運気0の小戦争
真っ暗なギルドホームが空色の光で満たされる。ユーリンが広げた地球儀型ホログラフィックアイテムが、円卓の真ん中に映し出され、なんとも言えない神秘さが部屋の中に広がっていた。
円卓を囲っているのは3人。団長であるカナデと副団長であるユーリン、そしてギルド最高戦力である《最凶》のジゼルだ。
今回の説明役であるユーリンが出したアイテムに、カナデとジゼルは驚愕を露わにした。
「うわっ、すご!」
「『永久の思い出』と言うアイテムです。街の商館で売っていますよ。少し高額ではありますが」
「具体的には?」
「3が一つとゼロが6つほど」
「三百万!?」とあまりの高額に目と頭を眩ませるカナデに微笑を浮かべながら、ジゼルは本題に入るようにユーリンを促す。
「それで、見つけたって言うダンジョンの場所は?」
「場所は《夜明けの草原》。……この赤いポイントが付いているところですね。モンスターもそんなに強くないのですが……これが厄介なことになっていましてね」
「厄介なこと?」
ジゼルは思ったことを素直に口に出す。
ユーリンもそれに頷いて、事情を説明する。
「はい。簡潔に言うと――戦争が起きています」
カナデは表情を消して問うた。
「――戦争? どういうこと?」
「大手のギルド員と思われるプレイヤーがキャンプを引いていたんですよ。それ自体マナー違反で注意されるべき行いなのですが……それに触発されたもう一つのギルドが痺れを切らしたらしく襲撃を仕掛けたらしいのです。そしたら「よくもウチの団員を!」と他のギルド員が出張ってきたらしく、そのまま流れるままに小戦争に発展しまして……」
「ふぅん」
カナデは興味なさそうに頷いた。いや、興味はあるのだろう。ジゼルは隣の金髪少女を見る。口角が上がっていた。元々FPSプレイヤーと言うのも相まって、奇襲戦、電撃戦と言う言葉が好きだった。
ジゼルはクツクツと喉奥で楽しそうに笑うカナデに苦笑する。これは一悶着ありそうだな……、と内心で思いながらも、カナデと一緒なら楽しそうだなとも思う。
「じゃあわたし達はどうしよっか? どちらかに加担するも良し。第三勢力として参加するも良し。静観するも良し」
「うーん。正直なところ静観してたいんだけどさぁ。どっちも潰せるんだったら潰しておきたいよねぇ」
「うわぁ、たまに見る悪い笑顔」
カナデがこの顔をする時は大体、自分達に損害がでないような立ち回りして、最悪の場合相手を全滅させる程度には知恵を回している時だ。ストラテジーゲームでやられたことがある。
戦略においてはジゼルよりもカナデの方が何枚も上手だ。カナデが出来ると言うのであれば、おそらく出来るのだろう。それにジゼルは全幅の信頼を置いている。
「カナデ。出来るの?」
「……うん。もちのろん! なんならジゼルだけいれば壊滅まで持っていけるよ!」
「……わたし頼りの戦略かぁ」
「ジゼルにはそれだけの力があるってこと!」
「そうですね。ジゼルさんの力はもはや、個々人の領域ではありません。戦略級と言っても過言ではないでしょう」
「うわぁすごいプレッシャー……。わかったよ。なにをやればいいの?」
「さすがジゼル! えっとね。まず何をやるか説明する前に、ここの地理を教えとかなきゃね」
そう言ったカナデは満面の笑みを浮かべていた。この世界のアバターは現実のものではないとは言え、やはり操っている人が本人だからか面影がある。
その横顔を見てふわりと笑うジゼル。ユーリンは二人の様子にただならぬものを感じ取ったのか、ピシリと体を硬直させて、カナデの作戦を聞いていた。




