいに」と私に説明してくれた。