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悪魔の林に眠るもの3

使用お題「クリスマス」

本橋と浅間より早く校門に立ち塞がるべく、古賀は渡部の背に続き足早に生徒立ち入り禁止の通路を急ぐ。途中、花壇に咲く白い花と薔薇の花が目に飛び込んできた。

 ああ、懐かしいな

 幼い頃自分の家に植えてあった花を見て『まだ寒いのに、咲いてるなんて偉いね』と嬉しそうに自分の隣で目を細めた少女の残像が脳裏に過ぎり、内心苦笑する。彼女が帰った後で母に教えてもらったあの花の名前は、クリスマスローズとレオナルドダヴィンチ。そう思い出した途端、ふとある可能性が頭を掠めた。

「・・・渡部さん、あの倉庫ってもとは園芸部でしたよね。以前の顧問は誰なのか、調べることはできますか?」

 この高校は私立で教員の異動も多くはないはずだ。その意を込めて言葉を向けると、渡部は頷く。

「なるほどな。そこら辺は、理事長に聞けば分かるはずだ」

 思案顔で頷く相棒の横に並べば、校門はすぐそこまで迫っていた。


 そうして待ち構えていると、昇降口の方から男子生徒二人組がやってくる。

「や。さっきぶりだね。本橋くん」

「あ。はぁ・・・」

「さっき、林にあるプレハブ小屋で何してたの?」

 一応聞いてはみるが、この分だと本橋も事の重大さには気づいていないだろう。

「浅間に誘われて、遊んでただけっす」

「へぇ」

 案の定、目線を隣に移すと浅間が「ひっ」と小さく息をのんだ。

「浅間君?君は何をしてたのかな」

「あと、あのプレハブ小屋のものは学園のものだから、何か盗ったんなら早く出せよ」

「そうそう。故意に家に持って帰ったら、窃盗の容疑で保護者に連絡するしね」

 そこまで言うと、観念したのか本橋はポケットから紙片を取り出し差し出す。

「スミマセン」

「あっ、おい!」

 慌てた様子の浅間も、やがて観念したように同じような紙片をポケットから出した。

「ありがとう。誰に聞いたの、この紙」

「・・・ダンス部の先輩からです」

「そう。名前は分かる?」

「・・・」

 追求していくが、浅間はなかなか口を割らない。根気強く粘って、卒業生の名前を口にしたのは夜も七時になろうかという頃だった。

「取調室に連れてった方が、よかったんじゃねぇの」

 渡部さんがそう言ったのは、二人を自宅に送り届けた後だった。


 それから、捜査の手が入り二人は近隣警察署の署員達と共にダンス部所属の少年宅に家宅捜査に押し入り、元明の里学園教師で潰れた園芸部の顧問をしていた青年を逮捕する。何でも、職員の人間関係が元で引きこもってしまったその青年は、弟を使って学園に復讐すべく大麻を蔓延させようと目論んでいたらしい。職員によると、同僚間のトラブルに巻き込まれたらしいが、巻き込まれた人間の行く末を考えると、なんとも後味の悪い事件だった。


「それにしても、よく気づいたな」

 渡部の言葉に、古賀は生家の庭を思い出し苦笑する。

「あの通路に咲いていた薔薇、『レオナルドダビンチ』って言う品種なんですよ」

「へぇ」

「いたずら好きの悪魔がこの世に残したものが三つあるんだそうです。鏡とバイオリン、そしてモナ・リザ」

「成る程」

 そこまで話すと、渡部も得心が行ったらしい。絵画モナ・リザの作者はレオナルドダビンチだ。おそらく、そこからもじってあの本を『悪魔の書』としたのだろう。

「相変わらずの雑学王だな」

「恐れ入ります」

 渡部の言葉にそう肩を竦めて、古賀は警察署の前に止まっている車に乗り込む。もう今は自分の記憶にしかない庭の風景に少しだけ思いを馳せて、それを断ち切るように車のエンジンをかけた。












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