運気0の水瓶攻略《2》
真っ暗な洞窟内に小さな灯りが灯る。剣と棍棒が混じり合い、火花が散って鋭い剣戟音が響く。
オークの棍棒を受け止めた剣術スキルで発生したラグにより、カナデは一瞬の隙を突かれて小さな緑肌のゴブリンに横を通り過ぎられる。
「ジゼルごめん! そっち行った!」
「りょー……かい!」
ジゼルのMP節約を主とした冒険を繰り広げる二人は、カナデが出来るだけモンスターを引きつけ、ジゼルに回ったモンスターは仕方ないのでMP消費の少ない魔法で迎撃する。
常時発動している点灯魔法【フラッシュ】で、MPをチビチビ削られているなかでのMP消費は痛いが、それでもHPを削られるよりは幾分かマシだ。
カナデがモンスターを切り終えたのを見計らって、ジゼルはカナデの元へと近づいていった。
「お疲れ様、カナデ!」
「ジゼルもお疲れ様。HPは減らなかった?」
「うん! カナデが何とかしてくれたからね!」
モンスターが来たとしても、ゴブリンやスライムが一体ずつと、弱いモンスターばかりだった。だからジゼルは安心して対処出来た。
「そ。それなら良かった……」
カナデは安心したように安堵の息を吐く。
魔法使いは遠距離、または中距離攻撃に特化した職業だ。遠くから魔法を放って撹乱するという役割を与えられている。つまり近接近で戦うことはあまり出来ず、『魔法剣士』という例外を除き、魔法職にはHPのステータスは多く割り振られない仕様になっている。
ゴブリンやスライム、オーク、コボルトといった雑魚モンスターの攻撃でも、一発でも食らえば大惨事。今のジゼルの場合は、HPバーの三割は持っていかれることだろう。
ボス戦を控えたこの状況では回復アイテムを余分に消費したくない、というのがカナデの考えだ。
「……ねぇジゼル」
「ん? 何、カナデ?」
「……これ、使う?」
「……剣?」
渡されたのは胴のような錆びた色をした剣だった。タップして剣のステータスを開いてみると、「ゴブリンの短剣」と書かれている換金アイテムだった。
「モンスタードロップしたんだよ。アタシのスキルでジゼルを守りきれないことだってあるだろうしさ。換金アイテムだけど、オブジェクト化したら護身用にはなるでしょ。ジゼルだって、その、最低限自分の身は自分で守っとかなきゃいけないし、なにより、それをジゼルが持ってた方が、何百倍も安心するし……」
「ねえカナデ、もしかしてだけどさ……」
歯切れの悪いカナデの言葉に、ジゼルは言葉を手探りで探しながら選びとる。
「あのゲームの事……まだ引きずってる?」
「……」
一瞬の沈黙。それだけでジゼルは肯定と捉えた。しかしカナデの応対は真反対のもので……
「……ま、まさかー!? もうやめたよあのゲームは! だから新しく【ZDO】を始めたんじゃん! ほら、モンスターがポップしちゃうかもだし、早く行こう!」
ジゼルは無理に元気に見せていると推測する。しかし今は追求している暇はない。早くしないと次のモンスターがリポップしてしまう。
「……引きずってないならいいけど……」
ジゼルはカナデを心配しながら、ズンズンと進むカナデに付いていった。
 




