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剣士主従のリベンジマッチ《前編》

「ふわぁあああ!?」


 ポーンっとゲートから放り出されたジゼルは、闘技場前に転がった。そしてフェイススクリーンに『闘技場に入場しますか?』と書かれているボタンを見つけた。赤いYESボタンを押して、足元に現れたゲートホールの中へと再び落とされる。


「えっ」


 転落。どんどん下へと落ち進んで行く。


「うわぁああああ!?」


 もっと良い方法での入場方法はなかったのだろうか。そう思ったが口には出さない……というよりも出せなかった。


 高所恐怖症になりそうなくらいに、空中に放り出されている身である。疲労がどんどん溜まって行く。

 ぺいっと再び放り出されたのは、イベント中にすっかり見慣れてしまった待機室。何も置いてはいない簡素な石室。此処にはいれたということは、時間には間に合ったと言うことだろう。


 フェイススクリーンの時間を見てみる。『0:13』の3文字が確認できた。つまりあと13秒で始まると言うことである。


「ええぇ……」


 疲れているんだから少し休ませて欲しいところだ。しかし時間は押している。はぁ……、とため息を吐いて剣を取り出す。刀身はポッキリと折れていた。


「……あっ」


 そういえば折ったんだった……、ガックリと肩を落として頭を抱える。正直なところ、剣が無ければ勝てる見込みなんて一つも存在しない。素手で戦えと?


 ベスト8まで来たんだから、もうこれでいいかな……負けてもいいかな……、そう思っていたのも束の間、次の対戦者の顔を思い出した。


 第一回イベントでジゼルが真正面から叩き潰した刀使いの少女。くノ一のような身のこなしで、忍者のような武器を扱い、技術ならジゼルの足元には及びそうな剣術使い。


 自分との再戦を望む少女の顔を思い出して、自分はまだ戦わなきゃいけないんだ……! と感情を奮い立たせ気持ちを入れ替える。


 そしてジゼルの体は青い光に包まれて転移させられた。


 転移する時の浮遊感がジゼルを包み、しばらくすると地に足ついた感覚が足の触覚を突いた。目を開くとくノ一のような格好をした自称従者が。


「主殿!」


 パッと花開く笑顔で此方に手を振るアヤメ。


 気持ちを入れ替えたとは言え、今まで使ってきた剣が折れたショックは無くならないらしい。にこやかな笑いをすることが出来ないジゼルは、ニゴリとした苦笑いで返した。


 『10』から始まるカウントダウン。ジゼルは折れた剣を片手で掴み、アヤメは意気揚々と愛刀の柄に手をかける。


「主殿、あの時のお礼はさせてもらうぞ!」

「……やるか」


 アヤメは刀を背後に回し、刀剣スキル『光芒』の構えを取る。ジゼルは一度見たことがある。脚力に筋力パラメータを一点集中して溜め込み、一気に解き放つことで超高速移動を可能とし、相手の懐に入り込んで斬り飛ばすノックバックスキルだ。

 ジゼルは前方で片刃の剣を水平にして構え、左足で右足を支えながら防御の姿勢を取る。刀剣スキルを持たないジゼルは、まず防御の構えを取るしか次に繋ぐ方法がない。



 カウントダウンが『0』になる。



「『光芒』!」


 ドンッ! と轟音がコロシアムに響き、気がつくとアヤメか猫のように背を丸めた形でジゼルの懐に入り込んでいた。


「はやッ!?」

「――『流転』」


 『光芒』のシステムアシストによる超高速移動を中断し、懐に入り込んだまま次のスキルへと繋いだ。刀を携えたまま一回転し、まるで滝登りをするコイのように刀を斬り上げた。


「くっ――」


 あと数ミリ動かせば当たってしまいそうな距離スレスレを刀が通過するが、なんとか避けることが成功した。


 ジゼルはよろめきながら今の攻撃を考察する。


 『光芒』は単発発動スキル。超高速移動をした後に、一回転をして上段斬りを繰り出すようなユーモア溢れるオモシロスキルなどではない。それに懐まで詰めてきた時に呟かれた単語。『流転』と言う単語。これらから察するに――


「スキルを繋げた……ってこと?」

「流石は主殿。今の攻撃だけで本質を見破りましたか」

「まったく嬉しくない情報だけどね!」


 スキルを繋げるなんて能力は、この世界には存在しない。つまりシステム外スキル――プレイヤーの技量と言うことだ。


「なるほど」


 考えもしなかったが、そんな方法もあるわけだ。そもそも剣術スキルを持っていないジゼルは、この知識を持っていても意味を為さないわけではあるが。


 しかしどんな知識であっても応用は通用する。


「良いこと知った」


 ――ジゼルの雰囲気が妖艶に変わる。


 再三説明することになるが、ジゼルは応用の天才――奇天烈な剣術を我流で扱う剣士である。

 ふふっ、と艶やかに笑って、刹那の内に広げた思考の世界から帰還したジゼルは、目を赤く染まらせた。過負荷状態オーバーロード……ジゼルの本気モードである。


「試す価値はある。けど――」


 ジゼルは手に持った片刃の剣を見る。これで試すには、少し荷が重いだろう。実験には使えない。今回は実験出来そうにないな。


 前を向いてアヤメ見る。スキル発動後の硬直から解放されたアヤメは、刀を構えて再び自分に肉薄しようとしている。


 ――霽月(あれ)を奪うのは心苦しい。


 霽月はアヤメの愛刀であるが故に、一応剣士であるジゼルにも愛着のある剣が奪われる苦しみが分かる。あれを奪うのはやめておきたいところだ。


 あっ……


「……ッ!?」


 ぐんっと体を動かしてアヤメの腰ポケットからとある物を掠め盗り、アヤメの背後で止まったジゼルは、黒くて硬い両刃の短剣を確認する。


「いつの間に!?」

「――うん。良いかも」


 奪ったのはクナイだ。クナイは手裏剣の一種でありつつも、投擲用の剣である。

 古来より忍者が使っていたとされる、暗殺道具であり体術武器。漢字では『苦無』と書かれており、大きな物は『大苦無』、小さな物は『小苦無』、投擲用のさらに小さな物は『飛苦無』と呼ばれている。


 ここはゲームの世界。投擲に必要なパラメータは、完全に数値制であり、投げる予備動作や重さは筋力パラメータに偏る。


 大きさ、形、強度。一通りクナイを確認し終わったジゼルは満足気に頷いて振り向く。


「よし、ろうアヤメ」


 ジゼルの表情を見てアヤメは固まる。先程まで剣が折れたショックで笑えていなかったジゼルは、此処に来てようやくにこりと笑った。



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