第七話 獣人ベルク
あと30分で塾です
ウリンが走り出す それを追う ドアを破る勢いで開けると そこには赤いカーペットが敷かれた豪華絢爛な道が堂々と存在していた
一瞬気を取られるも 全力疾走のウリンを見て我に返る あまり速くはないので追いつくことができたが 相変わらず胸中の困惑は消えない
「さっきの、、爆音は、、なんなんだ!?」
走りながらなので息が切れ 呼吸が辛い しかしそれ以上に 走らなければいけないという意思が重かった
「またベルクの国が、、、」
ウリンが何かを呟いたが 上手く聞き取ることはできなかった
「な、、なんだっt」
ドゴォォォォォォォン
またもや爆音 今度はさっきより近いかもしれない
足元がかなり揺れる もう少し速く走れば転ぶかもしれない
「この城下町周辺が、攻撃に遭ってる!街の人を守らなきゃ!」
ウリンが言葉を切らさず言う よく見ると 呼吸も乱れていない
「ここって城下町だったのか!?」
「説明しなかったっけ?」
このやりとり 前にもやった気がする
「攻撃ってのはまた何で、、」
そこまで言って気づく 宣戦布告 というやつだろうか 戦争を起こす前に 他の神がいる国はいずれ敵になると判断した他国の戦略的な攻撃かもしれない と
それなら この町全体が滅ぶ可能性がある ということだ
「俺はどうしたらいい!?魔力を使って出来ることはないのか!?」
何も出来ないのは 神様として そして人として嫌だった 自分に才能とやらがあるのなら 何か出来るかもしれないという期待もあった
「まずは人命の救助を、、」
ドゴォォォォォォォン
3度目の爆音 またか と思ったその時 自分の横にあった壁が無くなっていることに気がついた
「ふしゅうううううううう」
鼻息のような 威圧のような そんな声を漏らしていた
「獣、、?」
上半身には肩掛けのようなベルトやチェーンが巻いてあり 全身は犬のような毛で覆われている
しかし背丈は2m以上 犬なんていう生易しいものではない 狼すらも超えている
そんな奴が 城らしき建物の壁を突き破り 俺たちの前に立ちはだかっている
「獣人ベルク、、!」
ウリンが声を漏らす
獣人?
獣で 人
その存在について頭を働かせている間に もう戦いは始まっていた
「よぉぉぉぉ、また会ったな」
威圧的な重低音ボイスでベルクとやらが話す また ということは 2人は元々知り合いなのだろうか
「私は会いたく無かったけどね」
ウリンが露骨な挑発をする 見た目から 単純そうだな と思っていた獣人は
「あぁ?」
当然 キレた
その威圧感はより威厳を増し 鋭い眼光で俺とウリンを順に睨む 蛇に睨まれた蛙ならぬ 獣人に睨まれた神様だ
「今すぐ攻撃をやめて、帰るんだったら、まだ許してあげる、今すぐ降伏しなさい」
ウリンが交渉に持ちかける 挑発した後に交渉など 少し矛盾しているような気がしたが 神様とはいえ目算15才ほどの少女だ そこまで頭は回らないのが普通だ
「降伏だぁ、、?嫌だね、、何より、戦い持ちかけてきたのはテメーらの方だろ!!」
ウリンが不思議と言わんばかりに眉をしかめる 身に覚えがないようだ
俺も あんなに争いに対して否定的なウリンが 自ら戦いを挑むとは思えなかった
「多分それは何かの手違いよ、今すぐ確認して」
「手違いな訳があるかよ、テメーが、直々に俺の所まで来たんだからよ!!」
ベルクが声を張り上げる 思わず後ろにおののいてしまう
「そんなはずはないわ、だって、、、」
「だってもクソもねぇ!!」
そう言うと ベルクは鋭い牙と爪を光らせ 俺の方に飛びかかって来た
「まずはテメーからだ!ボーッとしてんじゃあねぇ!!」
「っっ!」
ベルクが爪を真横に薙ぎ払う 間一髪で後ろへ飛び退く 汗を拭おうと 自分の頬をシャツで拭った
シャツが
赤黒く染まっていた
「え、、?」
血だ 血だ
頭は理解している 体はそれを受け付けない
納得 していない
「チッ、、仕留め損なったか、、」
「゛削除されています゛!!避けて!!」
また獣人が 牙をむく
恐怖や痛みを 感じたいと思った
行ってきます