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元最強プレイヤーは【魔法】を使いたいそうです。  作者: 光合セイ
間章 カムバック! ショートファイト・コロシアム!

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運気0vs幼馴染『開幕』

 舞台に上がる。

 相対するのはジゼルが操る華奢な女性剣闘士キャラ、積極的な攻撃に長けた『可憐なる剣闘士』マティルデ。

 そしてカナデの操る鋭い目を持ったエルフの男性弓使いキャラ、カウンターに秀でた『森の番人』エフェストル。


 舞台に立ったカナデが最初に視たのは、えも言われぬ怒気を醸し出す鬼だった。

 端正な顔に大きな角が生えているかのような錯覚を覚える幽鬼。可愛い顔には似つかない静かな憤怒。

 赤い煉獄の炎を背負っているような、見るものが見れば卒倒してしまうようなイメージ。


 だがしかし、カナデが相対するジゼルの目は、煉獄の炎よりも真っ赤な色で光っていた。


「……えっと、ジゼル……?」


 不穏な雰囲気。

 静かに怒るジゼルを目の前にして、カナデは今まで良いことにあったことが一度としてない。

 普段から怒る人物よりも怒らない人物の方が怖い、とは言うが、ジゼルはまさにその典型とも言えるのだ。


 いつもジゼルの周りに漂っているほわほわが無くなり、絶対零度の冷気か、あるいは罪人を燃やし尽くす炎だ。


「ジ、ジゼル、さん……?」

「……なぁに?」


 喋った。

 声音はいつも通りだ。いつも通りのほんわかしたジゼルだ。

 しかし目が笑っていない。笑うために細められた瞳には、鷹のように鋭い瞳孔が潜んでいる。


「だ、騙してごめんね? だから、その、えっと……」

「ううん。怒ってはないよ。やっちゃったものは仕方ないからね。わたしもカナデを騙したことあるし、ここはイーブンだと思ってる」


 その間で、頭上ではデジタル時計のカウントが始まる。

 まるで死刑の合図を告げるように、5秒から始まったカウントは刻々、淡々と減っていく。


「そ、そうなの……?」

「うん。だから気にしなくてもいいよ」


 ジゼルが笑った。普通に見れば愛らしい笑顔。

 かつて寝ている顔に蜘蛛のおもちゃを巫山戯て置いて、心臓が飛び出るほど絶叫した後の月花の笑顔と同じだ。

 この笑顔の意味をカナデは知っている。


「それはそれとして」


 ポキリとジゼルは腕を鳴らす。


「今回のお礼は、きっちりしなくちゃね」


 般若と化したジゼルは、まったく許していなかった。

 運悪く、あるいは示されたようなタイミングで秒数のカウントが1から0へ変わる。

 最悪のタイミングで切られたテープ。ギスギスした雰囲気の中、ジゼルとカナデの試合は始まった。




『0』




 試合開始と同時にジゼルは一瞬でカナデの目の前へと飛んだ。

 一陣の疾風と化したジゼルの初手の攻撃は刺突。剣の鋒をカナデに向けて飛ぶ。剣の柄をぎっちりと握った状態で飛んだのだ。そう簡単に方向転換は出来ない。


 そのジゼルのミスとも取れる隙を狙ってカナデは弓を数本叩き込む。

 しかしジゼルは握る手の力を緩め視線を右に逸らし、ズレの生じる体は自然と矢の軌道から外れた。

 変態軌道ともいうべき技術に感服するとともに、カナデは肉薄される前に打つべき先手を備える。


 しかしジゼルはそれを読んでいた。

 ジゼルは接近戦のプロなら、カナデは遠距離戦のプロ。打てる先手を先んじて打つのは基本中の基本。カナデと培ってきた時間の中で、ジゼルはその基本を学習している。


「……セェヤ!」


 左手に持つサブウェポン『青銅の盾』を握る腕に力を込め、くるりと円盤投げの要領でカナデに向けて投じた。

 ジゼルが肉薄してくる時間を計算していたカナデは、見事に計算が狂わされる。そして小さく舌打ちし、即座に迎撃準備に切り替えた。


「『迎撃矢(カウンターアロー)』!」


 攻撃に対して迎え撃つ際にDPSが高くなるスキル『迎撃矢』。

 迎え撃つ攻撃の威力によっては、攻撃を貫通して飛んでいくのだが、おそらくジゼルの攻撃は貫通することはないだろう。貫通したとしても当たるかどうかは別問題でもある。


 しかし放った矢は見事盾に命中。

 流石とも言うべきAIM力だが、しかしジゼルの攻撃は終わっていない。

 今度は走る勢いを利用して、槍投げの要領で剣を()()()()。剣士の命ともいえる剣を投げた。


 二段構えの投擲。場合によっては最悪の一手だが、現状、カナデは剣すら投擲してくるとは思っていなかったのか目を剥いて新たに矢を番える行動に移る。


「『迎撃矢』!」


 再び迎撃。

 無論、ジゼルの投げた剣を弾いた。弾いた剣は宙を舞い、放物線を描いて明後日の方向へ飛ぶ。

 次の攻撃はどう来るのか、とジゼルの走る方向を見るが、視線の先のジゼルは手に何も持たずに突貫してくるだけだ。


 何も持たず目に見える程度の俊敏性で駆けるジゼルに違和感を覚える。


 まさか殴りかかってくるわけでもあるまい。

 格闘(ステゴロ)はマティルダのSTRからしてメリットがない。


 マティルダの長所はSTRとAGI。

 逆を言えばそれ以外が短所。


 VITが低いマティルダの使用者からすれば、極力避けたい場面展開のはずだ。


 ……と、思っていた矢先、


「……ッ!」

「んな!?」


 加速した。それも、カナデに向けて真っ直ぐに。


「嘘でしょ! ステゴロ!?」

「そう……だよ!」


 ジゼルの右拳がカナデの左頬を掠める。チリッとした痛みが同時に走り、これが夢ではないことを物語る。


アンタのキャラ(マティルダ)で格闘戦は死ににきてるようなもんだよ! どうして……!?」

「殴りたかったから!」


 あらヤダ好戦的!


