第一話 最悪な目覚め
個人としては3作目となります エブリスタで普通のヒューマンドラマを書いてたのですが 異世界ものが描きたくなったので写りました 気長に見ていただけると嬉しいです 基本不定期ですが 月曜日投稿が多いと思います
「こんなのもできないのかね!?」
「この資料、明日の朝までによろしく」
「残業代?皆貰ってないのに君だけ貰える訳ないだろう」
「退社!?ふざけているのかね!?」
「お前なんか、いない方がいいかもな」
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昨晩セットした目覚ましが鳴る 時刻はまだ朝の4時 目覚めた場所は勤める会社の休憩室にあるこじんまりとしたベンチの上だ
2mほどのベンチから飛び起きる 最悪の目覚めだ そして今日 また最悪な目覚めの記録が更新された
「こんなに寝てたのか、、、」
俺が勤める会社はいわゆるブラック企業 上司は理不尽 仕事は多い 残業代なんて出た試しがなく 退社など絶対に不可能だ
仕事をして夜の2時に寝て4時に起きる そしてまた仕事に戻る こんな生活の繰り返しだ 昨日は1時から寝れたのに そんな感情さえ起こらなくなっていた
休憩室から仕事場に戻る 見慣れたデスクだ 最初は結構大きめだな と思っていたが 資料で埋もれ 今は最低限のスペースしか確保できていない そのスペースですら 栄養ドリンクやコンビニ弁当のゴミなどで埋め尽くされかけている
周りには俺と同じ境遇の人が4、5人いる 同情や協力など 言い出す時間も気力もない しかし この日だけは違った
「あの、、すみません」
椅子に座り 作業を再開しようとしたタイミングで 1人の男が話しかけてきた 顔は痩せこけていて 死者を連想するようだった 人の事を言えるほどの体が 自分には無いが
「何だ」
最低限の返事をする これ以外の返事は私語とみなされ 上司から仕事が回される 上司がまだ出勤しないにも関わらず 癖として身に付いてしまった
「僕、これから警察に行こうと思っているんです、、」
どうせまた仕事の話だろうと予想していた
その突拍子もない発言に 口から反射的に漏れたのは 気の抜けた「はぁ」という感嘆だけだった
正直 あまり反応する気にはなれなかった 過去にその発言をしたやつは何人かいて 会社を出たあと 決して戻って来ることは無かったからだ
「やめとけ」
そう言い残し 立ち去るよう手でしっしとサインした そうすると 次にその男は 急に怒ったような嘆いているような悲痛な声で言った
「この状況、、おかしいとは思わないんですか!?朝から朝までずっと働き詰め!同僚の名前なんて覚える暇もなく、会話は仕事のことだけ!まともな食事も取れず!刑務所の方がマシなような環境ですよ!?」
そんなことを考える期間は 自分はもう過ぎたと思ってたいたのに 何故かその言葉に対して反応してしまった 上司が出勤してきたらどんな目に遭うか分からないというのに
「みんなそんな状況でも、こうやって生きていくしかないんだ、それが俺たちの能力の限界、社会からの必要性、生きる術なんだ、仕事があるだけマシだと思え」
心から出た声だった いつの間にか俺はその男に向き合っており 傍から見れば口喧嘩だろう しかしそれに反応する人間はおらず 目の前のパソコンに向き合っている
「どうして俺にそんなことを言った、俺なら協力してくれるとでも思ったか?そんなに現実は甘くない、そんなことをしたところで、ただの無意味だ」
俺は椅子から立ち上がっていた 本気でその男を相手していた 本気で その男を否定していた
「あなたなら、、あなたなら分かってくれると、、僕のことを分かってくれると信じていたのに!!あぁそうだ、僕の名前分かりますか?知っていますか?知ろうとしましたか?」
名前なんて知らない 上司や取引先以外の名前なんて覚える必要がないと本気で思っている 周りの人間はようやくこの様子に反応し始め 眉間にシワを寄せる者や 舌打ちするヤツもいた
「随分と俺を過信しているようだな、お前の名前なんて知らない、いいから仕事に戻れ」
冷たくそう言い放つと その男の目から僅かにしか残っていなかった生気が失われた まるで死人の目だ ここにいるやつ全員と同じ目だ
「そうですか、、僕は、あなたにずっと憧れていましたよ、、」
「ずっと?」
自然と声が出た こいつと会社以外での関わりはないし 学生時代見かけたこともない
「ええそうですとも、ずっとですよ、ずっとずっとずっとずっと」
狂ったようにうわごとを繰り返している だがどんなに記憶を探っても その男が出てくることは無かった
「僕の名前、教えてあげますよ、、、僕の名前はーーー」
その声を聞き取る直前 世界が揺れた
上下が逆さまになり 地に足が着いている感覚がなくなり 浮遊している錯覚に陥った 安全バーなしでジェットコースターに乗っているような不快感と 何かがおかしくなってしまったという謎の理解が同時に押し寄せてきた
地震だ
それも今までに遭ったことがないくらい大きな
危ないと頭で理解する傍ら 何もかも これでおしまいという諦めが ずっと脳内で渦巻いていた
死に際に思い出すことも 心配なことも 仕事しかない
そんな 人生だった