「木っ端微塵の初陣かな」にらばやしコねぎ
「意図的な大学」
誰もいなかったよ。
そこには誰もいなかった。
クソみたいに間抜けな顔の僕が、握りしめた大講堂のドアの取っ手の銀色に大いに縦に引き伸ばされて映ってみせた。
やましい気持ちも封印して、毎日毎日いろんなことを我慢して、飽き切った生活にようやっとバイバイできる、そんな記念すべき一日になるはずだった。
したところが。
誰もいないだと?
「ははっはははっはははははっはははっはは!!!」
絶句ののち、爆笑。
してみたところで誰が出るわけでないのを見回し耳すませ確認する。
思わず大学からのメールに記載された日時・場所を確認する。うむ、何一つ間違ってない。
金がないのと流行り病対策で移動するより待ってみるが吉かと思うた。何よりなんだか強烈に自分しかしないことをしたかった。
それで待つこと6時間。
日が傾くばかり。
背徳感と白けた気持ちが同居していた。
仕方がないのでやましいことをひとつだけしてやろうと思い立ち、味もそっけもない、普段と何一つ変わらないであろう壇上に上がる。
持参したインスタントコーヒー、砂糖、お湯の入った水筒をおもむろに取り出す。
全部を水筒に入れ、心ゆくまで振り回した。
奮発して300円均一で購入したプラスチックの水筒に、この任務は少々重かったか。
あたりに多少飛び散るコーヒー。
まあそれもまた風流。
「「これはいい。想像以上だよ。」」
「ひぃいっっっ」
興奮まじりにダルゴナコーヒーをこしらえる僕と重なる声が一人の世界の唐突な出現のせいで、驚きのあまりしこたま泡立ったであろうダルゴナコーヒーの水筒を宙に舞わせてしまった。大変だ。ダルゴナ。僕の。6時間が詰まった。僕のダルゴナが。
「Congrats!…実は行動心理学の実験で
学校ぐるみで新入生一人をハブる実験をしていたんだ。」
なんとご挨拶な。
「この大学の3回生の中村だよ。」
知らんがな。
「君は科学の発展に貢献した。入学式は今年はリモートのみなんだ。さあさっさと帰りなさい。あ それ片付けといてね。」
床に散らばった茶色い泡が芳醇な大人の匂いを放っていた。