駆逐コンビの戦闘①
「さて、指定位置に来たのはいいものの、これからどうやって壊滅させましょうかね?」
「話し合いよりも先に壊滅って単語が出てくるあたり、オメェも随分ジゼルに染められてんだなァ」
二人の男女の会話が滑らかに流れる。
くノ一装束の女と、拳闘士風の男だ。
彼らは木の影に隠れて身を潜め、これから戦闘と相成るであろう敵陣を観察していた。
彼らの観察する敵陣は、背後に断崖絶壁の岩壁があるためか、それを後ろ盾代わりに構えながら威風堂々とした出立ちである。
たしかにあの絶壁から降りるとなると、落下ダメージは確実に入る。それで責めてきた敵に大きなアドバンテージを取る寸法なのだろう。
かと言って馬鹿正直に前から責めてきたら、一人一人確実に仕留められるような切通し擬きが作られているせいで、彼らの敵方は責めあぐねることになるだろう。
一言で言ってしまえば難攻不落だ。
天然をフル活用して、何処までも狡猾に敵を嘲笑うかのような自然の要塞だ。PSが高かったとしても、地の利で負けることは必至だろう。
なるほど。戦争が始まるわけだ。
ジェネシスは声には出さずにそう思う。
おそらく彼らが陣取った側のギルドなのだろう。その証拠に、彼らの背後の断崖絶壁には、ダンジョンの入り口のような洞穴がある。
「多分、あれがダンジョンだろうなァ」
「どれです?……ああ、たしかに。アレっぽいですね。どうしましょう。あそこに陣取られている限り、私達はどうしようもないですよ」
「そこなンだよなァ……。責めても数と地の利で抑えられるだろうし、話し合うにしてもまず信用を取らなきゃならない……」
「信用を取るにしても、あれだけガチガチに固められている陣地に、簡単に足を踏み入れさせてもらえるのか、ですね。嗚呼、面倒くさい」
ぶぅ、とアヤメは項垂れる。
しかしそれも仕方ないことだ。責めるのは厳しく、交渉も難しい。見る限り、陣地を歩くプレイヤーは全員フル装備の厳戒態勢だ。どうしようもないじゃないか。
「見た感じ、あそこにいるのは精鋭ばっかかァ? いやいやアホか? マジかよ。技術も装備も一級品。中ボスクラスがうじゃうじゃいやがる。どうすりゃいいんだ」
ハァ、と吐息を溢して頭を抱える。
その隣でアヤメは、顎に手を添えて頭を回す。
「……主殿であれば、どうしたでしょうか」
「……有無を言わさず突貫だろーな。アイツは簡易的にも空を跳べるし、その気になれば空襲だって出来るだろうよォ。だが、悔しいことに、こっちは空を跳ぶにしても、一瞬しか跳べなくてなァ……」
「突貫、ですか。けどやはり、それをした場合、」
「やり返されるのはオレたちだ。本当に……めっっっっちゃ! 悔しいが! オレはアイツのレベルに届いてない。だから、その案は却下させてもらうぜ」
ジゼルと張り合える程度の男が、あの彼女が決行するであろう作戦を却下したのだ。これ以上、アヤメが意地を張る必要はない。
それよりも今は、自分のギルドの頭脳派から与えられた任務を、如何にして全うするかが問題なのだ。
「2人とも魔法は使えねェしなァ……。……いや待てよ。なんでアイツらは俺達にこの任務を任せたんだ?」
戦争場の状況はユゥリンが伝えているはずだ。それでジゼル一人をもう一つのギルドに寄越して、此方には自分達2人を寄越したのか。
考えてみれば不思議なことだった。
地形だけを見ればジゼルがいれば瞬殺も同然。それこそ絶壁の上から魔法を乱れ撃ちすれば勝利必至。
地の利を取られているとは言え、地の利を取り返せる実力を持つジゼルが1人いれば、この程度の相手は造作もないだろう。
それでもアイツら2人は、此方に自分達を寄越した。
単純に人手不足説もあるのだが、しかしそれで安易に自分達を送るバカでもあるまい。
何か秘策があって、あるいは打ち立てた布石があって、彼らが自分達を此方に送ったというのが考えられる自然な流れだろう。
そうなればそれは、自分達でも考えつくことでなければならない。『カチコミします』などと言う簡潔な一文だけで思い付く、誰もが思い付くような事柄。
「……なるほどな。そう言うことか」
「一人で何を納得しているんですか?」
「いや何。アイツらもやっぱり心は人間だったんだってな。少し安心したんだよ」
「……? どういうことです?」
「ガハハ! 俺はやること決めたぞ。オメェはどうすんだ? くノ一」
「……作戦があるなら聞きますよ」
「そうか。なら――」
今思いついた作戦をジェネシスはアヤメに伝える。
これは単純な脳細胞で考えた、理屈も論理も概要もないクソみたいな作戦だ。けれど、ここでこのくノ一が信用してくれるのであれば、おそらく成功するだろう。
「……わかりました。その作戦に乗りましょう」
「大概、オメェは信用が過剰だな」
「致し方ないでしょう。私ですもの」
そう言ってアヤメは影に姿を眩ました。
後は自分が動き始めるだけ。ジェネシスはそう思い、静かに木陰で立ち上がった。




