運気0の敗北後
「あはは〜。手酷くやられたね〜私達」
「……そうだね」
穏やかに言うジゼルとは対照的に、俯いて悔しそうに震えるカナデ。負けて悔しいと思うのは、ゲーマーの性だ。そして根っからのゲーマーであるカナデのそれも、紛れもないそれであり……
「ブリーフィングをしよう!」
感情が暴走し始めた。
「ブリーフィング?……え、またあそこに挑戦にする気!?」
「当然よ! やられっぱなしじゃ悔しいじゃない!」
「いやいや! 私の魔法じゃ無理だから!」
「ならSPを貯めよう! モンスター狩って貯めまくろう!」
「一朝一夕で出来るものじゃないからね!?」
SPはモンスターを討伐することによって溜まっていく仕様になっている。レベルが低い時は貯めやすいが、レベルが上がっていくごとに手に入れ難くなっていく。
今のジゼルのレベルは3。貯めやすいが、モンスターを一気に相手取るツラさは今知った。
勝てる気がしねぇ……というヤツである。
「いや無理無理! やめよう? 討伐は他の人に任せよう!?」
「ダメ! あのカマキリ達は絶対にアタシ達で殺る!」
「無茶するのはダメ! 絶対ダメー!」
ジゼルの必死の説得により、ようやくカナデは正気を取り戻した。ジゼルはあの気持ち悪い光景を見たくなかったのである。
「……なんか私、子供っぽかったかも。ごめん」
ジゼルはカナデの謝罪を受け、先程カナデに言われた言葉をそっくりそのまま返してあげる。
「いいよいいよ。よくあることだから」
「……どーゆー意味よ〜」
半眼になって上目遣いで睨むカナデ。元気っ子キャラの間から少しだけ素が出ているが気にしない。やはり流石に『よくあること』は盛りすぎたか。
「それよりこれからどうする? 時間はまだ少し残ってるよ?」
「うーん……じゃあお茶でもしよっか。ジゼルが好きそうなカフェを見つけておいたよ」
「本当!?」
カナデに案内されるままに付いていくと、葉で覆われた幻想的なお店へと案内された。人がおらず、静かな空間を独占をしている感じは、ジゼルは大好きだ。
カナデはコーヒーを、ジゼルはカフェ・オ・レを頼むと、すぐに渋い鈍色のカップに注がれた飲料が運ばれてきた。
「はやっ」
「リアルじゃないからね〜。ウェイトレスさんもAIが動かしてるから、すごい機械的で出てくるのが早いんだよ。その分話しながら食べる時間が増えるのが、VR飲食店の良いところ」
「へえ〜」
ジゼルが感心したように言うと、満足したのかカナデはコーヒーを啜る。ジゼルも恐る恐るといった感じでカフェ・オ・レを啜る。
「うん、美味しい」
「カフェオレも美味しい!」
「食べ物も頼んじゃおっか」
「いいね!」
そのあとに頼んだオムライスとパスタも、早く出てきたことにジゼルは心底驚いた。VRの中では満腹ゲージなるものがあるとは言え、いくら食べても太らないというのは群を抜いて良いことだ。