運気0の現実世界
自然月花。それがジゼルのリアルネームだ。
取り立てて特徴のある顔ではないが、154cmの小柄な身長と愛らしいルックスで性格も良好。老若男女問わずに誰からも愛される、月花の周りの人達からしたらアイドルのような存在だ。
性格も良好、努力家で勉強家で、コミュニケーション能力も高くて責任感も強く、男子からしてみれば理想的すぎる人物像。疎み妬みも少なからずあった。イジメもかなり酷いものだった。それらを彼女は穏やかに笑って飛ばしてみせた。
そんな絶対のヒロイン染みた彼女には、周りの人達には語られていない最大の欠点が存在する。それは彼女が『運気0の極度の不幸体質』だということだ。
外を歩けば鳥のフンを頭に落とされ、ベッドで寝ていれば必ず頭をぶつけて寝違えて、小骨がないと言われて食べた魚の小骨を喉につっかえて、自販機で飲み物を買おうとすれば小銭を落として自販機の下へ……
月花の不幸話をすべて出そうとしたらキリがない。
努力で積み上げた実績は月花の味方をしてくれるが、逆に努力ではない……幸運でしか手に入らないものは、すべて月花から遠ざかっていくのだ。
なんと不遇な少女だろう……。今回のモンスポ大量発生事件を思い返しながらカナデはZDOのスレが立てられているネット掲示板を、あちらへこちらへとサーフィンする。
「うーん……やっぱジゼル――ううん、月花の方が剣は似合うと思うんだけどなあ……」
少し昔にやっていたとあるゲームをふと思い出して呟く。ゲームのソフトやパッケージが大量に仕舞われている箱の中から、月花を誘って始めた対戦アクションゲームのパッケージを取り出す。
真っ赤な炎を背景に、格闘家の男の人や女の人が、拳を構えたり蹴りを繰り出したりアッパーのポージングをしているパッケージを眺める。
「文字通りの最強になったんだもんね……」
しかしジゼルはZDOでは魔法職を選んだ。だからカナデは剣を握った。本来なら弓を得意としているカナデが、だ。
友達思いなのか、はたまたゲームを遠距離職だけで不利に進めたくないからか。
剣士カナデは――佐藤花奏は、自分のアイデンティティとなりつつある丸い眼鏡を掛け直す。
「さってと……苦手な武器を上手く使いこなすには……と」
カタカタとキーボードに文字を打ち込む。
魔法使いに憧れた最強の剣闘士を守るため、剣を握った弓士は剣の扱い方を模索し始めた。