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【完結】元最強プレイヤーは【魔法】を使いたいそうです。  作者: 光合セイ
間章 カムバック! ショートファイト・コロシアム!
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【考察】正義の女神

 人海により、沈んだ正義。

 母の愛にて、目を覚ます。

 さすれば常なる悪は滅され、

 正なる天秤は傾くであろう。


「う〜ん……」


 SFCの大会から抜け出し、自身の部屋でパソコンと睨めっこし合いながらカナデ……の中の人である佐藤花奏は頭を抱えていた。


 誰かしらのガチ戦闘が行われている頃だろうが、はっきり言ってそっちを見ることよりも、迷宮攻略をより楽にしたいという思いの方が勝っている。


「人海により、沈んだ正義。母の愛にて、目を覚ます……かぁ」


 何度目かになる音読。

 人海とは何なのか。正義が沈むとは。母の愛とは。それがキッカケになって目を覚ますとは。


 考察を進める上で鍵となる単語の振るいが難しい。

 おそらく、正義=アストライア。沈む=闇堕ちというところまでは考察を進めた。


「母の愛……アストライアを主軸にするなら、間違いなく暁の女神エーオース関連だけど……これから新キャラが出てくる合間ってあるかな」


 迷宮内に迷い込んだ女性NPCがいて、それがエーオースだった、という展開しか予想出来ない。

 そんなあからさま過ぎる展開なんて、ゲームクリエイターが許してもゲームシナリオライターが許さない気がする。


 ……いや、最終的に決めるのはディレクターだろうし、シナリオライターが口を出す暇なんてないのかな。


「……うぅん。この点に関しては見てから考えよっかな……それよりも」


 一番最後の一文を指でなぞる。


「『正なる天秤は傾くであろう』……聖じゃなくて、正なんだ……てことは……」


 カタカタとキーボードを叩く。

 検索するのは文字の意味。『正』と『聖』の違いだ。ニュアンス的な意味合いでの違いではなく、はっきりとした違いがあるなら、きっとそこが鍵となるはずだ。


「『聖』は知徳の高い人。『正』は間違いがないこと……うぅん、やっぱりまったく違うなぁ……」


 考え方を変えてみよう。

 たしかに、このような文章で使うとしたら『聖』の方がしっくりくる。

 だが敢えて『正』にすることで、キャラ造形と適合するような文章になっているとしたら……?


「アストライアの正義が、誰から見ても間違っていることを指してる……いや、違うな……」


 独り言ちて首を振る。


「どこかに間違いはある。正義の女神が、自分の分野で間違えるわけがない。なら、間違っているのは此方にんげん側……なら、そこで解釈違いが起きてるな」


 カナデは自身が出会い、感じたアストライア像を思い出す。

 力を行使してでも近づかせないほど人間を嫌い、深淵よりも暗い虚な瞳に威圧感を込めて『ギガントレオ』の面々を見据えた女神の名に恥じぬ怪物。


「もし仮にアストライアが最後まで人間と向き合っていたのなら、人間に失望して去ったという話はあるはず……」


 カタカタとZDO内の書物を纏めたWEBページを遡る。そして一冊だけ、その事柄に合致する文章を発見した。


『神が去りし最後の神代。文明は繁栄の一途を辿り、地上には嘗て類を見ないほどの悪行が世を支配した。人は信仰を失い、滅多の命を殺し、天理を壊して現世に蔓延った。

 されど正義の女神は人を諦めず、常人に正義を訴える。人は耳を傾ける。しかし心動かず。遂に人は人を殺し、殺戮が大地に血の海を作った。

 正義の女神は渦中で声高に叫ぶ。されど人の目は人に向く。終に正義の女神は心折れる。

 正義は天秤と共に天へと還り、星となりて一条の光を地上へと齎す』


 これはZDO内の書物『鉄の時代』の最後の一文だ。

 所謂『神話』と呼ばれる全六部に分けられた総本の文末なのだが、そのモチーフとなったのは間違いなくギリシア神話だ。


 ギリシア神話は神々の人間的特徴を描いていることで有名だ。

 例えば、多くの異性を愛した神々の王ゼウス。己の利益のために権力を行使し、力を行使し、時には口封じをしたりする。彼は最も人間から遠く、そして最も人間臭い神だろう。


 彼の血族は全員、似たような境遇を辿っている。人を愛し、あるいは嫌悪し、人間性に溢れた個性を持っている。

 その中で、最も突出して人間に近く、そして最も人間から遠い神が女神アストライアだろう。


 彼女は司るのは正義だ。

 人によってそれは変わり、しかし常識という一つの大前提によって概念が凝り固められたものでもある。


「『一人殺せば犯罪者、百人殺せば英雄』……だったかな」


 殺すこと自体は悪だ。

 しかし時と場合、世界の情勢によってその概念はいくらでも書き変わる。

 『自分の利益のために人を殺す』のか『自分の国のために人を殺す』のか、では前提が違い、それによって生じる印象がまったく逆だ。


 正義とは確固とした絶対性を持ち、そして傾きやすい物でもある。

 そんなあやふやな物を司る神が、今回相手取る神、アストライアなのだ。


「ぬぁあああ!! 弱点何なの!? 教えて正義の女神サマ!」


 話を戻そう。

 この考察はアストライアの弱点を見つけるための時間だ。ここまでの考察の中で、彼女の弱点が一切見つからない。


「こうなると、もうプレイヤースキル頼りなのかなぁ……」


 これ以上考察しても無駄だろう。そもそもアストライアの文献が少ないのが悪い。

 そうなれば後は戦闘員チームに任せるしかない。


「あとでジゼルにアストライアの行動パターン聞いとこ……」


 カナデは……佐藤花奏は、だらんと腕を垂らし、無地の白い天井を仰いだ。



あくまで繋ぎの章なので一旦終わり。

けど『〇〇vs〇〇』の戦闘が見たい! という反応がありましたら書きます。

ここからは完結ルート一直線ですよ〜!

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