 だがしかしマティルダで格闘戦は無理ゲーもいいところだ。

 攻撃が当たれば怯んでその後の行動は実質不可能。当たらずとも次の攻撃へのラグが、高いAGIから生まれる慣性のせいで効きにくい。


 対してカナデの扱うキャラ、エフェストルはINTとAGIに秀でているキャラ。格闘戦を仕掛けてくるなら、逃げ回りつつ適度に矢を撃ち込めば良い。

 カナデとしては、むしろ望ましい試合展開だ。


「そんなの知ってるよ! 何度も試したからね!」

「試した!? 何を!? 格闘(これ)を!?」

「そうだよ! それでわかったの! このゲームは『攻撃を当てるだけのゲームだってね』!」



 ……

 …………

 ………………?



 何を言って……当然だろう?

 対戦格闘ゲームとは攻撃を当てて先に相手を倒すゲームだ。場面によっては火力ゲーにもコンボゲーになり得る。それがSFC……いや対戦格闘ゲームだ。


 だのに、この最強は何を言ってるんだろう?


「そう……例えば、こうやって!」


 繰り出される左拳。

 カナデは見切り左へと逸れ避ける。だが左拳に込められた力の違和感に気づき、おそらく引っ込めた右拳の拳撃が狙いなのだと見極める。


「『会心の一矢(クリティカルアーツ)』!」

「ッと……!」


 放つ矢がジゼルの肩上を通過し、ジゼルの蹌踉へと誘う。だがジゼルはマティルダ持ち前のSTRですぐさま立ち直ると、矢を放った後の無防備なカナデに肉薄する。


「くっ……!」

「セイ!」


 繰り出される右拳の突き。

 カナデの鳩尾へとモロに刺さり、生々しい感触と共にカナデは飛んだ。

 マティルダのSTRはエフェストルのVITを上回る。その場に踏みとどまって耐えることは不可能だ。


「ぐぁ……あぐ……!」


 吹き飛ばされ壁にぶつかったが、朦朧とする意識の中で歯噛む。

 歯茎から奔る痛み。鋭い自傷痛で意識を取り戻して、次の攻撃を見極めようとジゼルを見る。


 ジゼルはカナデから見て右へと逸れながら走っている。

 その手には飛び失くしたはずの一本の剣。

 恐らく走りながら拾ったのであろう剣を携え、ジゼルはカナデを見据えながら一直線に走ってくる。


 姿勢はまるで犬のよう。だが空気抵抗は少なく剣の鋒のように風を切り裂きながらの突進だ。


「ぐっ……!」


 弓を持つ手に力を込める。弓を握ると、一条の白い光が発光を始める。


 光源は弓。弓の名は『天弓パルサー』。

 世界樹の枝から鍛造され、選ばれし使用者が危機に陥ると神の雷が如き力を発揮するという設定がある神弓。

 弓の先をジゼルへと向け、ピンと張った弦を引く。


 その隙にジゼルは剣を上段に構え飛びかかる。

 上から下へと振り下ろす型だ。普通なら剣を振り下ろされる方がやや早い。


 だが間に合う。

 こっちだってゲームの中では一流だ。たとえジゼルが自分以上なのだとしても、自分に出来ることは全てやり切り抵抗する。


 最強がなんだ。アタシもプロだぞ――!


「『迎撃矢』ッッ!!」


 放った矢と振り下ろした剣がぶつかる。


 それは一瞬の時間。

 たった刹那のことだとしても、カナデの矢は見事抵抗を果たし――――そして、()()()()


「――ッ!」


 ジゼルの剣は弾かれ、身体は宙を舞ったまま。

 つまり、無防備。抵抗の術がない。

 カナデの矢は勢いの衰えを知らず、ぐんぐんと飛距離を伸ばし――脳天に命中した。


「あぐぁ……っ」


 脳天に矢が突き刺さり、体制を後ろへ崩したジゼルは、水に投げられた小石のように跳ねた。

 うつ伏せになって動かなくなったのを見て、カナデは己が偶然にも成した所業……偉業にも等しい事実に目を剥く。


「え……やった?」


 上ずる声に喜びの感情が孕む。

 腕に力を込めて立ち上がろうとするジゼルは、脳天から消える矢の痛みに慣れず、立ち上がるための力を込められない。

 立ち上がれない、ということは動かないのも同然だ。動けなければ攻撃も出来ず、つまるところ、ジゼルは詰んでいた。


「……うそ」


 嘘、ではない。カナデは勝ったのだ。

 その証拠として、ジゼルは動くことができない。立つことができない。


「は――はは、あははは!」


 笑うしかない。たまたま、偶然、巧まずして放った矢が会心の一撃となるなんて、誰が予想したのだろうか。

 だがしかし、一つの事実としてジゼルは膝をついている。これ以上にカナデの一矢を讃えるものはない。


「……ふふっ」


 だから、その笑いもカナデを讃えるものだと錯覚する。

 ゲームの中のジゼルが、巧拙でカナデを讃えるなんて幸せな幻覚だ。

 カナデとジゼルは互いに好戦者。日常の中で互いを称えることはあっても、こと戦闘中ではそうはいかない。


 貶すことはなくとも、蔑むこともなくとも、互いが互いを敵として認知している。


 それを、最初に気づくべきだった。


「やるじゃん、カナデ」


 

誤字脱字報告、感想、ブクマ待ってます!

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