運気0のストーリー攻略
翌日。昨日のモンスポとは違う場所で、アイテム集めの狩りをするついでにレベリングもして、精神的にヘトヘトになった帰り。
カナデに案内されて気に入った例のカフェでお茶をしている時、カナデが話を振り出した。
「そろそろジゼルも戦いに慣れてきたことだし、今日から【ZDO】本来のメインストーリーを進めたいと思います」
「メインストーリー?」
「そう! この【ZDO】の世界には自由にキャラ育成をして運営からのイベントに参加するだけではなく、イベントをクリアしてストーリーを進めていくという要素もあるのだよ! この自由度の高い世界では12個のダンジョンがあってね!? ダンジョン自体のレベルは高くはないんだけどボス戦では苦戦したって言う情報がネットの掲示板で沢山載っててさー! しかもクリア報酬は謎のスキルを貰えるみたいで……」
興奮して長々と説明し始めるカナデを置いておいて【ZDO】のパッケージ裏には、十二の迷宮を攻略せよ! と大々と色付きの太文字で書かれていたのを思い出す。きっとアレのことだろう。
それはきっとRPG本来の楽しみ方でもあり、少なくともジゼルの中には「攻略を始めない」という選択肢はなかった。
「なにそれ面白そう! 行こうよ行こう!?」
「ふっふっふ。焦るでないぞジゼル君……この十二の迷宮の元ネタを知らないと、攻略の難易度が高くなってくるのだよ……」
「元ネタ?」
「十二の迷宮は、何を隠そう黄道の星座の神話を元にして出来てるんだよ。迷宮によってモチーフがあって、迷宮攻略のたびに装備を変えなくちゃならないの」
「なんで? いつもの装備で回復アイテムを大量に持っていけばいいんじゃないの?」
ジゼルは理解できないと首を傾げる。ジゼルの言葉にカナデは呆れながらも、簡単な説明を心がける。
「いい? 迷宮には多くの罠があるし、大量のモンスタースポットがあるの。それでここから一番近い『水瓶座』の迷宮はギミックが多いって聞いたの。今日はそこに行こうと思ってるんだけど、そのためにはギミックに対抗する手段を持ってかなきゃいけない。ここまでわかった?」
「う、うん」
ジゼルは小さくコクリと頷く。後半になるにつれて早くなっていく口調からなる説明に、付いていくので精一杯だ。つまり理解は出来ていない。
「それで押し戻しが多くて進みにくいって聞いたから、圧に対抗する手段を持っていこうと思います。さて、それはなんでしょう!?」
「……へ? ええっと、ダム?」
ビシッ! と指を差されて振られたジゼルは慌てて考えるが、流石に可笑しい答えを答えてしまった。
「ぶー! 残念! ……ダムなんてどうやって持ってくのよ……」
カナデは呆れてため息を吐く。半透明のパネルを指先で操作して、古びたフードの付いた袖付きのワンピースのような服をオブジェクト化する。
「正解は魔法のローブでした!」
「魔法のろーぶ……」
「ローブを知らないか……」
頭の上に三つほど「?」を立てるジゼルを見て、カナデは右手を頭に当てて空を見る。今日は呆れさせてばかりだ。なんだか申し訳ない気持ちになってくる。
「まあいいや。これをジゼルに託します。私の分はあるから。代金は要りません。その代わり魔法の援護をお願いよろしく!」
オブジェクト化したままの魔法のろーぶを受け取ったジゼルは、布生地をタップして能力値を確認する。
【抵抗のローブ】DEX+13
正面から受けるギミックによる圧力を10%軽減する。【KANADE】が露天商から買ったボロボロのローブ。魔力によって編まれているが、どうやら使い古されているようだ……
「……う、うん! 任せて!」
二人は椅子から立ち上がって、各々飲み終わったカップをテーブルに置いて、迷宮攻略へと赴いた。